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『いだてん』革新的大河ドラマの幕開け! 役所広司が切り拓いたオリンピックへの第1歩

リアルサウンド

19/1/7(月) 16:00

 大河ドラマ 『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)』(NHK総合)は、1912年に日本で初めてストックホルムオリンピックに参加した男・金栗四三(中村勘九郎)と、1964年に東京オリンピックを招致した男・田畑政治(阿部サダヲ)を主人公に、オリンピックに携わる人々、出来事が時代を超えてテンポ良く交錯するドラマである。

参考:クドカン率いる『あまちゃん』チームが再集結! 『いだてん』落語を通した“笑い”の視点

 第1回では、日本スポーツの父と呼ばれる嘉納治五郎(役所広司)が、日本のオリンピック初参加を実現するために奮闘する回となった。

 嘉納はどっしりとしたスーツ姿に立派なヒゲを蓄え、恰幅のよさが伝わる見た目なのだが、役所の目からはどこか少年のような雰囲気が感じられる。

 講道館柔道の創始者であり、東京高等師範学校校長などを務める嘉納。劇中、柔道の稽古をつけているシーンでは、武道の心を重んじる凛とした雰囲気に満ちていた。肩書きやその姿勢から、いかにも重鎮といった雰囲気が漂っているが、”平和の祭典”であるオリンピックの精神に惹かれた嘉納の表情からは、スポーツを愛する純粋な心がひしひしと伝わってくる。駐日フランス大使にオリンピックへの参加を打診されるシーンでは、フランス大使の言葉と通訳の言葉を交互に聞くうちに、目を輝かせ、イキイキとした表情へと変化していく役所の姿が印象的だった。

 嘉納の表情や纏う雰囲気が、関わる人々によって柔軟に変化することで、人々のオリンピックに対するさまざまな意見が伝わってくるのもよい。

 ストックホルムオリンピックに参加するために動き出した嘉納は、欧米で体育事情を調査した永井道明(杉本哲太)に協力を仰ぐ。しかし永井は「日本人にオリンピックは無理だ!」とオリンピック参加に否定的だ。そんな永井に対して「勝ち負けではなく、参加することに意義がある」と嘉納は強く言い切る。

 一方で、スポーツ同好会「天狗倶楽部」との初対面では「スポーツは道楽じゃないんだぞ」と苦い表情を見せる。「礼に始まり、礼に終わる」と言われる武道の精神をもった嘉納にとって、「天狗倶楽部」はただの飲んだくれにしか映らなかった。嘉納の「天狗倶楽部」の面々に対する反応からは、当時、異端児扱いされていた彼らの姿が想像できる。

 嘉納の人々への関わり方を通じて、当時の時代背景やオリンピックに対する意識の差を垣間見せていく。現在の我々にとって当たり前となっているオリンピックも、ワールドカップも、駅伝大会も、第1回の舞台となった1909年には“当たり前”ではないのだ。そんな中、嘉納の意見がどれだけ革新的であったことか。

 劇中、嘉納は諸々の事情で、オリンピック参加を辞退しようとする。しかし駐日仏大使が持ってきたストックホルムオリンピックのポスターに日本国旗を見つけると、興奮したように指を指す。世界の国旗の中に描かれた日本国旗を見つめる嘉納。じっと日の丸を見つめた嘉納は、「on va s’abstenir.(辞退します)」という言葉を飲み込み、これまでにない明るい表情で参加を表明する。駐日仏大使の手を力強く握り、「オリンピックと柔道の精神は通じる。スポーツで国際的に交わることは、世界平和の実現に役立つでしょう」と話すこの一連のシーンに感極まった視聴者も多いのではないだろうか。“平和の祭典”に日本が参加する。参加することに意義がある。それを強く感じさせる納得の演技だった。

 劇終盤、オリンピック参加者を募る大運動会で、嘉納は『いだてん』の主人公・金栗四三と出会う。落伍者が続出する壮絶なマラソンで、ゴールに駆け込んできた四三を見つけた嘉納は、満面の笑みでこう発する。

「いだてんだ!」

 日本オリンピックの父・嘉納が“いだてん”と出会うところから始まる第1回。嘉納のオリンピック初参加への奮闘と、四三の登場を最後にする演出によって、視聴者は明治時代から始まる壮大なこの物語に引き込まれていったのではないだろうか。

 1959年と1909年が交錯する編集、出演者たちの畳み掛けるようなセリフのやり取り、映画2本分と言ってもいいほどの豪華キャスト……これまでにない新しい大河ドラマの幕が開けた。(片山香帆)

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