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ヤバいのは生物か飼い主か? 『ちゃんねる鰐のヤバい爬虫類・両生類図鑑』レビュー

リアルサウンド

20/4/19(日) 12:00

 「ピラニアに金魚20匹を与える」という動画が170万回再生以上とバズり、現在もっともチャンネル内で再生されているのは、済み代え中に水槽から出しておいたバジェットガエルが怒って鳴き始めたので撮影してみただけの「バジェットガエルがまた怒ってる」(660万回再生!)――という1991年生まれのYouTuberちゃんねる鰐による生物図鑑『ちゃんねる鰐のヤバい爬虫類・両生類図鑑』が刊行された。

参考:人気YouTuber そわんわん&とどろん、なぜ好感を持てる? 正反対なふたりの共通点

 ちゃんねる鰐は、トカゲやヘビ、カメ、ワニ、カエル、カニ、クモ、モモンガ、ゴキブリ――それも普通の意味できれいな種類というより不気味さ、グロテスクさを感じさせる種類の(時に危険な)生きものを自宅で飼育し、動画でその魅力を発信している。

 この図鑑は、彼が飼育している生物の数々をまとめて紹介したものである。ただし、図鑑と言ってもルビは振られていない。つまり小学生向けではなく少なくとも中高生以上向けということになる。

 多くの生物図鑑は客観的・科学的な分類に基づいて書かれているが、この図鑑はきわめて主観的・趣味的なものだ。類書をあげれば生物好きのVTuberのカルロ・ピノがくだけた調子で書いた虫・生物本『ぴのらぼ おいしい虫さんたち みんなでやりたい虫クイズ』『ぴのらぼ 絶対に見つからないいきものさん 隠れているやつらを見つけだせ!』が比較的近い。

悪趣味(バッドテイスト)に見えるがまったく煽らずフラットに「かっこいいっすねえ」
 この図鑑やYouTubeチャンネルに出てくるトカゲやヘビを「触れ」と言われて渡されたら、おそらく多くの人は「ギャー!」とか叫んでしまうだろう。

 ところがちゃんねる鰐の動画はいつもとぼけたトーンの音楽がバックに流れ、飼育している当人は『渡辺篤史の建もの探訪』(テレビ朝日)に出ているときの渡辺篤史のように低音ボイスでカメレオンやサラマンダーを見ながら「いいですねえ」「かっこいいですねえ」と静かに感嘆する。テンションが上がってもせいぜい「めちゃめちゃきれい」「エモくないですか?」「……ヤバい」と言うくらいである。コラボ動画でほかの飼育者と共演して他人のペット(ムカデやトカゲ、イモリなど)を見て語るときも、まるで立派な家具やオブジェを語るように「いい色ですねえ」「美しい」と漏らし、平然とヘビを自分の身体に巻き付けたり、「エサは何あげてるんですか? ゴキブリですか」と訊いたりする(爬虫類好きはエサとしてゴキブリを飼育していることが多く、最初は嫌悪感があってもだんだん慣れてくるらしい)。普通の人が犬や猫を飼ったり、飼っている人と話すときと変わりない感じで接するだけだ。

 一般的なYouTuberのパブリックイメージからすると悪趣味、露悪趣味に「ヤバいでしょ」と煽ったり叫びまくってもおかしくないのに、ちゃんねる鰐のスタンスはフラットだ。さすがに東南アジアで生きている虎を触りながら写真を撮っているときは若干ビビった表情を見せていたが、それ以外のときはいたって冷静だ。体温や血圧が低そうなトーンを崩さず、しかし、語っている言葉だけ聴くと「めちゃめちゃいいですねえ」「おもしろい」と言いまくっている。このギャップがおもしろい。

 ちゃんねる鰐は全然ビビったり煽ったりせず、そう接するのがさも当たり前であるかのように一貫して振る舞っているので、だんだんこちらも見慣れて「たしかにかわいく見えるところもあるなあ」と思ってきてしまう(とはいえ個人的には爬虫類・両生類は見ていると慣れるが、ワラジムシやダンゴムシといった虫系はムリ……)。

■飼育者目線に徹した生物図鑑

 本書は、基本的に出てくる生きものが野生でどう生活しているのかかという話よりも、飼育者目線で書かれているのが最大の特徴だ。

 登場するすべての生きものに「飼育難易度chart」が設定され、購入価格の相場や「飼い方のPOINT」が書かれている。意外に知らない「ツノガエルは牙があって噛む力が強いので噛まれると流血は必至」といった情報はたとえ飼う気がなくても読んでいておもしろい。著者は約80種類の生きものを飼っているが実は1カ月に合計10万円くらいしかかかっていないというのも驚きだ。

 「小さいころからゴジラが大好きで、いつか真っ黒のトカゲを飼いたかった」「アズマヒキガエルは口を開けて下を伸ばすときのベロン! という高音が特徴的で、これを聴きたいから飼っている」など、鰐独特の感性に基づくフェティッシュな飼育理由も語られている。そのうちいくらかは動画でも語られていたものではあるものの、文字で読むと「動画ではさも当たり前のことのように本人がしゃべってるから『そういうものか』と思われされそうになってたけど、たいがいおかしい」という気に改めてさせられる。

 こんなお役立ち情報満載であり、100日で死んだワニより命の大切さや生物多様性の重要さを教えてくれるかもしれない1冊になっているのだが、小学生がこれを読んで「飼いたい!」と親にねだったらきっと大変なことになる。ルビを振らずに小学生に読まれにくい仕様にしたことはおそらく全国の保護者にとって幸いだったことだろう。

 悪い大人のみなさんは間違っても休校中で手持ち無沙汰な子どもに与えて読み聞かせしたりしてはいけません。いいですね? 絶対だぞ!(飯田一史)

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