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香川照之、市川猿之助、尾上松也、片岡愛之助 『半沢直樹』に送り込まれた歌舞伎界の“刺客”たち

リアルサウンド

20/7/26(日) 6:00

「施されたら施し返す……恩返しです!」

参考:半沢が光秀で大和田が信長!? 『半沢直樹』はビジネス版戦国大河として楽しもう

 「どうした大和田常務(香川照之)、日本昔ばなしか?」と、序盤からツッコミを入れつつ観た『半沢直樹』(TBS系)。7年ぶりにクセのある男たちが日曜の夜に帰ってきた。

 前作で東京中央銀行内の不正を暴くも、子会社・東京セントラル証券への出向を命じられた半沢直樹(堺雅人)。新しい職場でも数々のトラブルと魑魅魍魎たちが半沢を襲う。どうやら今回のラスボスは東京中央銀行・副頭取の三笠洋一郎(古田新太)と同行証券営業部・部長の伊佐山泰二(市川猿之助)らしいのだが、一見味方に見えてじつは敵……が当たり前の金融業界。敵はどこに潜んでいるかわからない。

 日曜劇場のお約束と言えば「男性向けのお仕事ドラマ」。平日の民放各局がアラサーからアラフォーの女性たちを主人公にしたお仕事ドラマをプッシュする中、TBSのこの枠は『半沢直樹』7年前の大ヒットからずっとブレない。ビジネスマンたちは12時間後に始まる自らの戦いに向け、画面の向こうの半沢からエネルギーをもらうのである。

 そういう色彩のドラマだからこそ、出演者もR35×手練れの俳優が山盛りだ。中でも存在感を示すのが舞台出身、特に歌舞伎界から送り込まれた“刺客”たち。今回の『半沢直樹』にも4人の“刺客”が仕込まれている。

 まずは日曜劇場“顔芸”の始祖、東京中央銀行・大和田常務を演じる香川照之。歌舞伎の舞台では市川中車(いちかわ・ちゅうしゃ)の名で舞台に立つ。ご存知の通り、香川は子供の頃から歌舞伎俳優として活動していたわけではない。その大きな原因は両親の離婚。父である三代目・市川猿之助とは幼い頃に別離し、女優である母のもとで育てられた。

 映像の世界で活躍していた香川が梨園に足を踏み入れたのは45歳を過ぎてから。幼い時分に稽古をスタートさせる歌舞伎の世界でこれは異例中の異例だ。そんな香川の状況を歌舞伎の現場で強く支えたのが伊佐山役の四代目・市川猿之助。じつはこのふたり、いとこ同士である。

 香川の実父・三代目 市川猿之助(現・市川猿翁)から名前と長きにわたり上演してきた「スーパー歌舞伎」を継承した市川猿之助(四代目)。『半沢直樹』で彼が演じる伊佐山は大和田常務の愛弟子から副頭取・三笠へと鞍替えし、大和田を見下し嘲笑する三笠に追従する腹黒男だ。

 猿之助の伊佐山は濃い顔芸に加え、時に口調がべらんめえになるのが面白い。第1話冒頭、半沢への恨みを吐く長ぜりふは、まるで舞台での語りのようだった。今後、伊佐山の動きがストーリーに多大な影響を及ぼすことは間違いないのだが、このまま副頭取・三笠の子飼いとして上を目指すのか、それともじつは大和田への忠誠心は消えておらず、三笠の懐に入ったふりで好機を狙っているのか気になるところ。後者であれば大和田との涙の顔芸和解もありそうだ。

 歌舞伎界からの“刺客”3人目は尾上松也。東京中央銀行と東京セントラル証券とがIT企業・スパイラル買収を巡って小競り合いをする中、渦中のカリスマ社長・瀬名洋介を演じる。

 多くの若手~中堅の歌舞伎俳優と同じく、松也も自主公演や外部舞台への参加、映像出演を積極的にこなす役者のひとりだ。特にミュージカルでは歌舞伎界きっての活躍ぶりで『エリザベート』では元スパイラル・加納役の井上芳雄と暗殺者と黄泉の帝王として共演し、山崎育三郎、城田優とは「IMY」というユニットを立ち上げ、オリジナルミュージカルを上演したいと語る。

 瀬名はセントラル証券のプロパー社員・森山(賀来賢人)の元同級生という役どころ。半沢が「1回すれ違っただけだが印象に残る」と語った特徴的な眉毛を活かし、兄さんたちに混ざってどんな顔芸を繰り出すのかも注目だ。

 そして大トリは金融庁検査局・黒崎駿一役の片岡愛之助。前作に引き続き、あの特徴的な口調で作品に多大なインパクトを与えるのは間違いない。

 歌舞伎の世界での愛之助の経歴もある意味、突き抜けている。製造業を営む両親に育てられ、子役として活動するうちに二代目・片岡秀太郎の養子となって片岡愛之助を襲名。歌舞伎の舞台で活躍しながら、大河ドラマ、朝ドラに加えて『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京系)まで映像での演技の幅は無限大だ。黒崎の真面目にやればやるほど面白いあのキャラクターのバージョンアップにも期待したい。

 大河以外でこれほど歌舞伎俳優が出演するドラマは『半沢直樹』だけである。その1番の理由は「作品全体の熱量の高さ」だろう。通常の150%のテンションで進行する俳優たちの演技合戦。一瞬でデフォルメした芝居を成立させ、尚且つドラマ全体に漂う時代劇感を具現化するのに歌舞伎俳優の存在は欠かせない。

 アップ多用の画面で、彼らが顔芸を駆使して決めぜりふを語るたび、私たちは画面に向かって心の中で叫ぶのだ。

「よっ、待ってました、半沢屋!」

(上村由紀子)

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