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ジャッキー・チェンはいつだって“何か”を仕掛けてくる! 『ザ・フォーリナー』は新たな代表作に

リアルサウンド

19/5/19(日) 10:00

 アクション映画界の生きる伝説ことジャッキー・チェン。ここ日本ではレコードを出し、テレビでTOKIOやウッチャンと対決するなど、お茶の間でも広く人気を博した男である。もちろん日本だけではない。ガラスと見れば突っ込み、高い所から落ちまくり、あらゆる乗り物からブラ下がる。彼が見せた命がけのスタントは世界中の人々を熱狂させ、世界中に大きな影響を残している。今でも高いビルを見ると「ジャッキーなら、こう滑り落ちるな」と反射的に考えてしまう人間も多いという(同じ症状で「ゴジラなら、あそこをこうブッ壊すだろうなぁ」と考える例もある)。

参考:ピアース・ブロスナンがジャッキー・チェンとの共演語る 『ザ・フォーリナー』インタビュー映像

 そんなジャッキーであるが、気がつけば御年65歳。アクションスターとしての肉体的限界はとっくの昔に超えており、(恐らく)世界で一番有名な中国人でもあるせいか、政治的な部分でも制限が増えており、近年は色々な意味で受け止めるのが難しい映画が多かった。古代の巻物を手に「こうした文化財は大切にするべき」と悪党を叱り飛ばした直後、その巻物を放り投げて悪党と格闘を繰り広げ、最終的に敵味方関係なく踊って終わる『カンフー・ヨガ』(2017年)を観たとき、「ジャッキー、俺たちは遠くへ来すぎたよ……」と困惑したものだ。ただ、この映画は彼の息子が大麻で捕まった直後の作品であり、落ち込んだ奥さんが「この映画に出てほしい」と推薦したという。そう思うと味わい深いものがある。また、彼の65歳という年齢を冷静に捉え直す必要もある。東野圭吾原作の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』が中国で映画化されたとき、彼は雑貨屋の店主役を演じていた。この役は日本の映画版だと西田敏行が演じていた役である。つまり、今のジャッキー=西田敏行だ。西田敏行にヘリからブラ下がれと期待するのは、さすがに酷だと思う(※西田敏行は71歳)。

 話を西田敏行からジャッキーに戻そう。まさに人生の酸いも甘いも味わってきたジャッキーだが、ここに来て新たな代表作をモノにした。現在絶賛公開中の『ザ・フォーリナー/復讐者』(2017年)』である。娘を爆弾テロで失った元特殊部隊の男が、あの手この手で巨悪を追い詰めていく……と、物語こそシンプルだが、本作は近年のジャッキー映画でも屈指の……もしかすると、キャリア史上に残る1本に仕上がっている。特に演技の面においては、間違いなくトップレベルに入るだろう。

 実際、本作はアクションシーンの尺が明らかに短い(ただし殺す気満々の格闘は緊張感もあって大満足!)。この映画は間違いなくジャッキーの「アクション」ではなく、「芝居」を見せることに重きが置かれている。ヨボヨボと効果音が聞こえてきそうな後ろ姿や、愛する娘に接するときの優し気な、それでいて陰のある笑顔。そして悪党を見つめる感情を失った目、焼けたナイフを傷に押し付ける姿の痛々しさ。笑顔で若々しい“いつものジャッキー”を知っていればいるほど、その姿から目が離せないはずだ。間違いなく新境地といえるだろう。

 ここでジャッキーのキャリアをザックリ振り返ってみよう。ジャッキーがこうしたシリアス路線にチャレンジするのは、本作が初めてではない。本格的にコメディ路線を打ち出す前のキャリア初期や、伝説の超大物ジミー・ウォング先輩に“借り”を返すために出た『炎の大捜査線』(1991年)以外にも、自主的にシリアス路線の作品に出ている。サモ・ハンと兄弟役を演じた『ファースト・ミッション』(1985年)のホロ苦い結末や、犯罪アクションの傑作『野獣特捜隊』(1995年)を手がけたカーク・ウォン監督と組んだ『新ポリス・ストーリー』(1993年)も忘れ難い。ただ、こうした80~90年代の作品は、ジャッキー自身がバリバリ現役だったため、どうもシックリこないと言うか、子どもの頃の私は「なんか普段のジャッキー映画と違うなぁ」程度の漠然とした違いしか感じていなかった(今になってキャリアを俯瞰してみると、明らかに異色作なのだが)。しかし、2000年代になってくると、さすがにジャッキーも体力の衰えが見え始め、アクション以外で魅せる作品を模索し始める。その過程で放たれた快作が『新宿インシデント』(2009年)。タイトル通り日本の新宿を舞台に、ヤクザや中国人マフィアたちの抗争を描いたヴァイオレンス・ノワールである。ここでジャッキーは功夫を封印、裏家業に手を染めていく平凡な男を熱演した。映画自体は興行的に振るわなかったものの、新宿駅前の路上で黙々とメシを食うジャッキーには、それまでになかった「老い」と「哀愁」があった。

 そして2010年代、ジャッキーは『ベスト・キッド』(2010年)で哀しい過去を持つ師匠役や、傑作『新少林寺/SHAOLIN』(2011年)では脇役に徹し、いずれも渋い魅力を放っていた。辛亥革命を題材にした歴史大作『1911』(2011年)などは、80~90年代のジャッキーでは出演が考えられなかったタイプの作品だろう(ジャッキーが「映画を救うんだ!」と思ったのか、明らかに追加撮影っぽい格闘アクションがあるのはご愛敬)。しかし、こうした「老い」を意識した作品に出演する一方、昔からの「ジャッキー映画」ノリの映画も作り続けており、そちらでは普通に若々しい役を演じている。そのせいか、実年齢が謎めき始めていたというか、ある種の「ねじれ」が起きていたわけだが……この「ねじれ」を解消したのが、「老い」と「アクション」を上手く両立させた『ザ・フォーリナー』である。

 個人的に、今後のジャッキーには本作のような路線を期待したいところだが……なかなか、そうもいかないのがジャッキーという男である。しばらくは若々しい役と老人の役を交互に演じていくだろう。もう若い頃のような無茶はできないし、すべてが上手くいくとも思えない。しかし、ジャッキーはいつだって「何か」を仕掛けてくる。これからも、その「何か」を期待して、ジャッキー映画を見守っていきたい。(加藤よしき)

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