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いま、最高の一本に出会える

多数のキャラクターの人生を描き分ける 『なつぞら』脚本家・大森寿美男の作家性

リアルサウンド

19/9/3(火) 6:00

 NHKの連続テレビ小説『なつぞら』は、朝ドラ100作目という記念碑的作品であることから、表向きのパッケージは「王道朝ドラ」に見える。

 しかし、その実、作品に登場する脇のキャラクターたちは、非ベタであり、ヒロイン・なつ(広瀬すず)よりも周囲のキャラクターのほうに愛着が湧いたり、共感を覚えたりする視聴者が存外多いのではないだろうか。

 実際、脚本を手掛ける大森寿美男自身、会見で「あまり王道パターンにはしたくなかったけど、100作目ということで」と語っていたように、「非王道」「非ベタ」の部分にこそ、本来の作家性が見える気がするのだ。

 その筆頭は、一部視聴者の間で裏ヒロインとも言われる夕見子(福地桃子)の描き方だろう。

 なつが引き取られた柴田家の長女で、なつと同い年の夕見子。ただでさえタメの同性が突然やってきたのだから、その立場の難しさは想像に難くない。まして祖父・泰樹(草刈正雄)は、登校時に畑で手を振るなど、これまでに見せたことのないようなデレデレぶりを見せる。

 しかも、酪農を嫌い、牛乳を飲まず、やりたくないことはやりたくないとはっきり言う夕見子とは対照的に、なつは柴田家に受け入れてもらうため、積極的に酪農を手伝う。

 なつの登場によって、にわかに家庭内での自分の立ち位置が危うくなる中、ベタなキャラであれば、なつの評判を落とそうとするか、ひねくれて意地悪になるところだろう。しかし、夕見子はむしろ柴田家の誰よりもなつのことを見ていて、本音を見せないなつに戸惑ったり苛立ちを見せたりしつつ、なつがやりたいことに向かって進むように背中を押す。

 さらに、本人は進歩的で外向き志向でありつつ、意外にも地元に戻って就職、幼なじみと結婚・出産するという人生を歩む。とはいえ、相変わらず気ままに思ったことをそのまま口にする夕見子ぶりは、健在だ。

 また、なつの幼なじみ・天陽(吉沢亮)も、やっぱりベタじゃない。

【写真】病床の天陽(吉沢亮)

 天陽はなつに絵を描く喜びを教え、アニメの道に進むきっかけを与えてくれた人だが、なつの上京後、別の女性とあっさり結婚してしまう。

 その過程を見せないのも驚きだったが、坂場(中川大志)と結婚することを決めたなつが再会したときの天陽の姿には、衝撃を受けた。

 田舎っぽい妻(大原櫻子)と共に現れた天陽の、気の抜けた感じのシャツや、心なしか少しふっくらした身体、ボサボサの寝ぐせがついた髪には、「普通の幸せな生活」が滲み出ていた。

 その姿からは、なつが知らない生活・世界がだいぶ進んでいること、すでに別のステージに至っていそうな様子が見てとれたからだ。「100年の恋も冷める」どころか、あまりの気負いのなさに、女性側が勝手に敗北感を覚えてしまう展開ではなかっただろうか。

 また、雪次郎(山田裕貴)の人生も、ままならない。一念発起し、一度は家業の菓子職人の道を捨て、俳優の道へ進むものも、夢を諦めて実家に戻り、家業を継ぐ。その一方で、幼少時からずっと好きだった夕見子との突然の結婚を果たす。この紆余曲折の波乱万丈さは、ある意味、2000年代の朝ドラヒロイン的でもある。

 ところで、こうした脇キャラの魅力から改めて思い出されるのが、大森寿美男がかつて手掛けた朝ドラ『てるてる家族』である。

 同作は、冬子(石原さとみ)がメインでありながら、4姉妹それぞれのストーリーが丁寧に描かれていた。

 フィギュアスケートの才能を開花させる長女や、フィギュアスケートを経て芸能界でスターになっていく次女。そんな華やかな姉たちに比べて、四女はおっちょこちょいで成績も振るわず、何にでもすぐ飛びつく軽やかさと明るさを持ち、「なるようになる」をモットーにしている。おっちょこちょいで明るくてみんなに愛される、一つの朝ドラの定番ヒロインだ。

 しかし、当時、この作品で非常に人気を集めたのは、スターの姉たちでも、ヒロイン・冬子でもなく、むしろ上野樹里が演じる三女・秋子だった。

 真面目で成績優秀で大人びていて、いつもちょっと引いた場所から全体を見ている秋子。華やかな二人の姉と、明るく呑気な妹の間で、自分の与えられた役割を粛々とこなすタイプだ。そして、自分の主張はせず、悩みも一人で解決し、人知れず家族のバランスをとっている印象もあった。

 しかも、面白いのは、そんな彼女の唯一の趣味がマンボを踊ることだったこと。そして、他の人とは違う世界観を持つ秋子は、やがて近所のインスタントラーメンの発明に情熱を注ぐ博士(日清食品創業者の安藤百福がモデルとされる)らとの出会いを経て、自分なりの生き方を見つけていく。

 ポンポンと好き勝手なことを言うように見える夕見子と、物静かで大人びた秋子。与える印象は大きく異なるものの、両者に共通しているのは俯瞰でモノを見ている「真ん中っ子」的なバランサーであることだろう。そして、そういうバランサーを描くときにこそ、大森寿美男の筆が冴え渡る気がしてならない。

(田幸和歌子)

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