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峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら

大好きだったSさんその①・高校時代

毎週連載

第102回

前回まで、身の回りで見た心霊写真の話をしたけどさ、実は僕自身も不思議な経験があります。これね、ネタでもなんでもないよ。僕にとったらかなり切ない話なんだ。

僕ね、高校生の頃、3年間ずっと好きだった人がいたんです。僕は高校の頃、軟式野球部に入ってたの。いつも軟式野球部が練習するグラウンドがあるんだけど、そのグラウンドを出て、道路を挟んだ向こう側では、女子ソフトボール部が練習している。そのソフトボール部でマネージャーをやっていたSさんっていう子がいてさ、この子がもう本当に大好きだった。身長高めで、黒髪ボブ。本上まなみさんみたいでメッチャクチャかわいい人。部活の練習中に「じゃあ俺、ランニング行ってくるわ」っつって抜け出すんだけど、ランニングなんかするわけねーじゃん(笑)。結局、部活を抜け出してソフトボール部の練習をこっそり眺めてた。すごいかわいかったんだよ、Sさん。

でもさ、高校の3年間、Sさんとは、何の絡みも持てなかっただけでなく一言も喋れずに終わっちゃったの。っていうのも、僕が2年1組のときに、Sさんは2年9組とかでさ、まず教室が物理的に遠くて、なかなか会えないわけよ。運が良ければたまに廊下ですれ違うくらい。だから、話もできなければ告白なんてことも絶対できなかったんだけど、あるとき1ミリだけ距離が縮まったことがあって。

同級生でWくんっていう人がいるんだけど、彼と僕は中学が一緒で、高校も一緒になった地元からの友だちなのね。あるとき、そのWくんがさ、学校でSさんと喋ってるところを見てしまったんだよ。僕としたら「何あいつ!!」みたいな。もうメチャクチャ嫉妬したし、でもSさんの情報も知りたいからすぐにWくんの家に遊びに行って、聞いてみたの。「Wくんさ、Sさんと仲良いの?」っつって。

すると、Wくんは、もともと女の子の友だちが多くて、その流れでSさんとも喋るようになったみたいで、特別な関係ではないようだった。まず、僕はそのことにホッとしたんだけど、Wくんは僕の気持ちを察してさ、「峯田何? Sさん気になってんの?」って言うわけ。「いやまぁ……ちょっと。うん」って僕は答えたんだけど、Wくんがまた言うわけ。「Sさんの地元は、山形市内だけど、最近引っ越して今は山辺(峯田の地元)で暮らしてるよ。なんならお前、Sさんの家一緒に行ってみる?」みたいな。「いい、いい、いい!」って断ったんだけど、Sさんとたまたま家が近くになっちゃった。東京の距離感で言うとさ、僕が中野に住んでいたとして、Sさんが新中野くらいに来ちゃった感じ。もう焦ったし、ドキドキしてさ。

同じ頃、僕は高校が終わって夕方になると、実家の峯田電器でアルバイトをしてたの。「パナソニック」って書いてあるジャンパーを着て。その実家がやっている峯田電器の駐車場を挟んですぐ隣にさ、ベルっていうショッピングセンターがあるんだけど、その中にお花屋さんが入っているのね。そしたらさ、うちの近所に引っ越してきたというSさんが、なんと、そのお花屋さんでバイトを始めてるわけ。学校以外で見るSさんも衝撃だったけど、お花屋さんのエプロン姿がまたかわいくてね。「きっとこれは神様が用意してくれたご褒美なんだ」と思ったんだけど、それでも相変わらず声はかけられないまま。

エプロン姿のSさんを見かけると、いちいちまたWくんに電話したりして。「ヤベェんだ。Sさんが今日も花屋でバイトしていてさ。どうしよう」みたいな。Wくんも「いい加減声かけろよ」っってシビレを切らしていたけど、結局僕は、Sさんには何も言えないまま高校を卒業してしまった。それから東京の大学に入り、バンドを組んで、それ以来ずっとこっちで暮らしているでしょ。だから、 Sさんとはそれっきりだった。

なんだけど、ちょうど同級生全員が40歳になった2年前に、山形で同窓会があったの。当時同じクラスだった友だちから連絡が来てさ、「峯田もたまにはこういうの出てもいいんじゃねーか?」みたいに言われて。「村井(元メンバー・ドラム)、斎藤(元マネージャー)も来るかもしんねーから」って。

僕はさ、同窓会みたいなものって、これまでに参加したことってなかったんだけど、「お前が来たら、みんな盛り上がるから」って言われて、しぶしぶ参加することにしたわけ。その同窓会にはさ、高校時代、ずっと好きだったSさんも来てね。ここで20数年越しにして、初めてSさんと話をすることができたの。

でもさ……ここで常識では考えられない、Sさんにまつわる衝撃の事実を聞かされることにもなったんだよね(次回につづく)。

アルバム『ねえみんな大好きだよ』の取材中のカットです。普段はなかなか会えない人、初めて会う人など、いろんな人に会えて楽しかったです。

構成・文:松田義人(deco)

プロフィール

峯田 和伸

1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。


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