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三浦春馬のエッセイに綴られた想いとは? 『日本製』文芸書週間ランキング1位に

リアルサウンド

20/9/18(金) 9:00

週間ベストセラー【単行本 文芸書ランキング】(9月8日トーハン調べ)

1位 『日本製+Documentary PHOTO BOOK 2019-2020』三浦春馬 ワニブックス
2位 『少年と犬』馳星周 文藝春秋
3位 『気がつけば、終着駅』佐藤愛子 中央公論新社
4位 『楽園の烏』阿部智里 文藝春秋
5位 『一人称単数』村上春樹 文藝春秋
6位 『魔王様、リトライ!(6)』神埼黒音/飯野まこと 画 双葉社
7位 『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』 青柳碧人 双葉社
8位 『虐待されていた商家の令嬢は聖女の力を手に入れ、無自覚に容赦なく逆襲する』てんてんどんどん/くろでこ イラスト KADOKAWA
9位 『四畳半タイムマシンブルース』森見登美彦/上田誠 原案 KADOKAWA
10位 『日本製』三浦春馬 ワニブックス

 9月の文芸書週間ランキング、1位は7月18日に逝去が伝えられた俳優・三浦春馬氏の『日本製+Documentary PHOTO BOOK 2019-2020』。10位にランクインしている『日本製』に撮りおろしとロングインタビューをくわえた特装版である。なぜ文芸書ラインキングに入っているかというと、同書は写真集の側面ももちつつ、三浦氏の内面を反映したエッセイの色が濃いからだ。

 同書は月刊誌『プラスアクト』での約4年にわたる連載を書籍化したもの。20代半ばに海外留学をした際、自国のすばらしさを語る海外の人たちに対して、みずからの言葉で日本の魅力を伝えられないことに歯がゆさを覚えたという三浦氏は、連載を通じて全国47都道府県を訪れ、“日本”を再発見していった。日本古来の伝統や歴史にもとづき生まれた産業。つくり手たちの深くて熱い想い。さまざまな文化の折り重なりによって生まれる、日本の製品。じかに触れ、聴き、モノや人と対話して感じたものが綴られた同書の刊行に際し、三浦氏はこんなことを述べている。

 〈その土地で試行錯誤を繰り返して、自分たちの技術として培ってきたものというのは、発酵と同じようなことが言えるんじゃないかと思っています。日本における素晴らしい技術や、繊細な思いやりは、その製品がより洗練されるための栄養素になって〉いるのだと感じた、と。続いてこんなことも言っている。〈発酵は悪さしないですからね! 腐敗ではないですから。熟成した菌が体にいい作用を及ぼすんです。〉

 代謝をくりかえし、得るものすべてをエネルギーに変えていく。こじつけかもしれないけれど、それは役者として、人として、三浦氏のめざしたい姿でもあったのではないか、と思う。少なくとも視聴者は、すべての作品を糧にして、のびやかに美しく成長し、役者としての力量を見せつづける三浦氏に惹かれていたから、突然の訃報にこれほどまでに心を痛めたのではないだろうか。

 なぜ亡くなったのか、は、事情を知らない外野が好奇心や邪推で詮索するべきことではない、と思う。今はただ、三浦氏がみずから綴った言葉で、彼の生きた痕跡と想いに触れ、静かに哀悼の意を示したい。

 4位には阿部智里氏『楽園の烏』。2012年、早稲田大学在学中に最年少で松本清張賞を受賞した、『烏に単は似合わない』から連なる「八咫烏シリーズ」の最新作にして、第二部開幕を告げる一冊だ。

 累計130万部突破の同シリーズは、山神によって創られた〈山内(やまうち)〉と呼ばれる異界を舞台に、人間の姿に変化する八咫烏の一族を描き出すファンタジー小説。一族を統治する「金烏(きんう)」に誰が嫁ぐのかという入内バトルが描かれたのがデビュー作である『烏に単は似合わない』なのだが、松本清張賞受賞にふさわしい、緻密にはりめぐらされた伏線とラストのどんでん返しには度肝を抜かれてしまう。

 そして、この伏線とどんでん返しこそが、このシリーズの持ち味なのである。架空の異世界を描いたいわゆるハイファンタジー作品かと思いきや、やがて、私たちの生きる現実と彼らの世界が通じていることが明かされていく。続刊では、八咫烏たちを喰らう凶暴な大猿との戦いを通じて、少しずつ明かされていく世界の謎に、読者はみな興奮し、虜になってしまうのだ。

 そのひとりが、女優の浜辺美波氏。9月7日、『楽園の烏』を手にした写真とともに、彼女はこんなつぶやきをTwitterに掲載。7.8万ものイイネが集まった。

 これを機に同シリーズに興味をもったものの「今から既刊全部読むのはハードルが高い……」という人も少なくないだろう。だが、安心してほしい。もともと阿部氏は、第一部最終巻『弥栄の烏』をのぞいて、基本的にどの巻から読んでも理解できる・楽しめるつくりにしていると公言しており、『楽園の烏』も例外ではない。

 むしろ、本作を続編ではなく、本当の始まりとして読むこともできる構造となっている。まずは『楽園の烏』を手にとり、その世界観に夢中になったら、ぜひとも過去編として第一部にも遡っていただきたい。

■立花もも
1984年、愛知県生まれ。ライター。ダ・ヴィンチ編集部勤務を経て、フリーランスに。文芸・エンタメを中心に執筆。橘もも名義で小説執筆も行い、現在「リアルサウンドブック」にて『婚活迷子、お助けします。』連載中。

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