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初登場6位『響 -HIBIKI-』 注目すべきなのは、主演の平手友梨奈だけじゃない

リアルサウンド

18/9/19(水) 19:03

 先週末の映画動員ランキングは、『プーと大人になった僕』が土日2日間で動員24万5000人、興収3億3200万円をあげて初登場1位に。初日から9月17日(祝)までの4日間累計では、動員44万1000人、興収5億7900万円をあげる好スタートとなった。前週1位に初登場した『MEG ザ・モンスター』は2位に後退するも、9月17日時点で興収8億9800万円。今週のウィークデイにも10億円に届く見込みだ。

 今週取り上げるのは、先週末6位に初登場した欅坂46・平手友梨奈の映画初主演作品『響 -HIBIKI-』。本コラムが情報提供を受けている興行通信社からは具体的な数字が発表されていないが、文化通信社調べによると9月17日までの4日間で動員16万8708人、興収2億1517万円というまずまずの出足。本作で注目すべきは、これが監督の月川翔にとって『となりの怪物くん』、『センセイ君主』に続いて(まだ9月にして)今年3作目の公開作品、しかもそのすべてが日本最大手の東宝の配給作品であるということだ。ちなみに今年ここまで東宝が配給した作品は24本(東宝事業部配給作品を除く)、そのうち実写作品は18本。その3本を同じ監督の作品が占めているのだから、一人プログラムピクチャー監督状態と言ってしまいたくなるほどだ(月川翔監督以外では、東宝で今年2本撮っている監督も存在しない)。

 現在36歳の月川翔監督のプロフィールとキャリアは、二つの側面から分析することが可能だ。一つは、ティーン向けコミック原作作品を量産することでキャリアを築いてきた、商業映画監督としての側面(月川翔監督にとって今のところ最大のヒット作品である『君の膵臓をたべたい』の原作はコミックではないが)。このジャンルでは、過去に大人向けの秀作を撮ってきたベテラン監督が「お仕事」として監督を引き受け、凡作を連発するといったあまり好ましくない傾向もあったが、そんな中でも作品を追うごとに監督として確実に腕を上げてきた三木孝浩監督のような前例もいる。月川翔監督は、その三木孝浩監督と同様に大手芸能プロダクションのスターダストに所属している。以前から日本の映画監督には映像プロダクションやCM制作プロダクションに所属する監督も多かったが、現在は芸能プロダクションに所属するというのが成功への近道なのかもしれない。ちなみに、スターダストには自社の映画製作・配給会社スターダストピクチャーズ(SDP)というグループ会社があるが、三木孝浩や月川翔の監督作品には必ずSDPが製作に名を連ねているというわけではない。

 もう一つの側面は、2005年に発足した東京芸術大学大学院の映像研究科(映画専攻)の卒業生であること。北野武、黒沢清、坂元裕二らが教授を務めてきたことでも知られる同科は、近年になって濱口竜介(『寝ても覚めても』)、真利子哲也(『ディストラクション・ベイビーズ』)といった優れた若手監督を輩出してきたことで注目されている。月川翔監督は朝日新聞(2018年9月18日)の取材で、同窓の濱口竜介監督の2008年の作品『PASSION』に打ちのめされて、「『僕が映画を作る必要はない』と思いました。大学の恩師に『同じ土俵で勝負しなければいい』と言われ、エンターテインメントを作ろうと決めた」という興味深いエピソードを披露している。

 ただ、同じエンターテインメント作品といっても、『君の膵臓をたべたい』と『となりの怪物くん』と『センセイ君主』と今回の『響 -HIBIKI-』では、そのテイストは大きく異なっている。『君の膵臓をたべたい』と『響 -HIBIKI-』はシリアス路線、『となりの怪物くん』と『センセイ君主』はコメディ路線と無理やり分けることは可能だが、いずれの路線においても作品を追うごとに演出の洗練度は高まっていて、それでいて敢えてベタな描写を避けたりはしないその腹を括った姿勢は、監督の作家性として確立しつつあると言っていいだろう。もしかしたら、日本のエンターテインメント作品のジャンルをはみ出すことなく、そこで驚くような名作を近いうちに生み出すかもしれない。そんな予感に満ちているのだ。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」「文春オンライン」「Yahoo!」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。Twitter

■公開情報
『響 -HIBIKI-』
全国東宝系にて公開中
出演:平手友梨奈、北川景子、アヤカ・ウィルソン、高嶋政伸、柳楽優弥、野間口徹、板垣瑞生、小栗旬、北村有起哉、吉田栄作
原作:柳本光晴『響~小説家になる方法~』(小学館『ビッグコミックスペリオール』連載)
監督:月川翔
脚本:西田征史
配給:東宝
(c)2018映画「響 -HIBIKI-」製作委員会 (c)柳本光晴/小学館
公式サイト:http://hibiki-the-movie.jp/

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