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有村架純が『前科者』に込めた想い「向き合うことさえ諦めなければ、人は変われる」

ぴあ

撮影:川野結李歌

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犯罪者の更生を助ける保護司として、人生につまずいた者たちに寄り添う日々を送る阿川佳代。そんな彼女の駆け出し保護司時代を描いた連続ドラマに続き、映画『前科者』では阿川の前にある事件が立ちはだかる。寡黙で誠実な“前科者”が関わるその事件は、やがて阿川の知られざる過去や“保護司になった理由”にも触れていくことに……。『あゝ、荒野』など、国内外で高い評価を受ける岸善幸監督の下、有村架純が保護司の阿川佳代を熱演。「自信を持って送り出せる作品になりました」と胸を張る有村に、話を聞いた。

──有村さん演じる阿川佳代は、多面的な魅力を持つ主人公ですね。

有村 佳代の愛すべきところは未完成な部分にあると思います。もし彼女が熱血教師や正義のヒーローだったら、この物語は成立しなくて。佳代自身にも癒えない傷があり、劣等感があり、だからこそ自分の存在意義を探し続けている。社会と上手く向き合えていないところが、保護司として人と寄り添うことにつながっているのかなと感じました。

──保護司である阿川を演じる上で大切にしていたことは?

有村 現場に来てくださっていた保護司の方に伺った話では、やはり大事なのは保護観察対象者との距離感。介入し過ぎず、罪を犯した事情などは聞かない。とにかく見守ることに徹しているそうです。でも、映画の中で描かれているように、食事に行くこともあるそうで。人間対人間なので相性もありますし、絆にもそれぞれ形があります。だったら、「佳代の保護司としての形はどんなものだろう?」と考え、温度感や距離感を岸(善幸)監督と話し合いながら決めていきました。監督がよくおっしゃっていたのは、「ハートは熱く、頭は冷静に」ということですね。

──阿川が担当する工藤誠(森田剛)は、殺人を犯した男性です。

有村 現実の世界でも罪を犯してしまった人もいますが、その人たちにも背景があり、そうならざるを得なかった事情があるかもしれない。その危うさや社会に対してのやるせなさを、工藤さんの物語から感じました。「罪を犯したから駄目!」と一概に言いきれるものではないというか。もちろん罪を犯すことは許されませんが、それと同時に、表面だけで判断する危険性とも向き合わなくてはいけない。それって、犯罪者に限らず人に対して言えることですよね。すごく明るくていい子がいたとして、でもその子にとっての“いい子”は何かをかばうための手段かもしれない。想像することは大事だなと思いました。

──それこそ阿川にも、実は抱えている過去がありますし。

有村 人は誰しも何かしらの傷は負っていますが、ずっとそのことを考えながら生きているわけじゃない。忘れる瞬間もあると思うんです。工藤さんと向き合っているときの佳代は、きっと過去の傷を忘れているんじゃないかという気がしていて。でも、ふとしたときに過去へと引き戻される感覚はお芝居をしながらもありましたし、それが佳代の大事な一部分でもあるのかなと感じながら演じていました。

──なぜ阿川はあそこまで工藤に対して献身的になれたんでしょう?

有村 誰かを助けたいという思いで、佳代は保護司の仕事を始めたわけではないと思うんです。自分の存在意義をずっと探し続ける中、誰かを助けることでそれを見つけようとした。きっと、純粋な気持ちではなかったと思うんですよね。鬱屈を抱えたまま、何かを欲しながら、乾いた気持ちに突き動かされてきた。でも、工藤さんに出会って初めて、何かを感じ、人のために動きたいと思うようになったんだと思います。

森田さんが相手だからこその相乗効果が生まれた

──工藤役の森田さんとの共演はいかがでしたか?

有村 いい意味でオーラがなく、背中が丸い感じの佇まいを撮影現場では保っていらっしゃいました。あまり目を合わせて芝居をすることもなくて。撮影が残り2日ほどのときに初めて目を見て話すシーンがあったんですが、目がすっごく美しかったです。森田さん自身のお人柄が目に映っているようにも思えましたし、工藤誠という人物の切なさや繊細さを感じられました。それにより、佳代の母性が働いて。森田さんが相手だからこその相乗効果がお芝居に生まれていた気がします。

──そんな工藤を追う刑事・滝本真司を、磯村勇斗さんが演じています。『ひよっこ』以来の共演ですね。

有村 『ひよっこ』はほっこりした作品で、平和な空間でお芝居をしていました。今回はシリアスで緊迫したシーンばかりだったので、妙な照れ臭さがありましたね。真剣な顔ができるかなあっていう不安もありましたが、現場に行ってみると全然大丈夫でした。すごいですね、ガラッと雰囲気が違っていて、全くヒデさんじゃなかったです。真司と佳代にスッとさせてくださいましたし、すでに信頼関係があった分、あとはぶつかるのみでした。

──斉藤みどり(石橋静河)は阿川が初めて担当した保護観察対象者ですが、ふたりの絆が描かれるドラマ版は映画の後に撮影されたそうですね。

有村 そうなんです。映画の中では佳代とみどりさんの関係性がすでに成立しているのに、ふたりが関係を築いていくドラマの撮影の方が後で。「大丈夫かな?」と思いましたが、何も心配はいりませんでした。すべて石橋さんのおかげです。工藤さんとはまた別の意味で、最初に担当したみどりさんは佳代にとって特別な存在。佳代がみどりさんに助けられるように、私も石橋さんの存在にずっと助けられていました。

──過去を乗り越え、人は変われるか。そんな物語のテーマを、有村さん自身はどう受け止めていますか?

有村 私にも、過去の後悔はいっぱいあります。このお仕事を始めてからは叱ってくれる大人にたくさん出会えましたが、学生時代は自分の意思すらあまりなかったですし。お仕事をしていく中で初めて、「こうでなきゃいけないんだ」といろいろ気づかされました。そのおかげで変わっていくことができたんだと思います。デビューしてからもひと筋縄ではいかないことばかりでしたし、監督にもたくさん怒られました。でも、怒られてどうするかは自分次第。向き合うことさえ諦めなければ、人は変われるのかなと信じています。

取材・文:渡邉ひかる 撮影:川野結李歌
ヘアメイク:尾曲いずみ スタイリング:瀬川結美子
衣装協力:エボニー、ルーム エイト/オットデザイン、リューク、マナ

『前科者』
1月28日(金)より公開
(C)2021香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

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