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アメリカ音楽のルーツを辿る旅へーー宇野維正『アメリカン・ミュージック・ジャーニー』評

リアルサウンド

18/11/15(木) 14:00

 ボブ・ディランやポール・サイモンといったアメリカのフォークミュージックシーンから現れた優れたミュージシャンが、その長いキャリアの中で意識的に「アメリカ音楽とは何か?」という命題と向き合うようになったのは必然だった。「アメリカ音楽の探求」そのものをミュージシャンとしてのライフワークにしていたヴァン・ダイク・パークスは、同時代のビーチ・ボーイズや日本のはっぴいえんどにも直接的な影響を与えてきた。全米ツアー中にアメリカ各地及びスタジオにB.B.キングやヴァン・ダイク・パークスを招きレコーディングされたU2の『魂の叫び』(1988年)。ジャズやソウルの歴史的名盤を手がけてきたトム・ダウドがプロデューサーを務めたオリジナルレコーディング音源が先日発掘されたばかりのプライマル・スクリームの『ギヴ・アウト・バット・ドント・ギヴ・アップ』(1994年)。アメリカの8つの都市それぞれの音楽的ルーツへのリスペクトを込めて、各都市でレコーディング作業がおこなわれたフー・ファイターズの『ソニック・ハイウェイズ』(2014年)。「アメリカ音楽の探求」というテーマは、アメリカ人のミュージシャンに限らず、世界中のミュージシャンやバンドにとって創作の大きなインスピレーションであり続けている。

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 そのようにこれまで数々のミュージシャンたちが辿ってきた「アメリカ音楽の探求」を、観光ムービーとして追体験できるのが本作『アメリカン・ミュージック・ジャーニー』だ。旅のガイドを務めるのはアロー・ブラック。2015年にはアルバム『Lift Your Spirit』でグラミー賞ベストR&Bアルバムにもノミネートされたカリフォルニア出身のシンガーソングライター……というよりも、アヴィーチーの大ヒットシングル「Wake Me Up」(2013年)のボーカリスト兼共同作曲者と言えば「あぁ!」と思い当たる人も多いだろう。

 そもそもあの「Wake Me Up」自体が、EDMにアメリカン・ルーツ・ミュージックであるカントリーやブルースのメロディや節回しやギターの音色を融合させた斬新な楽曲であったが、本作『アメリカン・ミュージック・ジャーニー』では、移民2世としてカリフォルニアに生まれて、ヒップホップのミックステープを制作するところからミュージシャンとしてのキャリアを積んできたアロー・ブラックが、改めてアメリカ音楽のルーツを探る旅に出るところからスタートする。個人的には、作中のアロー・ブラックのあまりに屈託のない陽性キャラクターに少々戸惑いを覚えてしまったのだが、思えば、それまで楽曲の端々にそのダークサイドが顔を見せていたアヴィーチーの音楽に眩しい光を与えるきっかけとなったのも、彼の歌声とその真っ直ぐなリリックだった。

 彼が訪れるのは7つの都市。ヒップホップが生まれた街ニューヨーク、ジャズの聖地ニューオーリンズ、ブルースの街シカゴ(作中ではアロー・ブラックとジャズ・ピアニストのラムゼイ・ルイスの出会いが描かれる)、カントリーミュージックの故郷ナッシュビル、先に挙げたU2やプライマル・スクリームやフー・ファイターズの作品でも当然のように重要なパートを占めていたロックンロールの街メンフィス、モータウンの街デトロイト、カリブ海を渡ってやってきた移民たちによるラテンミュージックの街マイアミ、そして首都ワシントンDCだ。

 作中ではルイ・アームストロングとエルヴィス・プレスリーに多くの叙述が割かれているほか、前述したラムゼイ・ルイス、グロリア・エステファン、ジョン・バティステといった各世代、そしてアメリカの多様な文化的背景を象徴する有名ミュージシャンたちも登場。作品の終盤にはマイアミでの『Ultra Music Festival』の模様も収められていて、この作品が単に過去を振り返るだけでなく、現在の音楽シーンも視野に収めて、その上で音楽のルーツの重要性を語りかけようとしていることが示される。約40分というコンパクトな尺、吹き替えのナレーションと、あくまでも作品の作り自体は万人向けとなっているが、この広い間口の先に広がっている「アメリカ音楽」の深みの片鱗を感じ取ることができるはずだ。(宇野維正)

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