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林遣都の泣き続ける横顔が忘れられない “敗者”を描く『いだてん』に込められたもの

リアルサウンド

19/8/12(月) 12:00

 『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)第30回「黄金狂時代」が8月11日に放送された。予てより金メダルが期待されていた大横田勉(林遣都)。ハプニングに見舞われながらも400メートル自由形に出場したが、結果は銅メダルに終わる。林の涙に濡れた表情からは、大横田の責任感の強さと金メダルを獲得できなかった悔しさがひしひしと伝わってきた。

参考:阿部サダヲ演じる政治は明るいだけのキャラクターではない 『いだてん』第二部の“複雑さ”を体現

 第30回では、金メダルラッシュと全種目制覇を目指す水泳日本代表チームを襲うハプニングが描かれる。

 1932年、ロサンゼルスオリンピックが開幕。その開会式直前、大横田が腹痛に襲われ、悶え苦しむ様子が映し出された。林の激しく歪んだ表情に、思わず不安になった視聴者も多いことだろう。しかし大横田は、高石(斎藤工)や小池(前田旺志郎)の前で何事もなかったように振る舞った。このシーンから「他の選手に迷惑をかけてはいけない」という大横田の責任感の強さが伝わってくる。

 冒頭の大横田のシーン以降、水泳選手団に関する不穏な雰囲気はしばらく息を潜める。高石と競り合っていた若き選手・宮崎(西山潤)が100m自由形で金メダルを獲得し、幸先のいいスタートとなった日本選手団。政治(阿部サダヲ)は、監督の松澤(皆川猿時)に内緒で宮崎の祝勝会を開いた。政治は大横田に「次はお前だ。宮崎に続け!」と声をかける。政治の期待に応えようと、肉をかき込む大横田。その後、女子のために振舞われた肉まで食べてしまうやんちゃな一面は微笑ましい。だが、東京にいるマリー(薬師丸ひろ子)の占いシーンが挿入されることで再び不穏な空気が漂う。なぜなら、マリーの導き出した結果はいつも逆に出るからだ。マリーは「彼(大横田)きっと金メダル獲るわ」と言った。

 夜遅く、松澤と野田(三浦貴大)のもとに、腹痛を訴えてやってきた大横田。慌てふためく松澤に、宮崎が意を決して大横田の体調について告白した。「実は、四、五日前から熱があったんです。腹も下してて」。ほんの一瞬だが、宮崎の言葉を聞いた大横田は痛みに悶えながらも少し焦ったような表情を見せる。その表情により、宮崎が次に発した「病気で練習休んだら、メンバーから外されると思ったんでしょう」という台詞が、大横田の本音なのだとわかる。

 林は痛みにのたうつ演技の中で、痛みが一瞬治るたびに「全種目制覇のために迷惑はかけられない」という表情を浮かべ、大横田の繊細な心情を表現する。胃腸カタルだと診断された後の「やれます!」という必死の訴えや、リレー辞退を言い渡された後、やるせなさに歯を食いしばる表情が切ない。

 リレーを辞退した大横田が臨んだ400m自由形。アナウンサーの河西(トータス松本)による「実感放送」で、大横田のレースの様子が伝えられた。大横田は体調が万全ではない中で健闘を見せるも、レース終盤で思うように体が動かせなくなる。結果は3着、銅メダルだった。実感放送中、河西の横でレースを再現する大横田だったが、悔しさや怒り、悲しみが入り混じった表情を浮かべ、立ちすくんでしまった。その目には涙がにじむ。マイクの前で泣いて謝る大横田。

「試合に出られない者もいる中で、自分は恵まれていました。それなのに、肝心な時に、大きな一個も得られず、すみませんでした」

 涙を堪えきれない大横田の姿を見つめることしかできない政治と、「もういい!もういい、喋るな!」と止めに入る高石の描写が切ない。河西のアナウンスにもあったが、大横田の泳ぎは堂々たるものだった。しかし金メダルを目指していた選手にとって、銅メダルに終わるという結果はとてつもなく悔しいものなのだろう。林はその悔しさを、涙に濡れた表情で見事に表現していた。高石に抱きとめられながら泣き続ける大横田の横顔は忘れられない。

 また、落語になぞらえた演出も印象的だ。今作で起きた「腹痛」というハプニングは、古典落語『疝気の虫(せんきのむし)』になぞらえて描かれた。腹痛に苦しむ大横田の手元や前畑(上白石萌歌)の横で蠢く「虫」の姿。この「虫」の存在がハプニングの不穏さを醸し出す一方で、柄本時生演じる万朝のコミカルな話し口が、物語をテンポよく進めることで笑い話へと変えていく。これまで幾度となく不穏な出来事が描かれてきた。これからは戦争の匂いも強くなることだろう。だが、この物語に落語が加わることで、不穏さと笑いのバランスがとれ、物語が重くなりすぎない。今作の語り部である志ん生(ビートたけし)、考蔵(森山未來)、五りん(神木隆之介)による落語に今後も注目だ。(片山香帆)

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