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演歌とヴィジュアル系、サウンドの意外な共通点 “氷川きよしV系化フィーバー”から考える

リアルサウンド

19/5/31(金) 7:00

 とある動画がインターネットを騒がせている。その動画は派手な衣装を身にまとい、長髪をなびかせ、化粧をした男性がライブでシャウトをしているもの。それだけではただのヴィジュアル系バンドのライブ映像かと思ってしまうが、この動画に映っている妖艶な男性は演歌界のプリンス・氷川きよしなのだ。

(関連:氷川きよし、なぜ『ゲゲゲの鬼太郎』OP&EDに抜擢? 50年受け継がれてきた主題歌から考える

 氷川きよしといえば、“ズン、ズンズン、ズンドコ、きよし!”でおなじみの「きよしのズンドコ節」をはじめとする演歌や、近年ではGReeeeNが書き下ろしたポップスを歌うなどのイメージはあるが、ロックのイメージ持っている人は少ないだろう。ましてや化粧をしてヴィジュアル系顔負けのパフォーマンスをしているのだから世間がざわつくのも無理はない。

 この動画は昨年12月に行われた『氷川きよしスペシャル・コンサート2018 きよしこの夜 Vol.18』のもの。歌っているのはアニメ『ドラゴンボール超』の主題歌である「限界突破×サバイバー」で、氷川きよし初のアニメタイアップ曲でもある(その後、アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』のエンディングテーマも担当)。この“氷川きよしヴィジュアル系化フィーバー”を受けて、所属レコード会社である日本コロムビアはYouTubeに公式動画をアップし、92万再生を超える大ヒットを記録している(5月30日現在)。

 動画を見てみると、ところどころこぶしが効いた歌い方に演歌の色は残っているものの、普段の演歌歌手の影はなく、完全にハードロックを歌いこなしていることがわかる。T.M.Revolutionの西川貴教やLUNA SEAの河村隆一を彷彿とさせる伸びやかで深みのある歌声、そして中盤に見せたビブラートのかかったシャウトは圧巻である。

 スパンコールとシースルーの衣装、まぶたに乗せられたアイシャドー、長髪を振り乱したヘッドバンギング、そして時折見せる妖艶で冷ややかな目つき、どれを取っても我々が知っている氷川きよしと全く結びつかないのと同時に、そのどの要素も違和感なく溶け込んでいることに驚いた。どう振る舞えば自分自身が美しく見えるかを理解し、それを完全に自分のものにしている。というのも氷川自身、ロックやポップスを聴いて育ち、X JAPANのファンを公言。また、ヴィジュアル系専門誌『SHOXX』を愛読していたほどのヴィジュアル系好きであるというのだ。そして、高校時代のクラブ活動でロック塾に入ろうとしたところ、人気が高く、仕方なく隣の演歌塾に入ったことで現在の演歌歌手・氷川きよしにつながっているのだ。

 このことに関して、氷川は「(あのライブは)あくまで『自分』を表現しているつもりです。自分の中では演歌もロックもポップスも同じです。カテゴライズされているから驚かれているみたいですが、ジャンルは関係なく、(あのライブは)氷川きよしの姿なんです」と語った(参考:BuzzFeed)。

 演歌とヴィジュアル系ーー。

 どちらも世の中のトレンドに左右されることなく、脈々と受け継がれている日本独自の文化である。一見、真逆のように見える2つのジャンル。今回は氷川きよしがヴィジュアル系にチャレンジしたが、逆にヴィジュアル系のバンドマンが演歌の世界に足を踏み入れるパターンもある。THE MICRO HEAD 4N’Sのドラマーとして活動するTSUKASAは2015年から世界初のヴィジュアル系演歌歌手・最上川司としてデビューしている。最上川自身も父親の影響で幼い頃から演歌の魅力に触れ、ヴィジュアル系バンドと演歌歌手の二足の草鞋を履く現在に至っている。

 たまたま流れていた演歌に何気なく耳をかたむけると、ディストーションギターの泣きのフレーズが耳に入り、思わず“かっこいい!”と思ってしまったことはないだろうか。元MEGADETHのギタリストであるマーティ・フリードマンは演歌に強い影響を受け、ことあるごとに演歌とメタルに共通点を語っているように、誰もが知っている石川さゆりの「天城越え」や吉幾三の「雪國」のイントロの渋いフレーズやチョーキング、ロングトーンはハードロック/ヘヴィメタルに通ずるものがある。また、音楽的な定義がないヴィジュアル系のサウンドのルーツの1つとしてハードロックやヘヴィメタルが挙げられる。そこで鳴っている歪んだギターの音こそ、ヴィジュアル系を含むハードロックやヘヴィメタルと演歌に通ずるものなのではないだろうか。このようなことから今回、ハードロックを氷川きよしが歌うことの違和感のなさと、表現の手段として彼が好きなヴィジュアル系を用いたことには納得がいく。

 もちろんこの曲は『ドラゴンボール超』の主題歌であるので、歌詞も孫悟空を思わせるものになってはいるが、〈可能性のドアは施錠(ロック)されたまま やれやれ…今度も壁をブチ破る〉〈意外性を秘めたヤツが生き残る〉という歌詞は今回の氷川きよし自身のことでもあるのではないかとさえ思える。演歌歌手というイメージの壁を見事にブチ破り、ロックシンガーとしての意外性を発揮した氷川が2019年、そして令和元年の顔になるのかもしれない。ぜひとも年末の『NHK紅白歌合戦』で妖艶な姿を見せ、あの動画のようセクシーな目つきでお茶の間を睨みつけてくれることを楽しみにしたい。(オザキケイト)

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