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『なつぞら』広瀬すずの親友役にも抜擢 『3年A組』富田望生、“新たな女優像”築く逸材の登場

リアルサウンド

19/1/12(土) 6:00

 ジェンダーロールという言葉はすっかり一般的になっただろうか。ロールというのは「役」のことで、すなわちジェンダーロールとは、「ジェンダー(性別)に押しつけられた役割」を意味する。しかしそうした固定された役割が存在するのは、ジェンダーだけではない。例えば、物語の中で「太っている人」にはお決まりの役回りというものがある。おおらかで楽天的、観客をほっと笑わせるムードメイカー、そして食いしん坊。子どもにも判りやすいキャラクターは、様々な物語に登場し、スマートな主人公の側でドラマを支える。

参考:<a href=”https://www.realsound.jp/movie/2019/01/post-302343.html”>求められるのは常套設定を超越する何か? 菅田将暉×永野芽郁『3年A組』は推測しにくいドラマに</a>

 まだ18歳の新進女優・富田望生は、そうした役回りをとても上手に演じることができる。映画『チアダン』『あさひなぐ』『SUNNY 強い気持ち・強い愛』といった一連の作品の中で、彼女は観客に好感を持たれる主人公の友人役を見事にこなし、ついに朝の連続テレビ小説『なつぞら』(NHK)で広瀬すず演じる主人公の親友役に抜擢された。今年の春は、多くの人が彼女を知り、名前を覚えることになるだろう。

 しかし、それは、富田望生が演じる「ロール」のひとつでしかない。Netflixのオリジナルドラマ『宇宙を駆けるよだか』は、彼女の演技力を一躍世に知らしめた。そこで彼女は、いじめられている太った女の子の肉体、そしてその子と中身が入れ替わる容姿端麗な少女の魂といういわば二役を演じ分けている。それを可能にしたのは富田望生が使い分ける声の演技だ。『宇宙を駆けるよだか』の中で、彼女はとても美しく真っ直ぐな発声で、清原果耶が演じる美少女の挫折や猜疑を知らない純真さ、その魂と身体の入れ替わりを表現している。それは『チア☆ダン』や『あさひなぐ』でコミカルなバイプレイヤーとして演じた時とはまったく別の声、いわば“主演女優”の声だ。富田望生はそういう”ヒロイン”の声を持っている女優なのだ。

 僕は富田望生をこの時代に現れた、まったく新しいタイプの女優だと感じる。

 野球やサッカーというスポーツの中で、キャッチャーやゴールキーパーは、以前は守備的なポジション、他のプレイヤーとは違う専任的で特殊な役回りだと考えられてきた。チームのヒーローではない、縁の下の力持ち的な存在だと。しかしある時、圧倒的な打撃力を持った捕手、積極的にFKを蹴って攻撃に参加し、ハットトリックを決めるようなゴールキーパーといった特殊な天才たちが現れ、ポジションの定義そのものを塗り替えていく。

 今、僕たちが富田望生の演技に見ているのはそういった”ゲームチェンジャー”的な才能ではないだろうか。富田望生はおそらく、これから出演する多くの作品の中で、誰も予想しなかったいくつものプレーを見せてくれるだろう。「太った女の子はこういう演技をして、こういう風に物語から退場していく」という思い込みを鮮やかに裏切る。そして、そうした新しいプレーは、いつしか新しいゲームを作っていく。1823年のイギリスのパブリックスクールでサッカーの試合中にボールを持ったまま走り出した少年が、いつしか学校の名にちなんで「ラグビー」というスポーツを生み出したように。

 そして、そういったゲームチェンジを待っているのはおそらく、富田望生とそのファンだけではない。日本映画界のホープである広瀬すず、『あさひなぐ』で共演した乃木坂46のキャプテンを務める桜井玲香、『SUNNY 強い気持ち・強い愛』で共演した山本舞香……富田望生の周りには常に同世代の演技志向の強い若手女優たちが集まり、SNSや撮影現場で交流している。そして彼女たちもどこか、“美少女女優”として割り当てられる「役」に飽き、新しいゲームの始まりを待っているように見える(たとえば広瀬すずは、インタビューの中で悪役願望を口にすることがある。それは今の彼女の立場ではなかなか叶わない願いだ)。

 新しい女の子たちが、新しいロールプレイを始めている。そういうことは学者が論文を書くよりもずっとずっと先に現実の中で起きる。LGBTという言葉がまったく一般的でなかった時代から、aikoはライブのMCで「男子! 女子! そうでない人!」とコール&レスポンスしていた。変革は今も起きているのだ。

 現在日本テレビ系列で放送されている『3年A組-今から皆さんは、人質です』はオリジナル脚本作品で、まだ物語の行方や、富田望生演じる柔道部の女子生徒、魚住華の人物像は明らかになっていない。しかし、『3年A組』がどのような物語になるとしても、富田望生はその多彩な演技で、作品に応じた答えを打ち返してくれるんじゃないかと思う。役者とは物語の役に立つ者、社会の中で様々な形のロールモデルを示す存在だ。役者は時に善を演じ、時に悪を演じる。ある時には醜怪な存在に化け、ある時には新しい美を見せる。新しい女優はもうずっと前からここにいる。新しい物語と、新しい役割が彼女を待っている。僕たちはそのゲームが始まるのを静かに見守っていたいと思う。 (文=CDB)

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