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佐藤寛太が語る『軍艦少年』への想い。「23歳の自分ができることをすべて注いだ」

ぴあ

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2015年に世界文化遺産に登録され、『007 スカイフォール』の舞台のモデルとなったことなどでも知られる長崎県・軍艦島。日本の中でも類いまれな風景を持つこの場所で撮影された映画、その名も『軍艦少年』が公開された。幼馴染の妻を亡くし酒に溺れる父と、ケンカに明け暮れる息子の喪失と再生を描いた本作で主人公・海星を演じたのは、『HiGH&LOW』シリーズや『いのちスケッチ』など数々の映画やTVドラマに出演している劇団EXILEの佐藤寛太。原作である柳内大樹による青春漫画を読んで「震えた」という佐藤に、まさに入魂作となった本作にかけた想いを語ってもらった。

――『軍艦少年』、ついに公開ですね。あらためて試写にはまた足を運びましたか?

佐藤 公開まで2年くらい待ったのですが、今は正直、一番観たくて一番観たくない映画かもしれません。自分の演技に対して反省するのは分かっているけど、それと同時にこのときにしかできないことも間違いなくあったと思うんです。先のことは考えずに23歳の自分ができることをすべて注いだからか、その後の現場ではセリフが入らなくなりました。今もう一度観て、あの頃の自分のすべてを受け入れて前に進んでいくのもいいかなとは思っています。

――もともと柳内大樹さんの『ギャングキング』『セブン☆スター』を愛読していたそうですね。

佐藤 オファーをいただいたときにはまだ『軍艦少年』を読んでいなかったのですが、大好きな漫画家さんの作品だったのですごくうれしかったです。とにかく原作に熱いものを感じたので、初めて監督とプロデューサーと顔合わせをしたときに「僕にこの役を任せてもらったら、絶対に後悔させません」ぐらいのことを言ったと思います。こんなに惚れ込んだ原作の主人公を演じさせてもらうのは光栄なことですし、この作品が役者としての転機になるだろうな、という予感がありました。

そういえば監督がなぜ僕を選んでくれたのか、聞いたことがないんですよ。それまではキラキラ系をやったり、『HiGH&LOW』ではアウトロー系の役だったとはいえナイフみたいに尖った役はやったことがなかったから、何を観て僕にしてくれたのかな、って。今度聞いてみたいです(笑)。

――普段から小説や漫画をたくさん読んでいる寛太さんの心に、なぜそこまで『軍艦少年』が刺さったのだと思いますか?

佐藤 原作に出会ったのは、仕事に対して不満を感じ始めた頃だったんです。やりたかった俳優の仕事をやっているのに、思い描いていたこととのギャップを感じていた時期で。同世代の俳優が頭角を現す中で、言葉にならないモヤモヤがあったと思います。自分が関わった作品をうまく愛せなかったりもして、初めてその感情に相対した自分に海星が抱いているモヤモヤが響いたんでしょうね。

――その感覚は実際に演じてみても変わらなかったですか?

佐藤 振り返ってみると、“演じる”って感覚はあんまりなかったです。原作で描かれている場所をそのまま映画のロケで使っているので、それも自分にとってありがたいことでした。どうやって演じたらいいんだろう、みたいな気負いも全然なかったと思います。

完成した映画を観て僕もグッときました

――原作にあわせて金髪にして、制服も同じデザインですよね。

佐藤 制服は一緒のものを作っていただきました。衣装は2、3パターンくらいしかなくて、家で着ている寝巻きは私服なんですよ。海星っぽいのを買っていったら、監督がいくつかの候補の中から選んでくれました。これは初めて言ったかもしれない(笑)。

――海星はケンカばかりしていますけど、ふとしたときに心のきれいさが感じられる役ですよね。

佐藤 めっちゃまっすぐで、いい子です。人の悪い部分を自分が信じる気持ちで照らしていくような強い芯を持った子だから、演じる上でも親しい人に見せる表情とかでちゃんと変化をつけていこうと思っていました。ただのヤンキーにはしたくなかったというか。

――赤井英和さん演じる、父親の幼馴染に見せる無防備な笑顔もよかったです。

佐藤 赤井さんは本当に裸の心で人と接してくれる方で、お芝居や人生についても包み隠さず、でも照れながら丁寧な敬語を使って話してくれる人なんです。だからすごく演じやすかったんですよ。もちろん自分なりにいろいろなことを考えて演じましたが、振り返ってみると大変なことは何もなかったです。監督も撮りたいものがはっきりと見えていたし、現場のスタッフも一流の方たちばかりでとても楽な現場でした。

――痛みを感じるような泥臭いアクションもありましたね。キックボクシングなどの経験も生かされましたか?

佐藤 キックボクシングは無駄のない動きを求められるのですが、ケンカアクションはもっと雑味があるんです。ひとつの動きでいかに大きく見せて、威力を感じさせるかが大事だったので、そこが違いました。でも普段から体を動かしているので、アクションシーンでも結構動けたんじゃないかと思います。あれだけ走ったのは初めてでしたけど(笑)。

アクションシーンがひとつの見どころではあるんですけど、かっこいいアクションというよりもお芝居の要素が強いアクションをすごく大事にしていました。韓国映画っぽい痛みも感じてもらえるんじゃないかと思います。

――海星だけではなく、父親の玄海の痛みや弱さも描かれているところに心動かされました。

佐藤 それは原作にある要素を監督がしっかりと描かれた結果だと思います。父親と息子は同時に何かに立ち向かって、それぞれに違うやり方で同時に何かを克服していく。撮っているときはどうなっているのか分かっていなかったので、完成した映画を観て僕もグッときました。

――父親役の加藤雅也さんとはどのようなコミュニケーションをとりましたか?

佐藤 インする前にごはんを食べてお芝居について話したりしましたが、撮影中はそんなにコミュニケーションをとっていないんです。玄海はずっと何かを背負っている役だったからなのか、すれ違ってしまうシーンがほとんどだったからなのか……。だからこそ最後に父親と目が合うとき、気持ちがすっと落ち着いて晴れやかになる感覚を味わえました。

息子に対して気恥ずかしさゆえの態度をとったり、妻に対して照れていたり、玄海ってかわいいところがあるんです。親子3人でカレーを食べているシーンでも、父親の威厳をもってかっこつけようとするけど微妙に決まっていなかったりして(笑)。雅也さんの持つかわいらしさと重なるような気がしました。

軍艦島の撮影では泣きのシーンで苦戦

――この映画に出演してから、両親に対する思いに変化はありましたか?

佐藤 映画の中で海星という名前の由来の話が出てくるので、親から子供への思いについてあらためて気づくきっかけにはなったかもしれません。当たり前のことだけど、もっと両親を大事にしようと思いました。実家も好きだし、普段から結構感謝をしている方だとは思いますけど(笑)。

――ちなみに寛太さんの名前の由来は?

佐藤 寛大な心を持つ、っていうそのままの由来です。そう名づけられたのに、小さい頃はすぐ手を出す子だったので、寛大じゃないね、なんて親は言っていたらしいです(笑)。

――撮影が行われた軍艦島では、どんなことを感じましたか?

佐藤 光が射す廊下のコンクリートの上に木が生えていたりして、独特の雰囲気でした。香港の九龍ってあんな感じだったのかな、でもきっと軍艦島のような場所は他にはないだろうな……って思いました。軍艦島にいられる時間は決まっていたのですが、クライマックスのシーンを撮ったときに、段取りで泣きすぎて本番で泣けなくなってしまって。もしここで撮れなかったら別にセットを組むしかなかったらしいので、スタッフさんは焦っていたと思います。でも監督は僕にそれを告げずに自然に泣けるように母親の音声を流してくれて、すごくありがたかったです。

あとは死ぬほど蚊に刺されました。軍艦島の蚊はたまに来る人間たちの血を吸おうと躍起になってるんでしょうね。嘘じゃなくて50カ所くらい刺されましたから!

――親子の物語が軸にありつつ、高校でのクラスメイトとのやりとりも描かれていますよね。絵を描くキャラクターであり、アクションもあり……。これまで演じてきた様々な役柄や経験が詰まっている作品なのではないでしょうか。

佐藤 確かにそうですよね。そういう意味でも23歳という年齢より前にお話をいただいても、こんな風にはできなかったかもしれない。もっと勢いだけでやってしまったような気がします。

――子供の頃に暮らしていた長崎で撮影したことにもご縁を感じますよね。

佐藤 本当にそう思います。公開を前にした今、あとは観てくださる方の心にどう刺さるのか、反応を知りたいです。大きな映画が公開される時期だけど、日本映画が好きな人の間で広がって、また家族を連れて観にきてくれたらうれしい。映画館に行ってこっそり感想を聞いてみたいと思います。

取材・文:細谷美香 撮影:本多晃子
スタイリスト:平松正啓(Y’s C) ヘアメイク:KOHEY

『軍艦少年』
上映中

(c)2021『軍艦少年』製作委員会

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