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VJが創出する音楽ライブ/エンターテインメントの一体感 年々注目を集める映像演出の現在

リアルサウンド

19/12/5(木) 18:00

 音楽イベントに欠かせない存在となったVJであるが、その歴史は意外と深い。恐らく世界で最初のVJ的な演出が行われたのは、1960年のリキッドライトショーであろう。

 OHP(オーバーヘッドプロジェクタ)の上に油でリアルタイムにサイケデリックな模様を描いていく演出は、その独特の色のグラデーションと粒子感、手作業ならではのインタラクティブ感によって、現代まで受け継がれている空間演出の手法の一つである。その後、映像機器の普及に伴いVHSを使った手法やDVDを使った映像コンテンツを経て、ラップトップを活用した映像演出が増えていった。

 映像を使った空間演出がまだ浸透しきっていなかった頃は、ステージ演出家やミュージシャン側も映像をどう活用すれば良いかわからず、MVをそのまま流すようなイベントもしばしあった。しかし、それでは映像の時間軸とライブの雰囲気がどうしても合わないのでイベントの一体感に欠けることが次第に理解されるようになった。

 やはり、TVやYouTubeで座って鑑賞する用の映像コンテンツと、ライブ演出の一貫としての映像演出は似て非なるものだったのである。そこで注目されるようになったのがVJというスタイルだ。VJがもう一人のバンドメンバーとして表現されることが多いことからも、VJがライブとの一体感にどれだけ重要さをおいているかを物語っている。逆に、あくまで自分自身の作品の時間軸を追いかける人は、メディアアーティストやプロジェクションマッピングアーティストとして、人々が立ち止まって鑑賞する場所に転向していった。

 ライブ演出としてのVJは様々な方向性があるが、主に二通りに分かれていったと思う。

 それは、歌詞先行型と、世界観先行型である。実のところ、ライブ演出用のVJは実はそれほどインタラクティブでない場合が多い。なぜなら、最近の音楽ライブは、DAWからオケを流しながら演奏することがほとんどなので、DAWの尺に合わせて映像コンテンツを作りこんでおけば良いからである。

 歌詞先行型の例としてはアイドル系の事例が多く、ももいろクローバーZなどのライブビデオを見るとイメージが湧きやすい。これらの場合、歌詞の世界観に合わせた作りこまれたCGを多用し、歌詞や曲名自体をモチーフにして大画面に映すことも多い。映像演出で世界観を作るというよりも、あくまでも主役はステージ上のパフォーマーであり、映像は補完的に使われ、ライブカメラの映像と交互に切り替えられながら使われることもある。このようなスタイルの場合、その演出をするのはVJではなく、舞台演出家が集めるCG制作業者と映像演出業者のチームの場合が多い。

 特に事務所の規定が厳しいグループの場合は、演出の都合に合わせていかに素早く効率良く対応できるかといったチームとしての対応力が求められることが往々にしてあり、組織としての調整力が重要になる。

 一方で、世界観先行型というのは、音楽と映像、照明全部を含めて総合演出的にライブを考えているチームに多くみられる。トム・ヨークやPerfume等のライブ映像のように、映像自体に存在感をもたせたり、映像とライブがシンクロするのを前提にショーを組んでいる場合が多い。この場合VJに求められるのは音楽の持つ世界観やグルーヴ感をいかに表現するかであり、映像表現自体と対等な存在感が求められる。なお、やはり大規模な案件になるとVJというよりは演出家やディレクター的な立場で動き、実際の制作はチームでの作業になることがほとんどであるので、VJはアーティストであると同時に優れたディレクターであることが求められる。

 冒頭で例として挙げたリキッドライティングはこの世界観先行型VJの先駆者といえる。当然世界観先行型の場合は映像表現と照明演出の垣根は無く、VJと照明が密に連携をとるのが常である(なお、ここの連携がとれてなくてイマイチ盛り上がらないイベントも多い)。

 特に近年はコンピューターの性能が著しく向上した結果、事前に作りこんだ映像だけでなく、その場でリアルタイムに映像を生成するジェネレーション系のコンテンツを混ぜることで音楽と映像が同期する演出が注目されるようになっていった。2011年のPlastikmanの『FMF』のライブ演出等は、ジェネレーション型演出を活用した有名な事例である。

 従来はジェネレーション型コンテンツを作ろうと思ったらMax/Msp/JitterやProcessing、vvvvのようなプログラミング系ソフトを使うのが主流だったが、よりプログラミング未経験者でも扱いやすくしたソフトとして、最近ではTouchDesignerやNotchというソフトが近年注目されはじめている。

 TouchDesignerは、元々Houdiniというハリウッドなどで活用される3D制作ソフトをライブ用に特化させたものであり、その安定性・拡張性の両方から現場で支持されている。Kinect等の3Dカメラとの連動や照明機器といった各種センサー周りのプリセット、マッピングのやりやすさも充実しているので、プロジェクションマッピングやインタラクティブアートでも活用されることが多い。また、WHITEvoidチームの有名な作品であるSKALARやDEEPWEBのように、TouchDesignerを照明制御装置として活用するインスタレーション作品も増えてきている。

 TouchDesignerユーザーサミット(TouchDesigner Berlin summit)が2018年から毎年開催されているが、世界中から集まるTouchDesignerユーザーの使い方はまさに千差万別であり、TouchDesignerがツールを作るツールと言われるゆえんでもある。かくいう私もTouchDesignerを映像と照明の両方を同時にコントロールするソフトとして独自活用しており、2018年のTouchDesignerBerlinSummitでは、TouchDesignerを使ったインスタレーションアートの事例の紹介で登壇した。

 TouchDesignerのライバル的な存在としてNotchというものがあるが、Notchの方がより3Dの作りこみに強く、TouchDesignerの方がセンサーやマッピングなどの外部インターフェースの扱いが得意な傾向がある。TouchDesigner、Notch共に共通するのは、強力なジェネレーション機能を持つと同時に、ノードベースのユーザーインターフェースなのでユーザーが独自の作り込みができることである。

 従来のVJソフトでは、どうしても作りこまれたコンテンツをレイヤーで重ねたり、テンプレート化されたエフェクトを加えるぐらいしかできなかったが、これらのノードベースのソフトの場合、ユーザーの想像力と根性次第で無限の拡張性を持つので、同じソフトを使っていてもVJごとに全く違う使われ方をしている。

 これらのノード型ソフトが成長してきた背景には、より一層音楽や空間とダイレクトに呼応する演出を行いたいというVJの留まることのない情熱があったからである。今後は、VJソフト自体の進化はもちろんのこと、VJ毎に個別に自分の使いやすいようカスタマイズしていき、一人ひとりの個性を活かす方向に進んでいくだろう。

 TouchDesignerは他の映像制作ソフトと違い独特の設計になっているので、実際に学びたい場合は、専門書を読むだけでなく直接講師から学べる機会を積極的に活用するのがお勧めである。現在、タワーレコードがタワーアカデミーとして主催する「TouchDesignerを使ったVJ講座」ではVladislav Delay – Untitled Circa 2014 や超テクノ法要などの代表作品で有名なKen-ichi KAWAMURA氏や、『Ultra Japan』やageHaのVJとして有名なREZのNOBUAKI KAZOE氏、インタラクションデザイナー松岡湧紀といった、日本を代表するTouchDesigner専門家が講師となっている。

 音楽ライブに限らず、エンターテインメント分野において一般化しつつあるVJ。まだ伸び代が多分にある発展途上の分野なだけに、今後クリエイターの需要も増えていくことが予想できる。

■VJyou
高校時代よりベーシストとしてバンド活動や作曲活動を開始。2006年、しばし滞在していたドイツで出会った光景をきっかけに、映像と照明を掛け合わせた空間演出家VJyouとして活動を開始。2008年にベルギーのArkaos社よりGrandVJ Artistとして登録されたのをきっかけに、アップルストアなどでVJセミナー講師も行うようになる。 「いつも歩く道からほんの少し違った世界」をテーマに、実写素材とプログラミング素材を掛け合わせたインタラクティブで有機的な表現を続けた結果、ダンスと画を融合させたLiveCinemaという作品作りを開始。2014年にはCID ユネスコ WORLD DANCE CONGRESS 2014 にてLiveCinema 『Awake』を上演するなど、国内外問わず精力的に活動を続けている。
http://vjyou.com/

■講座詳細
「TouchDesignerを使ったVJ講座~ジェネ映像編~」
メイン講師(敬称略):Ken-ichi KAWAMURA
主催:タワーアカデミー
会場:東京アニメーションカレッジ(高田馬場)
受講料:¥39,800(税込)
日時 ・オリエンテーション:11月23日(土)13:30~15:00(講師:Ken-ichi KAWAMURA、KAZOE NOBUAKI)
・第1回:11月23日(土)15:30~17:00
・第2回:11月30日(土)13:30~15:00
・第3回:11月30日(土)15:30~17:00
・第4回:12月7日(土)13:30~15:00
・第5回:12月7日(土)15:30~17:00
お申込み

「TouchDesignerを使ったVJ講座~プリレンダ編~」
メイン講師(敬称略):KAZOE NOBUAKI
主催:タワーアカデミー
会場:東京アニメーションカレッジ(高田馬場)
受講料:¥17,000(税込)
日時 ・オリエンテーション:11月23日(土)13:30~15:00(講師:Ken-ichi KAWAMURA、KAZOE NOBUAKI)
・第1回:12月3日(火)19:00~20:30
・第2回:12月10日(火)19:00~20:30
お申込み

「TouchDesignerを使ったVJ講座~GLSL編~」
メイン講師(敬称略):松岡湧紀
主催:タワーアカデミー
会場:東京アニメーションカレッジ(高田馬場)
受講料:¥17,000(税込)
日時 ・オリエンテーション:11月23日(土)13:30~15:00(講師:Ken-ichi KAWAMURA、KAZOE NOBUAKI)
・第1回:12月14日(土)13:30~15:00
・第2回:12月14日(土)15:30~17:00
お申込み

「TouchDesignerを使ったVJ講座」 申込みページ
タワーアカデミー オフィシャルHP
タワーアカデミー オフィシャルTwitter

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