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【おとな向け映画ガイド】

上映時間は約90分、息抜きにほどよい2本。マジギレ男の怖すぎる運転『アオラレ』、フランスらしいエスプリのきいた『ローズメイカー 奇跡のバラ』。

ぴあ編集部 坂口英明
21/5/23(日)

イラストレーション:高松啓二

今週末(5/27〜29)に公開される映画は17本(5/21時点)。多少増えてきましたが、公開日や映画館の営業時間は流動的です。ご鑑賞の際は、作品や映画館の公式サイトで上映時間などをご確認いただいたうえでお楽しみください。今回ご紹介する作品は、5/28公開予定の2本。ちょっとした車のトラブルからとんでもない事件に発展するアメリカ映画と、バラ園を舞台にした心温まるフランス映画。まったく毛色の違う2本ですが、両方とも楽しめること間違いなしです。

クラクションを鳴らしただけなのに……
『アオラレ』



アオリ運転から始まる恐怖の事件。で、このタイトルです。常軌を逸したアオリ・ドライバーが怖い、ひたすら怖い。救いようのない、モンスターのようなこの役どころにアカデミー賞俳優ラッセル・クロウを当ててくるところがすごい。なんとも豪華なB級アクション、もとい、アクションスリラー、いやいや、ホラー映画です。

みんなイライラしています。SNSによる中傷、就職難、記録的な渋滞、街なかの小競り合い……アメリカはおかしなことになっているぞと、タイトルバックで世の中のイライラを暗示的に紹介し、ドラマが始まります。

被害者のレイチェルは、離婚したばかり、シングルマザーの美容師です。月曜の朝、遅刻寸前の子どもを学校に送ったあと仕事に向かわなければいけないのに、途中の道が混んでいる! 動かない! そんなとき、信号が青になったにもかかわらず、前の車が発進しないんです。イラッとして、強くクラクションを押してしまった。それが悲劇の始まりでした。相手が悪かった。この男、実はこの日の明け方、とんでもないことをやらかして逃亡中。一瞬考え事をしていた。そこにクラクション。で、またキレた。なんて礼儀知らずの女だ、許っさん……。

ここから、この男の粘着的ないじめ、というか、攻撃が始まります。アオリだけではありません。レイチェルをターゲットにしたハンティング・ゲーム。それにしても度をこえていて……。

悲劇のレイチェルを演じているのはカレン・ピストリアス。悪夢のような災厄に立ち向かう気丈なお母さん役です。ラッセル・クロウは脚本を読み、最初「絶対に出演しない。恐ろしすぎる。しかも役が暗すぎる」と思ったそうです。が、あえてその難役を引き受けた。まさにはまり役です。つまり、恐ろしい!

不気味なトレーラーに追いかけられる『激突!』、渋滞で男がブチ切れる『フォーリング・ダウン』といった映画を思いだします。波状攻撃はまるで『ジョーズ』のよう。

被害者が、怒りの琴線に触れる言動をついうっかりとってしまう。それでどんどん深みにはまっていく。映画にはよくあるパターンですが、それをハラハラドキドキ、他人の不幸は蜜の味、なんて多少悪魔的に考えながら愉しむのもいいかと思います。しかも時間も90分。飽きる暇もありません。脚本のカール・エルスワース、監督のデリック・ボルテはともにそれほど著名ではありませんが、実によくできたエンタテインメントです。

【ぴあ水先案内から】

植草信和さん(フリー編集者、元キネマ旬報編集長)
「……驚くべきはクロウの変貌ぶりだ。体形は韓国のマ・ドンソクだが、地獄の底を見ているような凶悪な眼で、人格が“コワレテいる”とすぐ分かる。……」
https://bit.ly/3oxIELT

春錵かつらさん(映画ライター)
「……本作で語られるのは「不作法の連鎖」であり、ひとつの厄難を通して「怒りを制御できない」「己を正当化する」といった現代社会における人々の不安定さを浮き彫りにしている。……」
https://bit.ly/3wkv6Wx

新しい品種を仲間と創る
『ローズメイカー 奇跡のバラ』



紅いバラの花言葉は「あなたを愛しています」。ディーン・マーティンの甘い歌声、『ブルー・レディに紅いバラ』で始まるこの映画、「花言葉」もステキに使われています。

タイトル通り、新種のバラを作る「育種家」を主人公にした、感動サクセスストーリー。フランス製らしく、細部がおしゃれで、いたるところでエスプリがきいています。画面にはいつも花が映っていて、なんともなごみます。いろいろままならぬことも多く、気持ちがふさぐ昨今、とてもおすすめの作品です。

パリ郊外で、父から受け継いだバラ園を営むエヴ。かつては新種の開発で数々の賞を獲得したこともある天才ローズメイカーですが、近頃さえません。大企業に客を奪われ業績は悪化の一途、従業員を雇うお金にも困るありさま。助手のヴェラが思いついたのは、職業訓練所から訳ありの男女を格安の賃金で雇うことでした。ムショ帰りの青年など3人。最初は使いものにならないのですが、彼らの存在が、エヴのクリエイティブなローズメイカー魂に火をつけて……、と話はテンポよく進みます。

バラの本場、フランスのドリュ社をはじめ、名だたるバラのスペシャリストが監修などで協力。新種をどう創るかといったバラ栽培のあれこれもわかります。撮影もドリュ社のバラ園で行われて、これが美しいというか、観ていて幸せな気持ちになるんです。エヴの作品として紹介される「アンナプルナ」と名付けられたシルキーホワイトのバラをはじめ、さまざまなバラが登場します。

エヴを演じるのはフランスの大女優カトリーヌ・フロ。『ルージュの手紙』ではカトリーヌ・ドヌーブの娘役でした。主演はあの作品以来。従業員の3人では、やはりワルのフレッドに扮したメラン・オメルタが印象的です。インディーズ系のラッパーです。監督は長編2作目のピエール・ピノー。とても後味のよい映画です。

【ぴあ水先案内から】

立川直樹さん(プロデューサー、ディレクター)
「……何とも軽やかで楽しく、ちょっとハラハラさせて、少し泣かせてくれる“素敵なフランス映画”だ。……」
https://bit.ly/2T1WlqB

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