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立川直樹のエンタテインメント探偵

オリジナル演出版ミュージカル『エビータ』は生で、自分の目でしっかり観るべき傑作

毎月連載

第3回

(C)渡部孝弘

 東急シアターオーブで7月29日まで上演されているミュージカル『エビータ』は掛け値なしによく出来ている舞台だった。

 音楽がアンドリュー・ロイド=ウェーバー、作詞がティム・ライス、演出がハロルド・プリンスとミュージカル界の三大巨匠が組んで上演された1978年の初演に準じたプロダクションの来日公演。15歳のエヴァが田舎から逃げ出したい一心で誘惑するタンゴ歌手マガルディを演じ演出家代理も務めるアントン・レイティンは「ミュージカルを代表する3人の天才が創造力のピーク時に作った“魔法のような傑作”。物語では大統領夫人となったエヴァ・ペロンの生涯とアルゼンチンの歴史が描かれますが、この作品は演劇の歴史の上でも大きな意味を持っています。作品を見ていただければ、初演当時、とても革新的なスタイルであったことが見て取れるでしょう」と自信にあふれたコメントを口にしているが、その言葉通り、1980年トニー賞で最優秀作品賞を含む7部門を総なめにしたこのプロダクションは、古びたところなど全くなく、テーマの先進性、1996年の映画化では主役を演じたマドンナがシングルヒットもさせた名曲『ドント・クライ・フォー・ミー・アルゼンティーナ』に代表される音楽の素晴しさと実力の高いキャスト陣によって、恐ろしく完成度の高いものになっているのである。

ミュージカル『エビータ』 (C)渡部孝弘

 舞台上の大きなプロジェクターにドラマが映し出され、「アルゼンチンの精神的指導者であるエヴァ・ペロン大統領夫人が、永遠の眠りについた」という悲痛なアナウンスが流れる冒頭のシーンから最後まで、観る者の心をとらえて離すことのない流れ。スクリーンを使う舞台というのは今や珍しくも何ともないが、その必然性と使い方のうまさではこの『エビータ』にはやられた!という感じがするし、これはやはり生で、自分の目でしっかりと見るしかその素晴しさを理解できないと思わされた。

たばこと塩の博物館『モボ・モガが見たトーキョー』、BSジャパン『ちあきなおみ魂の熱唱!伝説の名曲20選』

 それは、たばこと塩の博物館で開催されていた『モボ・モガが見たトーキョー 〜モノでたどる日本の生活・文化〜』と題された展覧会についても言えること。新聞の片隅にあった囲み広告で知って観に行ったのだが、花王ミュージアム、セイコーミュージアム、東武博物館、郵政博物館と連携しての展示は規模は大きくないものの1920年代から40年代までのモダンデザインにこだわった商品や広告の“現物”はとても魅力的で“クリエイティブ”と“センス”というものの重要性をしかと感じることができたのである。

 そして思ったのは、時代は過ぎていくのだということ。6月25日に六本木の青山ブックセンターが閉店したのも僕にとっては大きな出来事だったし(もっとももう随分前にかつての輝きと個性を失ってはいたが)、その時に“WAVE”と“シネヴィヴァン”の思い出もフラッシュバックしてきたが、資料やメモを整理していた7月8日の夜にBSジャパンでチェックできた『ちあきなおみ魂の熱唱!伝説の名曲20選』もそうした想いに拍車をかけた。平成4年4月18日、当時44歳の彼女の最後の出演となった舞台で歌われる『黄昏のビギン』までの歌の力。友川かずき作の『夜へ急ぐ人』や『紅とんぼ』、最後のシングルになった平成3年の『紅い花』などの圧倒的な歌の表現力と美しい狂気を感じるパフォーマンスはもう見ることができないという現実を感じるとさらにマジカルなものに思える。こんな拾いものがあるからテレビにはまだ別れが告げられないでいる。

作品紹介

ミュージカル『エビータ』

日程:2018年7月4日~29日
会場:渋谷・東急シアターオーブ
作詞:ティム・ライス
作曲:アンドリュー・ロイド=ウェバー
演出:ハロルド・プリンス
出演:ラミン・カリムルー/他

『モボ・モガが見たトーキョー 〜モノでたどる日本の生活・文化〜』

会期:2018年4月21日~7月8日
会場:たばこと塩の博物館 2階特別展示室

『ちあきなおみ魂の熱唱!伝説の名曲20選』

放送日:2018年7月8日 夜7時
BSジャパン

(C)BSジャパン

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

 1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)。

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