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凪良ゆう&瀬尾まいこ、本屋大賞受賞者の新作が2作ランクイン 文芸書ランキング

リアルサウンド

20/11/13(金) 10:00

週間ベストセラー【単行本 文芸書ランキング】(11月4日トーハン調べ)

1位『半沢直樹 アルルカンと道化師』池井戸潤 講談社
2位『アンと愛情』坂木司 光文社
3位『滅びの前のシャングリラ』凪良ゆう 中央公論新社 
4位『月が導く異世界道中(15)』あずみ圭 アルファポリス 発行/星雲社 発売
5位『少年と犬』馳星周 文藝春秋
6位『気がつけば、終着駅』佐藤愛子 中央公論新社
7位『出遅れテイマーのその日暮らし(6)』棚架ユウ/Nardack イラスト マイクロマガジン社
8位『夜明けのすべて』瀬尾まいこ 水鈴社 発行/文藝春秋 発売
9位『転生したらスライムだった件(17)』伏瀬/みっつばー イラスト マイクロマガジン社
10位『転移先は薬師が少ない世界でした(4)』饕餮/藻 イラスト アルファポリス 発行/星雲社 発売

 11月の文芸書週間ランキング、1位は先月と変わらず『半沢直樹 アルルカンと道化師』(池井戸潤)だが、注目は新刊小説。まずは2位の『アンと愛情』(坂木司)。最近では『赤毛のアン』を下敷きにしたカナダCBCとNetflixの共同製作ドラマ『アンという名の少女』が話題を呼んだが、こちらのアンはややぽっちゃりの主人公、梅本杏子(きょうこ)の愛称だ。だが『和菓子のアン』『アンと青春』という前2作タイトルからは、著者・坂木氏の『赤毛のアン』に対するリスペクトが感じられる。

 内容はとくべつ『赤毛のアン』にちなんでいるわけではないが、アン・シャーリーが赤毛とそばかすに悩まされながら、親友をはじめとする多くの愛しい出会いを通じて自分の道を切り開いていったように、杏子もまた容姿にコンプレックスを抱きながらも、高校卒業後に働くことになったデパ地下の和菓子屋で一歩ずつ成長していく。その過程をただのお仕事奮闘ものとしてではなく、和菓子にまつわる日常ミステリとして描きだしていくのが本作の魅力。累計80万部を突破した人気シリーズ、2年ぶりの待ちに待った新刊とあって堂々ランクイン。刊行に際して寄せられた〈お菓子は、生きるための必須の要素ではありません。でも人はいつの時代もどこの国でもお菓子を作り、食べてきました。それはおそらく、お菓子が「心を生かすもの」だから。〉という著者の言葉が、響く。

 続く3位は2020年本屋大賞受賞後第一作となる凪良ゆう氏『滅びの前のシャングリラ』。なんと発売前に重版が決定し、10万部を突破。いま読者がいちばん新刊を待ちわびている作家であることの証左といえるだろう。タイトルに「滅び」とあるように、同作の舞台は小惑星衝突による人類滅亡を1カ月後に控えた世界。最初は混乱していた人々も、やがて滅亡が本当だと知れると、法を無視して好き勝手な行動に出はじめ、窃盗や暴行、レイプがあたりまえになっていくなか、語り手となるのは現代日本に生きる4人の男女だ。

 〈間違いだらけの人生をいまさらなかったことにもできないなか、その終わりが見えたとき、いかにして人は本来の自分に戻ることができるのか、希望を見出すことができるのか、というのを書きたかったのかもしれません〉と語る凪良氏は、作中で理性を失った獣と化した人々のことも決して否定はしない。追い詰められたときどんな行動に出るのか――個人の好悪と善悪は別問題だ。理性を手放してしまい暴動に流れることもまた選択のひとつであり、とくに無法化した世界では誰にも留めることはできない。ただ、そのうえで自分自身はどうありたいか。17歳、いじめられっ子の少年と、やや好戦的なその母。母と過去にかかわりのあったらしいヤクザ者の男と、誰もが名を知る日本の歌姫。それぞれがどんな道を選び、大切な人と己の矜持を守っていくのかを凪良氏は繊細な筆致で描きだす。そして物語を通じて、読者の私たちは、簡単には終わってくれない世界をどう生き続けていくべきかを考えさせられるのである。

 8位『夜明けのすべて』も、瀬尾まいこ氏の2019年本屋大賞受賞後第一作。主人公は2人。生理が始まって以来PMS(月経前症候群)に苦しめられてきた藤沢さん(28歳)と、2年前にパニック障害を診断された山添くん(25歳)だ。

 PMSとパニック障害。一見、なんの共通項もなさそうな病である。だが山添くんの落とした薬は、かつて藤沢さんが処方されたものだった。親近感から手を差し伸べようとする藤沢さんに対し、最初、山添くんは反発する。いつパニックに襲われるともしれず、電車に乗ることもできなくなった自分のほうが、月に一度のPMSよりつらいに決まっている、と。けれど症状はちがえど、似た傷と痛みはある。医者にかかっても根本的な解決法を見つけられないまま望んだ仕事を続けられなくなり、小さくてアットホームな会社にやむをえず再就職した、という点で2人は同じなのだ。人生を壊すほど重い症状を、誰にも理解してもらえないという点も。

 相手の痛みを理解するということは、その実際を実感する、ということではない。仮に同じ痛み、同じ症状だったとして、耐えられる程度は人によってちがう。自分には想像もつかないけれど相手がとほうもなく苦しんでいる、ということを受けいれる姿勢が大切なのではないだろうか。藤沢さんと山添くんは、それぞれ発症するタイミングも、仕事上での得意・不得意も異なる。だからこそ自分に手を差し伸べられるタイミングで、できることを補いあっていく。そんな2人を会社の人たちもそっと見守り、全員で居心地のいい場所をつくりあげていく。それこそが「ともに生きる」ということなのだと、本書を読むと思う。

〈人生は想像より厳しくて、暗闇はそこら中に転がっていて、するりと舞い込んできたりします。でも、夜明けの向こうにある光を引っぱってきてくれるものも、そこら中にきっとあるはずだと思いたいです。〉

 ――これは発行元である水鈴社のホームページに掲載されている瀬尾氏直筆の手紙だが、自身が2年前にパニック障害を発症した経験を綴ったこちらもあわせてぜひ読んでみてほしい。ただし物語は物語として純粋におもしろいので、先入観なしで読むためにも読了後をおすすめする。そのほうがおそらく、より沁みる。

■立花もも
1984年、愛知県生まれ。ライター。ダ・ヴィンチ編集部勤務を経て、フリーランスに。文芸・エンタメを中心に執筆。橘もも名義で小説執筆も行い、現在「リアルサウンドブック」にて『婚活迷子、お助けします。』連載中。

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