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みうらじゅんの映画チラシ放談

『泣く子はいねぇが』 『ボルケーノ・パーク』

月2回連載

第49回

── 今回の1作めは、『泣く子はいねぇが』ですね。

みうら これはやっぱり“なまはげ”ファンとしては押さえておかなくちゃいけない映画だと思って選ばせて頂きました。

僕も一時、安齋肇さんと一緒に“なまはげ兄弟”って名乗って番組までやってたんです。ま、CSなんで誰も知らんと思いますが(笑)。ふたりで秋田までなまはげを見に行ったこともありましたし、なまはげ伝承館(男鹿真山伝承館)には個人的に行ったのも含め4回は行ってると思います。

なまはげは本来大晦日のものなんですけどね、伝承館では観光客向けに、家になまはげがやってくるパフォーマンスをやってくれるんですよ。そのときにやはり気になったのは、なまはげの高齢化でしてね。

一度も、子供の客はいなかったですけど、映画のタイトルでもある常套句の「泣く子はいねぇが」はやはり使わないといけないんで、なまはげは子供を叱りつける体で我々に向かってくるわけです。

で、その時、なまはげとしては、僕と安齋さんをターゲットにしたんですね。形状も僕ら、なまはげ寄りでしたし、土間から上がりこんできて、僕らの身体を揺すぶって「泣く子はいねぇが!」って仰ったわけで。

でも、さすがにそれだけでは間が持たず、何か他に説教をと「ファミコンずっとしてるやついねぇが!」って言ったんですね。

今から20年くらい前のことですけど、もうファミコンなんてとっくになくなってる時代でね(笑)。まあ、僕らより高齢のなまはげたちからしたらファミコンも最新機種だと思ったんでしょうね。こっちも大人気なかったんですけど、つい「もう、ファミコンはないっすよ」って言ってしまったんです。そしたら、なまはげはもうただ黙ったまんまで、僕らの身体をずっと揺さぶり続けてたんです。

そんなことからも、分かるようになまはげ界も高齢化が進んでいて、若い人がやりたがらないんだと思うんですよね。だからこの映画もできたんじゃないですか? 前にこのコーナーで取り上げた『もち』って映画にも似てる話な気がしますが。

── みうらさんが「餅つきの達人のおじいさんと、相棒だったおばあさんの後を継ごうとする女の子の話」って予想したやつですよね。

みうら それです。あれも予想しただけでまだ観られてないんで、勝手に言ってるだけなんですが。

でも、この主人公は“カネも仕事も自信も自分もなにもない”とありますから、たぶん、一度は秋田から上京したんだけど、うまいこといかなくて故郷に戻ってきたってストーリーでしょうね。

で、高校の同級生と再会して、そして結婚に至って、きっと子供ができたんでしょうね。その子がよく泣くんでしょうね。当然カネも仕事も自信も自分もないわけですから、育児にも自信がないに決まってるわけで、イクメンになろうにもアタフタするんでしょうね。

で、そんなときに、思い出したのがなまはげだった。昔は、そういう役柄が村から自分に回ってくるのが嫌で田舎を出たけども……。

── 村を捨てた理由は“なまはげが嫌だったから”なんですか?

みうら 田舎伝承の祭りはやはり体育会系のものでしょ。文化系の人間ってちょっと苦手だったりするもんですよ。それを理由に田舎を出ることだってあるでしょう。

で、「そうだ!」と気づくわけです。ある日、主人公はなまはげの面を被って、自宅に帰り、「泣く子はいねぇが!」って言ったら何と!ピタリと、子供が泣き止むじゃないですか!

── むしろ子供を泣かせるのがなまはげじゃないですか?

みうら いやいや、「泣く子はいねぇが!」っていう以上、泣いてる子に「泣くな!」って叱りつける役割ですからね(笑)。

日本には古来から、授乳してるお母さんの胸に鬼の絵を描いて乳離れをさせるなんていう儀式もありましたから。たぶん一発で泣ききらせる。もう涙も使いきって、二度目はもう泣かない子に育てるっていうことじゃないですか?

で、そのアイデアが功を奏して、イクメン1年生のお父さんたちの間で、なまはげの面が効くらしいと大ブームになる。財津一郎さんが昔っからやってるタケモトピアノのCMも、泣いてる子が必ず泣き止むっていうじゃないですか。ナイトスクープで見たんですけど(笑)。なまはげも伝承芸だけあって、泣き止ませる効果があるんだと思うんです。

── “是枝監督が惚れ込んだ新たな才能”って書かれてますけど、思いのほかスパルタ育児の映画なんですね(笑)。

みうら いや、スパルタというか、今の鬼滅ブームに乗っかって(笑)。大体こんな感じじゃないでしょうかねぇ?

ぴあ編集 僕、実はこれ観てるんですけど……。

みうら そうですか! じゃあ、聞きますが……。

ぴあ編集 はい、ほぼほぼ当たりです。もう当たりと言っていいと思います。

みうら マジですか(笑)。

ぴあ編集 最初の方はもうズバリでした。さすがにイクメンの間でなまはげが流行ったりはしませんけど(笑)。

みうら もう、長年この連載をやってますからね。ほぼ間違いないことを言ってしまい、逆にダメですね、オレ(笑)。

でも一応、確認のためにね、みなさんも観るべきだと思いますよ。ストーリーが分かったからと言って、それだけじゃないですからね。あくまでチラシ予想ですよ(笑)。

── 続いてチョイスしていただいたのは、『ボルケーノ・パーク』です。

みうら 『ボルケーノ』っていう映画は、昔観ましたよ。007のピアース・ブロスナンが主演の火山映画でしたね。でも、ボルケーノが火山だとして、“パーク”がつくのはおかしくないですか?

── 火山島に建設された“最も危険なテーマパーク”が舞台だそうです。

みうら テーマパークって(笑)。ということは火山を取り込んだアドベンチャーパークですよね。ボルケーノ覚悟のパークなんだったら、無事で済むわけがないですよね。「お客さんもそこは分かってた上で」ってパークの看板にも注意書きがあるんでしょうね。あと、「今日はちょっとボルケーノしないかもしれません」なんて日もありますからね(笑)。

── 大自然が相手ですから、100%コントロールするのは難しいですよね。

みうら 僕、何年か前に鳴門のうず潮を見に行ったことあるんですよ。鳴門のうず潮って、ぐるぐる回ってる洗濯槽みたいなイメージじゃないですか。それが見られると思って港から見学ツアーの船に乗ったんですけど、途中でガイドの方が「今日は、出ないかもですね」って言い出したんですよ。

うず潮って、写真でも知ってるし、ものすごく大きいのがいつでも発生してるもんだとこっちは思い込んでるじゃないですか。でも「今日は出ないかもですね」って言われて、観光客は「ええっ!」ってなった(笑)。

かろうじて小さいのが出てたんですよ。それを指さし、「まあ強いて言えば、これうず潮ですね、写真撮られるんだったらこれしかないですね」ってガイドの人は言うんです。僕もそれを撮って帰ったことがあったんですがね。

その思い出からすると、ボルケーノ・パークも出てない日は全然出ないですよね。少しの噴煙だけとか。出てない日に行ってしまった人はがっかりすることは間違いないでしょう。

ということは“最も危険な状態”になったときは、客だって大喜びするってことですよね。そりゃあ写真も撮るでしょう。映えますからね。むしろこのチラシみたいな状況は、このテーマパークの客たちからすれば最大の映え写真ですよ!

そんな危険だと分かって作られたパークにわざわざ行っておいて、泣いてるようじゃダメですよね。でも、これはひょっとしてですけど、「あそこは全然噴火しない」なんて噂が立っちゃって、閉鎖に追い込まれそうなパークが、どうにかして噴火するようにダイナマイトを仕かけてですね、誘発したら「本気のやつが出ちゃった!」みたいなパニック展開なんじゃないですかね。

── これも大体合ってそうですね。裏面の説明だと“世界初の火山テーマパーク、そこでは活火山を間近に感じ、未体験のスリルが楽しめる、しかし賑わう人々の真下ではマグマが目覚めようとしていた、そして今、史上最大の大噴火の時が近づく”とあります。

みうら それってパークの看板の注意書きにもある文面ですよね。「あなたの近くでマグマが目覚めようとしています!」って煽り文句ですよ。

でも、そこまで目覚めてなかった。『ジュラシック・パーク』でも経営難の話は出ますからね。きっと助けに来た主人公の男に、テーマパークの経営者のオヤジがバーン!って1発殴られるんでしょうね。絶対に「自然をバカにしてんのか!」ってね。うーん、これは観たくなってきた、なんだか観たくなってきましたよ。

── これよく見たら監督は『コン・エアー』のサイモン・ウェストですけど、中国が製作した中国映画ですね。

みうら 中国映画なんですか? いや、今、中国はカネ持ってますからねぇ。

もしかして、映画の企画だったはずが、本気で火山が爆発したんじゃないですか? 途中からドキュメンタリーに変わったりするんじゃないかな。それはそれで観たいですね。やっぱり大画面で観るべきですね。

最近の子供は映画館に行くと、スクリーンに映る人が実在の人間より大きいって驚くんですってね。みんな巨人かよ(笑)。火山はさすがに実際より大きく映すのは無理でしょうけど、なるべくでっかいサイズで見てこそ、真の魅力が感じ取れると思うんですよね。

── 上映時間は94分とコンパクトです。

みうら いいですね。パニックものとしてはちょうどいいです。

こういう映画がやたら長くなったのは、ジョン・ギラーミン(『タワーリング・インフェルノ』の監督からですよね。とりあえずあの頃は有名な俳優をいっぱい投入するパニック大作が多かったですから。でもそれだと長引いちゃうんですよね。本当は火山だけでいいですから。別にいろんな脇役の心情に時間を割かなくていいと思うんですよね。

── 主人公は火山学者の親子で、父親がパークに警鐘を鳴らしていて、娘の方はパークで働いているという設定のようです。

みうら ああ、よくある設定ですね(笑)。

ということは、親父はきっとラスト、死にますね。きっとそれまで頑固な父親だったんでしょうね。あと“実業家のハリス”っていう役は、『モスラ対ゴジラ』で佐原健二さんが演じたパークを作ろうとする山師な感じの社長ですよね、きっと(笑)。

いろいろと懐かしい感じが詰まってますよね。かなり面白そうですけど、早く観ないと上映が終わりそうです。これは急いで観に行かないと!

取材・文:村山章

(C) 2020「泣く子はいねぇが」製作委員会
(C) 2020 Meridian Entertainment (Foshan) Co. Ltd. All Rights Reserved

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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