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五感で味わう米津玄師の音楽

ナタリー

北海道・江別 蔦屋書店で行われた「Pale Blue Melt」の様子。

米津玄師のシングル「Pale Blue」の収録曲をモチーフにしたジェラートを販売するポップアップストア「Pale Blue Melt」が、10月1~3日の北海道・江別 蔦屋書店での開催をもって終了した。ライブツアーの開催が叶わなかった2021年の夏、米津の“音楽”は歌詞の世界を表現したジェラートというこれまでにない形で全国へ。コロナ禍における新しい“音楽”の届け方を探るべく、編集部は「Pale Blue Melt」の終着点である北海道・江別市を訪れた。

取材・文 / 清本千尋 写真提供 / REISSUE RECORDS

2018年に始まっていた香りの演出

楽曲制作のみならず、ジャケットイラストやミュージックビデオなど、視覚でも楽曲の世界を表現してきた米津玄師。2018、2019年に行った千葉・幕張公演では、代表曲「Lemon」を披露する際に会場に“レモン”の香りを漂わせるという凝った演出を行い、聴覚、視覚だけではなく嗅覚でも楽曲の世界を表現してみせた。

来場者を驚かせた“香り”の演出は、2021年6月発売のシングル「Pale Blue」へと引き継がれた。「Pale Blue」では購入者特典として楽曲をイメージしたオリジナルの香りを閉じ込めた「Pale Blueフレグランス」を用意。米津がひさしぶりにラブソングと真っ向から向き合い制作した楽曲「Pale Blue」の“香り”をカードに閉じ込めてファンのもとへと届けた。楽曲を立体的に表現する企画はこれにとどまらず、米津は8月にインテリアグッズを展開するブランド・REISSUE FURNITUREを設立。ブランド第1弾アイテムとして「Pale Blue」を含む5曲の“香り”を表現した「Room Perfume」を制作した。空間を香り付ける「Room Perfume」は「Lemon」「Flamingo」「海の幽霊」「馬と鹿」「Pale Blue」の5種類。どれも楽曲の奥深さを感じさせる複雑な香りで、クリスタルを模したフォルムも視覚を刺激してくれる。

実は「Flamingo」の香りの演出は、2018年にも行われていた。2018年10月にシングル「Flamingo / TEENAGE RIOT」の発売を記念して開催された展示イベント「F / T 秘密基地」の会場でも、「Flamingo」のエリアでは甘い香りが漂っていたのだ。3年も前から始まっていた香りの演出が、コロナ禍で外出自粛を余儀なくされた2021年、それぞれが暮らす場所へと届けられることとなった。

幻のアリーナツアーをたどる

五感のうち、聴覚、視覚、嗅覚、そして触覚もグッズの肌触りなどで体験させてくれた米津。2021年の夏は、楽曲の世界を味覚で表現する企画「Pale Blue Melt」を始動させた。この企画ではシングル「Pale Blue」に収録された「Pale Blue」「ゆめうつつ」「死神」の3曲を北海道の有名ジェラート店・円山ジェラート協力のもと、オリジナルフレーバーのジェラートを開発。もちろん味は米津が監修し、ぜいたくな味わいの3種のジェラートが完成した。

「Pale Blue Melt」は、8月28日に東京で始まったポップアップストアと通販で展開。ポップアップストアは6都市7会場で実施された。ペールブルーカラーのフードワゴンで実施されたポップアップストアには、事前予約した人のみが来場可能。屋外という開放された場所で人数を制限し、感染対策を行いながらジェラートが提供され、商品の販売に加えオリジナルカップを模したフォトスポットや「Room Perfume」の展示、試香も同時に行われた。「Pale Blue Melt」ポップアップストアは10月3日に北海道・江別 蔦屋書店での展開を最後に終了。各地のファンに愛された「Pale Blue Melt」のポップアップストアは、夏の終わりとともに幕を閉じた。

話は遡るが、「Pale Blue Melt」ポップアップストアのスケジュールが発表されたとき、見覚えのある都市が並んでいることに気付いた人も多かったのではないだろうか。過去の米津のスケジュールを確認すると、このポップアップストアは彼が2020年に志半ばで延期したのち、やむなく中止となったアリーナツアー「米津玄師 2020 TOUR / HYPE」の振替公演のスケジュールをベースに回っていたのだ。このツアーはもともと2020年4月に北海道・北海道立総合体育センター 北海きたえーるで幕を下ろす予定だったが、延期日程が2020年10月に設定されていた。一部異なるスケジュールはあるものの、おおよそアリーナツアーの日程で「Pale Blue」の楽曲たちがジェラートとして全国に届けられたのだった。

こだわり詰まった三位一体のジェラート

現地の空気を伝える前に「Pale Blue Melt」で提供されているジェラートを紹介したい。離婚から始まる恋を描いたTBS系金曜ドラマ「リコカツ」の主題歌として書き下ろされた楽曲「Pale Blue」をモチーフにしたジェラート「Pale Blue」は、その名の通りペールブルーのカラーが印象的。開発者への取材によると、曲名からペールブルーの色味にすることは決まっていたものの、楽曲のイメージにぴたりとハマる青色を表現することに苦戦し、試行錯誤の末、今回提供されたジェラートになったという。

ポップアップストアで提供されている「Pale Blue」のジェラートは、チャイナブルーというカクテルをベースにしたちょっぴりビターな味わいのソルベ。チャイナブルーは、スピリッツにオレンジの果皮の苦味と青い着色料を加えたブルーキュラソー、ライチのリキュール、グレープフルーツを混ぜたロングカクテルで、ジェラートの開発者が楽曲の歌詞世界に大人の恋愛を感じたことから、カクテルの要素を取り入れるというアイデアが浮かんだという。チャイナブルーはどちらかというと甘いカクテルだが、ビターな味わいを演出するべくマルガリータの要素をプラス。マルガリータはテキーラにオレンジからできたホワイトキュラソーを加え、ライムを絞った、ドライな味わいのショートカクテルだ。もちろんジェラートはノンアルコールだが、全体に混ぜ込まれたグレープフルーツの果肉が、フレッシュなフルーツを使ったモクテル的な雰囲気をより感じさせる。

「ゆめうつつ」と「死神」は白と黒という対象的な見た目だが、どちらも北海道産の生乳を使ったミルクベースのジェラート。「ゆめうつつ」は米津もたびたび出演し、有働由美子キャスターからのインタビューを受けている日本テレビ系情報番組「news zero」のテーマ曲として書き下ろされた楽曲で、“夢と現実の間を反復する”というテーマで制作されたことを受け開発されたジェラートは、ミルクアイスにバニラビーンズをふんだんにちりばめ、カラメリゼをフレークにして混ぜ込んだカスタードブリュレ風の仕上がりだ。なめらかで濃厚なアイスは口の中でスッと溶け、バニラビーンズのざらりとした舌触りとカラメルのカリカリとした歯ざわりが楽しい。漆黒のビジュアルがインパクトのある「死神」は、濃厚な黒ごまアイス。楽曲のモチーフが同名の落語の演目だったことから、和テイストとなった「死神」は、煎った黒ごまをぜいたくに使った香ばしい味わいだ。黒ごまアイスとは言え、これだけ黒色のアイスはなかなかないが、今回は真っ黒な竹炭パウダーで死神を彷彿とさせる黒色が表現された。

ジェラートは珍しいブルーのコーンか、「Pale Blue」ロゴ入りのオリジナルカップで提供された。香ばしくサクサクと軽い食感のブルーのコーンも円山ジェラートが開発した特注品だ。店頭では記念に持ち帰れるオリジナルカップと写真映えするブルーのコーンのどちらを選ぶかで悩む来場者も多く見られた。サイズはシングル、ダブル、トリプルから選べるが、全種類を乗せたトリプルを注文する来場者がほとんど。今回の3種はソルベとミルクという一見相容れない組み合わせだが、糖度をそろえたことにより、最後まで全種類をおいしく食べられるまさに三位一体なジェラートとなっている。

終着点で見たもの

「Pale Blue Melt」の終着点となった江別 蔦屋書店は、広大な土地に赤レンガ造りの「食」「知」「暮らし」の3棟がそびえ立つ大型店舗で、もちろん「Pale Blue Melt」のポップアップストアは食の棟の前にオープンした。ペールブルー色が目印のフードワゴンには、ジェラートが描かれたミラーパネルや「Pale Blue」のジャケットイラストが飾られている。ジェラートを注文した人は、食の棟と知の棟の隙間に設けられた飲食スペースへ。ここでは「Pale Blue」の収録曲を聴きながらジェラートを味わうことができる。時間予約制のため飲食スペースは常にゆとりのある人数が利用しており、テーブルは人が立ち去るたびにスタッフが消毒。オープンエアの安心できる場所で「Pale Blue Melt」を食べたあとは、飲食スペースの奥に設置された巨大なジェラートカップを模したフォトブースに足を運び記念撮影をしている来場者の姿も見られた。

知の棟では、REISSUE FURNITUREの第1弾アイテムである「Room Perfume」の展示、試香コーナーも展開された。吹き抜けの天井まである巨大な本棚の間を通り階段を登ると、5つの「Room Perfume」のボトルが展示されている。回転する台座に乗り、ガラスケースに入れられたクリスタル型の「Room Perfume」は宝石のような輝きを放っていた。また試香コーナーの反対側にはシングル「Pale Blue」や4thアルバム「BOOTLEG」、5thアルバム「STRAY SHEEP」のCD、書籍「かいじゅうずかん」などが陳列されており、好きな香りの楽曲が入った作品を購入することが可能。楽曲から派生したアイテムをきっかけに、まだ聴いたことのない楽曲と出会える場にもなっていた。

コロナ禍において音楽をライブで直接体感することがままならない状況になった2021年。味覚や嗅覚、触覚で音楽を体感できる「Pale Blue Melt」は、ステイホームで鈍った五感が刺激される貴重な機会となったのではないだろうか。昨年のオンラインゲーム「FORTNITE」を舞台にしたライブイベントでは、仮想空間上での集いによるメタバース体験をさせてくれた米津。新たなチャレンジとなった「Pale Blue Melt」を終えた彼は自身のSNSに思いを綴った。

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