Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

米津玄師、サブスク解禁でバイラルチャート独占 思わず惹かれる言葉のフックと飽きさせないタイトな楽曲を分析

リアルサウンド

20/8/11(火) 12:00

参考:https://spotifycharts.com/viral/jp/weekly/latest

 Spotifyの「バイラルトップ50(日本)」は、最もストリーミング再生された曲をランク付けした「Spotify Top 50チャート」とは異なり、純粋にファンが聴いて共感共有した音楽のデータを示す指標を元に作られたプレイリスト。同チャートを1週間分集計した数値の今週分(8月6日公開:7月30日~8月5日集計分)のTOP10は以下の通り。

1位:米津玄師「Lemon」
2位:米津玄師「馬と鹿」
3位:米津玄師「パプリカ」
4位:米津玄師「Flamingo」
5位:米津玄師「海の幽霊」
6位:米津玄師「LOSER」
7位:米津玄師「ピースサイン」
8位:Tani Yuuki「Myra」
9位:米津玄師「TEENAGE RIOT」
10位:米津玄師「ゴーゴー幽霊船」

 今週のバイラルチャートは“歴史が動いた”と言えるのではないだろうか。チャートが米津玄師の曲で埋め尽くされた。ハチ名義の作品も含めて、50位以内に40曲もランクインしたのである。ニューアルバム『STRAY SHEEP』のリリースに合わせた全曲サブスク解禁についてはトップニュースにもなっていたので、多くの曲がランクインすると想像していたが、これほどまでとは思わなかった。

 この1~2年の間に、ライブ動員がドームクラスのビックアーティストのサブスク解禁が相次いだ。もちろん解禁後は上位に何曲もランクインしていたが、ここまで一色になることはなかった。YouTube再生回数1億回越えの曲が何曲もあったり、「Lemon」が2年連続で「Billboard Japan Hot 100」年間チャート首位を記録したり。米津が実績として叩き出してきた数字は、いつでも桁違いだった。その桁違いな記録に、今週のバイラルチャートの結果もきっと仲間入りすることだろう。

 さて、50位以内にランクインした米津の楽曲を見ていこう。1位~5位を独占しているのは、誰もが知るヒット曲ばかりだ。これは、普段他のアーティストやアイドルの曲を聴いている層が、米津の“あの曲”を聴きたくて再生したからではないかと思う。つまりこの結果は、それだけ彼の曲が世の中で何度も鳴り響き、多くの人の琴線に触れ、それぞれの中に爪痕を残してきた証拠である。

 次に15位以降を注目したい。彼の存在感を音楽ファンの中で不動のものにした『BOOTLEG』(2017年)よりも前のアルバム、さらにシングルのカップリング曲、ハチ名義時代の楽曲が、まんべんなくランクインしている。これは、すでに米津玄師の楽曲に魅了された層が、過去作品を一気に掘り起こしているからだろう。そして、この“米津ディグ現象”にはある傾向があると思う。15位~35位くらいまでの楽曲タイトルにいくつかパターンがあるのだ。「Lemon」や「パプリカ」ような、少し愛嬌あるシンプルな単語(しかも食べ物)のパターン。「海の幽霊」のようにホラー感が匂う物語を彷彿させるパターン。「馬と鹿」のように字面のインパクトでイマジネーションを刺激するパターン。「LOSER」や「TEENAGE RIOT」のように、青さを残してメッセージ性を予感させるパターン。「感電」や「春雷」のように、無骨な字面と語感の柔らかさが同居した、言語チョイスの才能が光るパターン。細かく見ていけば、もっとあるのだろうが、分析はこれぐらいにしておきたい。何が言いたいのかというと、ヒット曲のタイトルと同様の趣を持つタイトルの旧曲が目立つということ。ここに、リスナーが直感で操作できるサブスクならではの傾向が表れていると思う。フィジカルで“ジャケ買い”するような感覚で、サブスクでは“タイトル買い(=再生)”しているのではないか、と。

米津玄師 MV「海の幽霊」Spirits of the Sea
米津玄師 MV「TEENAGE RIOT」
米津玄師 MV「春雷」Shunrai

 そして、このリスナーの直感にダイレクトに切り込んでくるのが、米津の曲の強みである。この原稿を書くにあたり、バイラルチャートにランクインしている全曲を1位から順番に聴いてみたのだが、どの曲もイントロが強烈。さらにイントロからAメロ、さらにサビまでの展開も、複雑であってもタイトで速い。楽曲をスキップさせないための術を心得ている。バンドと並行してボカロPでも活動していたことが、最高の形で彼の楽曲の武器になっている。

 ボカロPの話題が出たところで、最後に6曲ランクインしたハチ名義の曲にも触れておきたい。トリッキーなフック満載、早口言葉のような細かい譜割、突然の転調など、2010年前後のボカロPトレンドを踏まえた楽曲がズラリ。Aメロからいきなりサビに展開する構成、愛嬌と中毒性のある音色を繰り返し使う手法などは、今の彼の楽曲にもつながっている。

ハチ MV「パンダヒーロー」HACHI / Panda Hero
ハチ MV「マトリョシカ」HACHI / MATORYOSHKA

 “Lemon”には、品種によっては鋭い棘がある。その棘は、放っておいたらレモンそのものを傷つけてしまう場合もあるそうだ。「Lemon」という曲を最初に聴いた時、真っ先に浮かんだのがレモンの棘。米津は自分が“自曲の棘”で傷つく場合があることを知りながら、曲を作っているのではないだろうか。彼は多くの人とのコミュニケーションツールとして、傷つくことを恐れずに、楽曲を作り続ける。だから彼の楽曲には、人間の勇気が詰まっている。

米津玄師 MV「Lemon」

■伊藤亜希
ライター。編集。アーティストサイトの企画・制作。喜んだり、落ち込んだり、切なくなったり、お酒を飲んだりしてると、勝手に脳内BGMが流れ出す幸せな日々。旦那と小さなイタリアンバル(新中野駅から徒歩2分)始めました。
Piccolo 266 インスタグラム

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む