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Creepy Nuts×菅田将暉「サントラ」で描かれた両者の生き様 “表現”に賭ける共通項などから楽曲を分析

リアルサウンド

20/7/3(金) 18:00

 菅田将暉、Creepy Nuts各々のファンでも『オールナイトニッポン』(以下『ANN』)リスナー以外は意表を突かれたであろう今回のコラボ。確かにボーイズフッド満載のAMラジオ文化が背景にあったからこそ成立した楽曲だが、ラップとロックのミクスチャーという音楽的な構造を超えて、この2組だからこそ彼らと同世代(20代後半)にブッ刺さる、ある仕事を生業にして生きるもの同士の苦悩と、それでも限界突破に挑む普遍的な作品に着地した。

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 コラボの経緯は昨年、お互いの番組で大阪出身の菅田(箕面市)とR-指定(堺市)の軽い地元のディスり合いと『ANN』お馴染みのタイトルコールを同じように間違えたことから交流がスタート。菅田はCreepy Nutsに今の時代の「今夜はブギー・バック」のようなイメージを伝えたらしいが、結果的には時代を映したような、両者のストイシズムがR-指定のシリアスかつスキルフルなペンによって、生き様を表すレベルの硬派な1曲が完成した。そこにはCreepy Nutsから菅田将暉へのリスペクトと親近感が滲んで見える。

 硬い韻を踏むR-指定のリリックは、一行ごとにラッパーと俳優の真実を淡々と「仕事」というワードで締めていく。だが後半では共通して〈ヒトの感情以外は何一つ生み出さぬ仕事〉と、手にとれない“表現”に賭ける共通項を挙げる。事実だが内省的な印象すら与えるR-指定のラップからグッとギアアップして、菅田の歌メロが耳に飛び込む。意外なことにここでDJ松永はポップパンクとも言える8ビートにオケを接続し、菅田将暉というボーカリストが最も生き生きと歌えるサウンドを用意する。しかも日本映画界のトップランカーに〈映画みたいな生まれ育ちや ドラマみたいな過去じゃなくても〉と歌わせる。いや、菅田自身、特別変わったバックボーンを持っているわけではない。だが、このトリックは冴えている。

 そして2番のラップでは、ラジオでも触れていたようだが、R-指定は“27CLUB”(27歳で亡くなった伝説的なミュージシャンや俳優たちを指す言葉)を思わせる〈26最後の夜、少し期待して目を閉じ眠る 27最初の朝、何事も無くまた目が覚めた〉と綴る。天才アーティストの伝説を少し信じてしまうロマンと愚かさ。このリリックを書いている時点で菅田はちょうど27歳。Creepy Nutsの2人も28歳、29歳といわば同世代だ。

 どちらかと言えばハードコアな生き死にに関わるシーンを渡り歩いてきたわけでもなく、ましてファッションとしてのヒップホップからは最も遠い、ひたすら己の脳味噌と肉体を駆使し、言葉を武器に勝ち抜いてきたR-指定。彼の目には、俳優として生身の10代もバイオレントなキャラクターも怜悧すぎる役柄にも挑んできた菅田将暉という存在は、自分と同じように死に物狂いで身体を動かし、脳味噌が煙を上げるぐらい思考を高速回転させる存在に映ったのではないか。

 脳も含めた身体性の限界への挑戦。そして伝説になるにはもう遅いのかもしれないと思いながら、まだ見たことのない自分を見るために、己を使って実験するーー特にR-指定と菅田には、あらかじめ定められたジャンルなり表現から逸脱していく、良い意味での危なっかしさを感じるのだ。

 それを日常になじませるように扉をガラガラと開ける音や菅田の笑い声を挟んだり、サビでジャンプアップするように痛快なディストーションギターを鳴らし、さらにはギターソロとスクラッチを重ね、落ちサビはR-指定と菅田に歌わせるというボーカルディレクションで、対角線にいた2人を今ここで出会わせるーーDJ松永の曲作りとアレンジのなんと優しいことか。これは単に話題のコラボレーションではない。今の20代男性にとって、そして形のないものを生み出す者にとってハードコアな賛歌なのだ。(石角友香)

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