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『鬼滅の刃』ロスに効く、退魔の物語3選 『筺底のエルピス』『Cocoon-修羅の目覚め-』『錆喰いビスコ』

リアルサウンド

20/6/17(水) 10:00

 人を喰う鬼たちを相手に、刀を振るい戦う鬼殺隊の活躍に魅了された吾峠呼世晴のマンガ『鬼滅の刃』。ライトノベルやエンターテインメント小説でも同様に、人の心を惑わして殺戮へと駆り立てる“鬼”や“悪魔”を探し出し、滅ぼしていく退魔の物語がいくつも書かれている。

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■異能を操り鬼を封じる戦士たち『筺底のエルピス』

 2014年から刊行中のオキシタケヒコ『筺底(はこぞこ)のエルピス』(ガガガ文庫)シリーズもそのひとつ。人類に害をなす鬼を相手に、封伐員と呼ばれる異能の持ち主たちが挑むストーリーには、『鬼滅の刃』から感じられたバトルものの面白さが詰まっている。加えて『筺底のエルピス』は、第3回創元SF短編賞で優秀賞を獲得した作者らしく、宇宙人や異次元といった概念が絡み、時間移動という設定も入った本格SFとしても楽しめる。

 鬼という存在が、昔話に出てくるようなモンスターとは違っている点が『筺底のエルピス』の特徴だ。『鬼滅の刃』では、鬼舞辻無惨が血を分け与ると人間が鬼になったが、『筺底のエルピス』で人間を鬼や悪魔に変えてしまうのは、異次元で発生して地球へとやって来た殺戮因果連鎖憑依体と呼ばれるもの。これに取り憑かれた者は、同族を殺さなくてはいけないという強い衝動に襲われ殺戮を始める。

 首を切ったり日光を浴びせたりしなくても、バラバラに刻めば鬼は倒せる。だが、殺戮因果連鎖憑依体は宿主を倒した人間に乗り移り、新たな鬼を生み出して殺戮を続けさせる。人間たちはこの殺戮因果連鎖憑依体と戦うため、世界各地に組織を作った。

 日本には、宮内庁の管轄下に《門部》という名の組織が置かれた。スカウトしてきた人間に、改造眼球《天眼》を与え、時を自在に止める停時フィールドの能力も使えるようにして、鬼との戦いに送り込んでいた。まさに鬼殺隊。そこで竈門炭治郎のような主人公に当たるのが百刈圭(ももかり けい)という青年で、炭治郎と同じように家族を鬼に殺されたのをきかっけに《門部》に入った。

 『鬼滅の刃』では、呼吸法や型の違いが剣士たちの戦い方に特色を与える。『筺底のエルピス』では、停時フィールドという異能の違いが封伐員たちの戦い方を変える。圭は3秒間だけ対象の時間を完全停止させる《朧箱》という力を使う。同僚の乾叶(いぬい かなえ)という少女は、何でも切り裂く刀《蝉丸》を作りだして振るう。戦いの場面では、誰の力なら敵を上回れるのかといった能力の相性や、戦い方を考えながら読む楽しみがある。

 そんな2人の前に、とてつもない難敵が現れた。有史以来、6体しか現れていない《白鬼》だ。何百万何千万人という大量殺戮の原因になったと見なされている鬼で、絶対に倒さなくてはならなかったが、その《白鬼》に憑依されたのが、叶の親友の少女だったことから、2人は少女を生かしたまま《白鬼》も倒す方法はないのかを追い求める。鬼になった妹の禰豆子を、人間に戻す方法を探しながら鬼と戦う炭治郎のような葛藤が浮かぶ展開だ。

 もっとも、世界は鬼殺隊のお館様や柱たちのようには優しくはない。バチカンに本拠を置いて殺戮因果連鎖憑依体と戦っている《ゲオルギウス会》は、《白鬼》の即時滅殺を求めて《門部》と対立する。北米に拠点を置き、不死身の軍団を繰り出して戦っている組織《i》も蠢動。目的は同じでも、方針の違いから対立する組織が送り込んでくる戦士たちによって、《門部》の封伐員たちがひとりまたひとりと倒されていく。

 主人公の圭すらも討たれ《門部》全滅といった状況に陥りながらも、驚くしかない展開で物語が再開されて、第6巻まで来たシリーズ。最新刊『筺底のエルピス6 ―四百億の昼と夜―』のサブタイトルが意味する内容から、想像を絶する長い時間、鬼と人類との戦いが繰り返され続けていたことが分かる。そうした設定に驚き、バトルシーンの迫力に感嘆し、近づくクライマックスの興奮をリアルタイムで堪能するために、今から追いかけて損はない。

■刀を振るい鬼を狩る吉原の花魁『Cocoon-修羅の目覚め-』

 夏原エヰジ『Cocoon-修羅の目覚め-』(講談社)から始まるシリーズも、人間が鬼と戦う物語。第13回小説現代長編新人賞から出た作品ながら、マツオヒロミが描く美麗な表紙絵とソフトカバーの装丁で、ライトノベルやキャラクター小説好きでも手に取ってみたくなる。

 舞台は江戸の吉原。主人公の瑠璃は、遊女でも最高峰の花魁でありながら、刀を振るって鬼を退治する闇組織「黒雲」の頭領というから、ひとりで鬼殺隊のお館様と柱をやっている。幼い頃、刀を携えて川を流れていたところを、芝居の一座に拾われ育てられた。ところが、座長が死んで女形の次男が後を継いだ際に、目障りだからと吉原の妓楼に放り込まれてしまう。

 15歳での吉原入りは遅すぎる。それでも花魁になれたのは、妓楼のお内儀が請け負ってくる鬼退治を任されたから。瑠璃の出生には秘密があり、携えていた刀や、いつも側にいて人語を話す猫の炎とも関係するその秘密が、彼女を「黒雲」の頭領に押し上げた。瑠璃は髪結いの錠吉、料理番の権三、若い衆見習いで双子の豊二郎と栄二郎を率い、生きながら鬼となって鬼や妖怪を滅する呪力を放つ楢紅を使役して、江戸に現れる鬼を退治して回る。

 「鬼はすべて、わっちが斬る!」という第1巻の帯から、美貌の花魁が颯爽と刀を振るい悪を葬る華やかな退魔ストーリーを想像してしまうが、実際には鬼との戦いは、正義だからとは片付けられない苦渋を瑠璃に味わわせる。鬼の多くは怨嗟や後悔を残して死んだ者たちで、心情を思うと悪だからといって一刀両断にはできない。第1巻でもクライマックスに、鬼になった恩人との慟哭の戦いが待ち受ける。

 巻が進んで瑠璃や「黒雲」の戦いが、江戸幕府の将軍と朝廷の天皇という、巨大すぎる勢力が争う渦中で繰り広げられていたことが分かり、自分を追い出した義兄が敵として立ちはだかって、瑠璃の振るう剣を迷わせる。第4巻『Cocoon4 宿縁の大樹』では関東に封じられたあの大悪霊が復活。戦いは江戸を阿鼻叫喚の渦に叩き込みそうで、続きが待ち遠しい。

■元気いっぱいのキノコ使い『錆喰いビスコ』

 もうひとシリーズ、炭治郎に負けず元気いっぱいの主人公が活躍する話として、瘤久保慎司『錆喰いビスコ』(電撃文庫)のシリーズも挙げておこう。第24回電撃小説大賞で銀賞となった作品で、防衛兵器が起動して東京に大穴が開き、すべてを錆び付かせる風が吹いて滅びかかっている日本で、矢を射りさまざまな種類のキノコを生やす技を持ったビスコという少年が暴れ回る。

 ビスコは、全身が錆に覆われはじめた同じキノコ守りの仲間を救おうと旅をしていた。もっとも、キノコ守りこそが錆を拡散する原因だと思われている世界でビスコはお尋ね者。追っ手と戦いながら旅する途中で、やはり錆の病から姉を救いたいと願うミロという名の医者の少年と仲間になり、錆に効く秘薬を求めて北に向かう。

 すべてが錆びついた世界を、奇妙な生物たちが跋扈しているという、想像力をかき立てられる舞台の上で、たとえ勝てそうもない相手でも、ひるまず挑んでいくビスコのパワフルでアグレッシブな戦いぶりがかっこいい。女子のような顔立ちのミロもビスコに感化され、戦い方を覚え信頼できる相棒になっていく。そんな2人が繰り広げる冒険が、巻を重ねて続いていく。

 赤岸Kが描く荒々しくてスタイリッシュなイラストも作品の魅力を増幅する。圧巻の物語と圧倒されるビジュアルが、映像となって動き出すのはいつかと期待したくなるシリーズだ。

(文=タニグチリウイチ)

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