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スピッツ、『NEWS23』エンディングテーマ「紫の夜を越えて」が届けるひと時の安心感 大きな優しさを放つ本質的なタフさ

リアルサウンド

21/1/25(月) 12:00

 2021年1月4日からスピッツの新曲「紫の夜を越えて」が『NEWS23』(TBS系)のエンディングテーマに起用された。常にささやかな生活と市井の営みを音楽にしてきたスピッツが、1日の終わりに流れる歌を担うのは納得がいく。人生の指針を明確に打ち出したり、分かりやすく気持ちを鼓舞するようなメッセージは綴らないバンドだが、スピッツの音楽は飾らないままで我々の生活に寄り添ってくれる。

 “生活に寄り添うスピッツ”として象徴的なのが現在開催中の『スピッツ コンサート 2020 “猫ちぐらの夕べ”』の有料オンライン上映だ。2020年12月21日から2021年1月31日まで週末を中心に上映時間を設け、ネット環境があれば自宅でスピッツのワンマンライブの映像を楽しめるこの催し。長く上映期間を設けているのはなるべく多くの人に見てもらうためだろうし、リピーターも余裕を持って迎え入れるためだろう。上映形態からも、あらゆるリスナーの生活様式に寄り添うスタンスが滲んでいる。また演奏された楽曲にも彼らの今届けたいイメージが鮮明にあるように思う(以下、演奏曲に関しての記載あり)。

スピッツ / 映画『スピッツ コンサート 2020 “猫ちぐらの夕べ”』ダイジェスト映像

 全編に渡ってゆったりした曲調かつ落ち着いた演奏の楽曲が中心となったこのライブ。観客も完全着席での鑑賞で、体を動かすというより、その楽曲にじっくり浸る楽しみ方を前提としていたことが予想される。これは結果としてオンライン上映の心地良さにも繋がった。自宅でリラックスしながら観るに相応しいライブ映像に仕上がっているのだ。

 セットリストにも温かなストーリー性を感じる。季節的にもぴったりな「楓」には別れの匂いが漂うが、その直後に〈君ともう一度会うために作った歌さ〉と紡ぐ「みなと」が歌われることでそこに再会のイメージが膨らむ。人と人とのリアルな関わりが希薄になり、分断に胸痛めることが増えた今だからこそ、そんな祈りのような物語に思いを馳せてしまう。

 本編を締めくくった「魔法のコトバ」と「正夢」は共に小さな幸せを噛み締めるような楽曲だと思う。サポートキーボードのクジヒロコがMCで引用した「魔法のコトバ」の〈また会えるよ 約束しなくても〉というフレーズは画面を通しても劣らない希望の交換に思えるし、「正夢」は楽曲そのものがこの世界を生き抜くための御守りのよう。〈愛は必ず 最後に勝つだろう そうゆうことにして 生きてゆける〉という言葉は今、あまりにも優しく響いた。

 逞しく打ち鳴らされるドラムの上を骨太なベースラインとしなやかなギターが走り、透明度の高いファルセットを響かせる草野マサムネ(Vo/Gt)の歌声はどこまでも凛々しい。現時点で番組内のエンディングテーマとして流れる数十秒しか明らかにされていないが、その箇所を聴く限り新曲「紫の夜を越えて」は力強い曲だ。

 昨年リモートで制作され、今回のコンサートのタイトルの元となった2020年唯一のシングル「猫ちぐら」は流麗なアルペジオが印象的なメロウな楽曲。君と僕の穏やかな暮らし、そこに訪れた思いがけない出来事とそれでも今見える景色を守り抜くことを誓う約束の言葉が並ぶ。コロナ禍のような未曾有に遭遇すると、小さな世界から大きな優しさを放つスピッツの本質的なタフさに気づかされた。

スピッツ / 猫ちぐら (映画『スピッツ コンサート 2020 “猫ちぐらの夕べ”』より)

 そして「紫の夜を越えて」は、「猫ちぐら」での約束をさらに固く結ぶような頼もしさを感じた。テレビで公開されている歌詞だけで判断するのは時期尚早かもしれないが、一歩踏み出すような言葉が並び、いつも以上に不安な心に寄り添ってくれる楽曲だと思う。報道番組に接すると、不穏な報せや怒りに震える瞬間もきっとあるがこの曲が鳴る時間だけはひと時の安心をもたらしてくれるはず。フルサイズの公開が楽しみでならない。

 草野はこの起用に「新型コロナの影響で従来の価値観が揺らいで、社会全体が不安の霧で覆われそうな昨今です。そんな日々の締めくくりに『NEWS23』を見て一喜一憂した後に、この曲を耳にされた方々が今後少しずつでも霧が晴れて、明るい方へ向かっていけるイメージを持ってもらえたらという思いで作りました」というコメントを寄せた。緊急事態宣言が再び発令され、様々な混沌が先行き不透明なままで辿り着いた2021年。この「紫の夜を越えて」と『猫ちぐらの夕べコンサート』は誰しもに開かれたものであるが、確実に聴き手一人ひとりに届く強度を持つ。スピッツのいる夜ならばきっと大丈夫と思わせてくれるのだ。

■月の人
福岡在住の医療関係者。1994年の早生まれ。ポップカルチャーの摂取とその感想の熱弁が生き甲斐。noteを中心にライブレポートや作品レビューを書き連ねている。
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