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何かを守るために戦う女性たち 『ワンダーウーマン』『透明人間』など2020年のヒロインから学ぶ

リアルサウンド

20/12/31(木) 12:00

 2020年は誰もが疲労し、圧迫感とたくさんのストレスを感じた1年だった。だからこそ、時に自分の器から負の感情が漏れ出てしまい、誰かに心ない一言を言ってしまったり、何かを攻撃してしまったりした人も少なくないのではないだろうか。大変だったけど、私たちは頑張った。健康に、ここまでひとまずやってこられたのは、恐らくスクリーンの向こう側の彼女たちの戦う姿に奮い立たされたからかもしれない。

 軒並みハリウッド大作の公開が延期となった2020年、最後にギリギリ公開されたのが『ワンダーウーマン 1984』だ。前作では第一次世界大戦の最中に活躍したワンダーウーマンが、本作では80年代の欲望渦巻く物質主義の世界で再び人類を守るために戦う。彼女は誰がどう見ても、ヒロイン中のヒロイン……いや、“ヒーロー”だ。ヒロインという言葉は、ヒーローの女性形でしかない。つまり、男性の英雄がいる前提で活躍する女性のことを指している? それなら、今年は彼女以外にもたくさんのヒーローが存在した。ワンダーウーマンのように派手に人助けをしたわけではないけど、現実社会の私たちを救うためにその身を呈して何かを訴えかけてくれたキャラクターがたくさんいる。

 例えば、『ミッドサマー』のダニー。映画は祝祭のために訪れたスウェーデンの村に訪れた大学生たちが、次々と消えていくカルトホラー。しかし、本作は始まりから終わりまでダニーの身に降りかかった理不尽な出来事、彼女の家族の集団自殺によって受けた精神的トラウマを克服しようと、自立する物語なのだ。その自立のために一刻も早く離れなければいけなかったのが、彼女の身を案じて付き添ってくれる“一見優しそうな彼氏”。彼は正直、ダニーに同情はするけど心底面倒くさいし、別れたいのにタイミングが見つからないだけで彼女のことなんか愛していない。愛のない同情は時に、当事者の自立心を削ぐ。それだけでなく、自己肯定感を下げることもある。この彼氏は嫌な男ではあるが、それは表面的にはわかりづらい。立場が対等ではない恋愛関係が、結果としてどちらかを押さえ込んだり、支配したりするものに変わってしまうモヤモヤや違和感が、この映画のおかげで言語化ないし映像化された。トラウマを乗り越える上で、自分を大事にしないパートナーを取り除くことに(協力的な村人のご支援をいただいて)成功したダニーの、自ら解放へと向かっていく姿勢は一定数の女性にとって勇気づけられるものだった。誰かを救うだけがヒーローじゃない、自分のことを救ってあげることができれば、それはもうヒーローと言えるのではないだろうか。

 ダニーは己の抱える負の感情の克服をした意味合いが強いヒーローだが、より男性支配から逃れるために戦ったヒーローたちもいる。『透明人間』の主人公セシリアが、まさにそうだ。彼女は自分の着る服、容姿、食べ物、そして思考までが恋人の望む通りに支配されていた。そしてある日、逃げ出す。ところが恋人は目に見えない特殊スーツを着て、自分の死を偽装し、安心する彼女を再び恐怖で支配しようと背後に忍び寄る。誰も映っていない、空白となった部分に彼が潜んでいる気がする。そういう恐怖演出と、その魔の手から再び逃れようと対峙する女性の強さを描く、本当によくできた素晴らしい作品だった。

 クリストファー・ノーラン監督最新作の『TENET テネット』と『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』も同じメッセージ性を持っている。気に入った相手を暴力的に支配する男に対し、銃弾とキックをお見舞いしたキャットとハーレイ・クインの活躍もここで讃えたい。特に『華麗なる覚醒』ではブラックキャナリーとハーレイという、男性の支配下にいる女性とそれを拒み続ける女性の関係性にも触れている。対立していた彼女たちが、他の女性陣と徒党を組んでブラックマスクに打ち勝つ終盤のシスターフッドもいい感じだ。

 女性と女性がいがみ合って仲良くしない。そういう、「女同士ってなんだかんだ陰口ばっかりで仲良くなさそう」という男性側のイメージは従来の映画に様々な形で投影されてきた。でも、バーズ・オブ・プレイのようにシスターフッドを守り抜いたヒーローたちを描いた作品は今年多かった気がする。例えば『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』。幼少期からの親友であるエイミーとモリーが卒業式前夜にハメを外すコメディだが、終始2人の自己肯定感の高さと仲の良さが楽しい映画だった。体型も性的趣向も違う彼女たちが、お互いを“普通に”受容し合う。それがビッグディールではなく、ごく当たり前のこととして物語が進んでいくことに、意味深さを感じた。

 そして『海底47m 古代マヤの死の迷宮』も、サメパニック映画の皮を被った立派なシスターフッド映画なので是非触れておきたい。両親が再婚し、姉妹になった2人。ミアは学校で陰湿ないじめを受けているが、それに対して黙認するしかできないサーシャ。ただ、これって凄くリアルなキャラクター設定というか、まだ友達としても絆のない相手のために悩まず正義感を振りかざしていじめをやめさせるって、それこそ映画や漫画の中でしかあり得ないっていうほど、難しいことだ。しかしこの2人が、海底洞窟に囚われてしまい、盲目のサメから逃れるために手と手を取り合っていく展開が美しい。本当の意味でお互いを信用し、背中を預けて助け合うことをしていて、ラスト10分の怒涛の救い合いがアツすぎる。

 この2人のように、絶体絶命の中で自分とパートナーの命を守ろうと懸命に戦ったヒーローたちが他にもいる。『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』と『アドリフト 41日間の漂流』はどちらも実話に基づいたもので、どちらも過酷な環境下で男性がダウンし、女性がそれをカバーするかのように奮闘する。『イントゥ・ザ・スカイ』では、高度12000メートルで瀕死状態になったジェームスを置いて、アメリアが気球の上にヒールで登って死にかける。『アドリフト』はハリケーンに飲み込まれたヨットに乗っていたカップルが遭難。リチャードが早々に瀕死状態になり、タミーが食料や水を調達しながら、なんとかセーリングの知識を用いて陸を目指そうとする。

 この2作品、とても似ている。アメリアもタミーも、自分のナレッジをフル活用してパニックにならずに、その場を切り抜けようと頑張る。これは従来の映画における女性の役割から離れ、マンパワーを必要としない女性像が描かれているのだ。そして、もう一つ時代性の面で意味深いと思うのは、“男性が倒れてもいい”こと。「男はしっかりして女を守るべきだ」、みたいな固定観念は時に男性を苦しめる。男性だって、女性に頼ってもいいのだ。どちらも、同じ対等な人間として、対等に強い時も弱い時もあるからこそ、足りないところを補って支え合うべきではないか、というメッセージがこの2作品からは強く感じとれた。

 それに対し、古典的なジェンダーロールとまだ戦っている最中のヒーローたちもいた。『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』は、女性の在り方に疑問を抱く次女のジョーと、時代の中で求められる女性像に合わせていく長女メグ、四女エイミーが比較されて描かれている。「女性は結婚するべきだ」という固定概念に抗い、女性の自由な発想と社会進出を重んじるジョー。しかし、結婚することに本当に幸せを感じるメグやエイミーもいるわけだ。本作は異なる考え方の女性が登場するので「どちらかの思想が正しい!」ではなく、女性間における考えの相違を理解しあい、受け入れ合うことも大事だと映画を観て学んだ。韓国のベストセラーを映画化した『82年生まれ、キム・ジヨン』も、社会での女性のあり方を強いられた性差別に耐えながら、壊れていくジヨンを描いた作品。彼女の痛みはスクリーンを通して、同じ境遇の女性たちを共感させたに違いない。

 ジェンダーロールの苦しみは、性格差に止まらず経済格差さえも生み出す。『ハスラーズ』はまさに、男性や社会に虐げられるストリッパーの女性らが怒り、復讐する作品だ。文字通り体をはって大金を稼いでも、お金が足りない。そんな懸命に働いている彼女たち、労働者のお金は裕福な者に吸い取られていく、 “持てる者と持たざる者”が生まれる社会システムに中指を立てた力強いメッセージに完敗だ。本作はそれだけでなく、先述のようなシスターフッドもテーマの一つとして描いている。

 アメリカで問題視された『ザ・ハント』も、富裕層が個人的な理由で一般人を誘拐し、人間狩りをする“持てる者と持たざる者”の映画だ。そして本作のヒーロー、クリスタルが気持ちいいぐらいサクッと彼らを殺していくのが爽快感抜群。この映画は人間狩りを始めたボス的存在も女性キャラクターだったのが、フェアで好印象だった。『パラサイト 半地下の家族』も経済格差を描いた作品だが、とにかく女性陣のメンタルが強い。本作では一家の生活をどうにかするために、長女のギジョンが兄の偽造書類を作成するところから始まる。それに加え、運転手をクビにするのに一役買うし、母親チュンスクは中盤からラストにかけて大いに活躍する。半端ないプレッシャーの中で、あんなに早く、そしてめちゃくちゃ美味しそうなジャージャー麺を作った彼女は最強だ。

 さて、ここまで2020年に公開された女性が印象的な作品を振り返ってきたが、最後に改めて『ワンダーウーマン 1984』に話を戻したい。本作では、「なんでも一つの願いを叶える石」を巡って、それぞれが思い思いに願い事をする。ワンダーウーマンもといダイアナは、前作で亡くなったスティーヴともう一度会いたいと願う。すると、彼の魂が蘇り他の男性の中に入る(ダイアナ視点では顔がクリス・パイン)。その辺の「中の人大丈夫?」という心配はさておき、要はこれまで自分の欲を無視して人類のために戦ってきた彼女が唯一願ったことが「愛する人とともにいる」ことなのだ。ワンダーウーマンだって、1人の女性だ。しかし、石の力を事業家マックスが取り込み、世界を混沌にしてしまう。人々が欲望に身を任せ、他者を気遣う精神を失い、攻撃し合う。願い事には代償が不可欠で、ダイアナはパワーを失いかけていた。その彼女が再び人類を救うために自分の唯一の願いを諦めて、悲しみに打ちひしがれながら敵陣営に向かう姿が辛い。

 しかしもっと心打たれるのは、たくさん辛い思いをした彼女なのに、それでも最後に人間と愛を信じるその姿勢だ。誰もが自分の欲望のままに行動すれば、戦争は生まれ、環境は破壊され、社会は崩壊する。現実社会でも同じことが起きていて、特に2020年は鬱憤の溜まりやすい年だったからこそ人々がお互いを傷つけたり攻撃的になっていた。SNSシーンでは、向こう側の人の気持ちを考えずに放った140字以内の言葉とヘイトが、相手の命を奪ったことさえあった。ダイアナは、「世界の美しさを思い出してほしい」と涙を流して訴えながら、そんな私たちを大きな愛で抱きしめてくれた。

 たくさんスクリーンの中で活躍した女性がいた、2020年。その中でもやはり、ダイレクトに我々に何かを伝えようと全てを投げ打ったダイアナが印象的だった。来年も、恐らく今年の余波があり、さらに状況が悪化してしまうことだってあるかもしれない。それでも、私もヒロインではなく、“ヒーロー”のワンダー(素晴らしい)ウーマンになりたい。人類相手というのは無理だけど、大変な時でも自分自身と、隣人くらいには憎しみではなく愛で何かを返せる人になりたい。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。2020年は「あつ森」にメンタルを支えられた。InstagramTwitter

■公開情報
『ワンダーウーマン 1984』
全国公開中
監督:パティ・ジェンキンス
出演:ガル・ガドット、クリス・パイン、クリスティン・ウィグ、ペドロ・パスカル、ロビン・ライト
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (c) DC Comics

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