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山本益博の ずばり、この落語!

お気に入りの落語、その十ニ『祇園会』

毎月連載

第38回

(イラストレーション:高松啓二)

京男の「祇園祭」自慢に我慢ならず、切る江戸っ子の威勢のいい啖呵…

「祇園会(ぎおんえ)」とは、京都の東山、祇園町に所在する八坂神社の祭礼「祇園祭」のことで、昔は「祇園会」と呼んだ。

落語の『祇園会』は、『三人旅』という長い噺の最終章にあたり、独立して演じられることがほとんどである。私が初めて「祇園会」を聞いたのは、今から半世紀ほど前、ニッポン放送に遺された古今亭志ん生の『祇園会』を、志ん生ファンの友人がラジオからカセットテープに録音した音源だった。京・大阪のいわゆる上方の歴史と文化に常日頃から劣等感を抱く、私たち東京人が、じつにスカッとする、痛快な落語にたちまち虜になったものだった。

京の上品でおっとりした優男が地元の「祇園祭」を贔屓するのを我慢して聞いていた、喧嘩っ早い江戸っ子が、我慢がならず、堪忍袋の緒が切れた途端、威勢よく啖呵を切り返す。

啖呵ばかりか、江戸の祭り囃子を、大太鼓、小太鼓、笛、鉦を口真似で囃し立てる。スピードに乗って、リズミカルに流れる祭り囃子は、じつに爽快で、昭和生まれの私は、これを聞くと、子供の頃の町内のお祭りの神輿や縁日の夜店を思い出し、いまでも胸躍るのだ。この場面の聴きどころは、文章では到底、再現できない。ぜひとも、CDやYouTubeで聴いていただきたい。

八代目の桂文治が得意にしていて、「祇園会の文治」とまで呼ばれたが、できれば、志ん生の『祇園会』をお聴きいただきたい。

さて『三人旅』だが、いくつかの旅の噺がくっついて出来上がった気配があるともいわれているが、江戸っ子の三人旅が京都を目指した「東海道五十三次」とも、「伊勢参り」のあとに京都まで足を延ばしたともいわれている。この旅のきっかけを作ったのが、「無尽」で手に入れた大金。

この「無尽」と「三人旅」の大筋について、山本進編『落語ハンドブック』には、次のように書かれている。

「無尽」とは「頼母子講(たのもしこう)とも。数人で講を組み、毎月各人一定額の金銭を積み、籤引きで誰か一人が全部をとる」ことで「一種の互助組織」とある。

『寝床』はじめ、落語にしばしば登場する「宝くじ」と思えばよかろうか。

思いがけなく手にした無尽の金、宵越しの銭を持つのは名折れ、これで上方見物でもしようかと、江戸っ子の三人連れ、親戚縁者に品川まで送られて、東海道の旅に出た(発端)。

神奈川の宿で旅籠を決める段になって、前年大山帰りの宿での失敗の思い出ばなし。宿の女のもとへ夜這いに行くつもりが、寝込んでしまって朝這いになった(朝這い、神奈川縮ともいう)。

小田原近く、馬子に馬を勧められ、旅慣れたふりをして駄賃を値切ったつもりが、実は言い値だったり、馬に乗せられた男が、この馬は一日一度癇をだすぞとからかわれて首にかじりつく滑稽などがあって、差し宿の鶴屋善兵衛に泊まる(「鶴屋善兵衛」)。

地方の方言で“おしくら”とよぶ一夜の伽をする女を買おうとすると、女の数が足りない。三人のうちの一人は「死なれた亭主に生き写しのお前に女のほうが惚れている」と、うまい話にのせられて尼さん承知で買うと、これが大へんな老婆。翌朝、他の二人が、それぞれ相手の女に「これで髪の油でも買え」と小遣いをやるので、腹の中はやりたくないが、やむなく、「お前もこれで油でも買って髪に……といっても尼さんで毛がねえや……うゥん、仏壇にお灯明でも上げてくれ」(「おしくら」)。

この三人が珍道中を繰り広げながら、京都へ辿り着き「京見物」となり、「祇園会」の噺へとつながってゆく。

『落語ハンドブック』では、「三人旅」の解説で、次のように説明されている。

昔は京都までの五十三次、ほかにもたくさん噺があったといい、このあと、おしまいは「京見物」「祇園会」につながるともいわれる。といっても初めから順を追って作られたわけではなく、別々に成り立った噺が、何となくうまくつながったということであろう。

「おしくら」は中山道として演じられることもあり、また上方ではほぼ似た内容が「三人旅浮れの尼買い」と題して、「東の旅」の伊勢詣りの一節として演じられる

COREDOだより 橘家圓太郎の『祇園会』

「COREDO落語会」では、今年2021年3月13日の第25回に橘家圓太郎師匠が『祇園会』を高座にかけてくださった。

これが見事な高座だった。なにより京男のおっとりした京都弁が本物で、京都出身のお客様を唸らせたほどだった。

後で、師匠に伺うと「私、福岡出身ですが、子供の頃、京都に住んでいたことがあり、京ことばはなんなく話せるんです」とのことだった。

そして、口立てによる祭り囃子の胸のすくような調子の良さ。大太鼓が「てん、どどっ」と鳴り出すと、笛が「おひゃりとーろ、おひゃりとーろ」と応え、小太鼓が「てんてんてん、すけてんてん」と走り出すと、鉦が「ちゃかちききっ」と追いかける。とてもここでは再現が無理だが、囃子が一段落すると、拍手喝采だった。久しく忘れ難い名高座と言ってよい。

プロフィール

山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。落語評論家、料理評論家。早稲田大学第ニ文学部卒業。卒論『桂文楽の世界』がそのまま出版され、評論家としての仕事がスタート。近著に『立川談志を聴け』(小学館刊)、『東京とんかつ会議』(ぴあ刊)など。

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