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【おとな向け映画ガイド】

女優たちの圧巻の演技、凛とした富司純子『椿の庭』、熱情を秘めたケイト・ウィンスレット『アンモナイトの目覚め』、今週はこの2本をおすすめ。

ぴあ編集部 坂口英明
21/4/4(日)

イラストレーション:高松啓二

今週末(4/9・10)に公開される映画は17本。全国100スクリーン以上で拡大公開されるのは『バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~』『ザ・スイッチ』『21ブリッジ』『砕け散るところを見せてあげる』の4本、中規模公開とミニシアター系の作品が13本です。今回は、ぴあ水先案内人がオススメする『椿の庭』と『アンモナイトの目覚め』をご紹介します。

海を望む高台の一軒家
『椿の庭』



ゆったりとした時間が流れていく、静かな映画です。葉山あたり、近くに海があり、そこから少し丘を上った、庭のある古い一軒家に住む家族の物語です。時代はいつなのでしょうか。特にヒントとなるセリフや映像はありません。NTTが電電公社と呼ばれた時代のライトグリーン色のプッシュホンが出てくるところをみると、80年代なかばかな。

この家の主、絹子さんを演じているのは富司純子さん、いつも和服を着ていて、凛とした佇まいの素敵なご婦人です。いっしょに住んでいる娘さんは渚、という名前。少し、日本語がたどたどしいですが、どうやら孫娘のようです。絹子さんの長女の娘。『新聞記者』で日本の映画賞を総なめしたシム・ウンギョンが扮しています。なぜシムさんが、はおいおいわかります。次女役は鈴木京香さん。結婚して東京で暮らしています。

絹子さんの夫が亡くなって、四十九日の法要を終えた春先から一年の、この家の暮らしをたんたんと描いていきます。手入れのゆきとどいた庭には、椿や藤、あじさい、牡丹、しゃくやくと、四季の花が咲きます。この家の最大の問題は、ばく大な相続税と老境を迎えた絹子さんの今後、です。

監督はサントリーや資生堂などの広告で高い評価を得ている写真家上田義彦。映画は初演出、脚本と撮影もてがけています。どこをとってもスティル・ライフ(静物画)といっていい映像美です。懐かしい、でもリアルな郷愁を誘うものではなく、イメージのなかの追憶の世界。古い日本映画のような。こういう暮らしには憧れますが、エアコンのない夏はもう無理と思いました。絹子さんが時々レコードで聴くのはブラザース・フォーの『トライ・トゥ・リメンバー』。「思い出してよ、あの九月のことを ゆっくり時が流れ…」、そんな映画です。

【ぴあ水先案内から】

紀平重成さん(コラムニスト)
「……もしかしたら映画のもう一つの主人公は、葉山の海を望む高台に古民家を移築した一軒家なのかもしれません……。」
https://bit.ly/3sDJkAu

植草信和さん(編集者・元キネマ旬報編集長)
「……3世代の女性のそれぞれの屈託が、家と庭の映像を通してほのかに浮きあがってくる。……」
https://bit.ly/3mck8Pc

首都圏は、4/9(金)からシネスイッチ銀座他で公開。中部は、4/17(土)から名演小劇場で公開。関西は、4/23(金)からテアトル梅田他で公開。

不遇な女性古生物学者の秘めた恋
『アンモナイトの目覚め』



1840年代、女性の社会進出がまだ認められていなかったビクトリア朝のイギリス。独学で古生物を研究し、大英博物館に残るほどの化石を発見したものの、不遇な生活を送る古生物学者メアリーに訪れた転機、それはある女性との出会いでした…。

メアリーは実在した人物です。死後に認められ、王立協会が「科学の歴史に最も影響を与えた英国女性10人」に選んだのは2010年。同時代の人が彼女について書いた書物はほとんどないそうです。そんなメアリーを主人公にして描くのにあたり、同性と関係を持っていたかもしれない、と想像をめぐらせたのは『ゴッズ・オウン・カントリー』のフランシス・リー。21世紀ゲイ映画の旗手、とよばれる監督です。

監督が主演に起用したのはイギリスの名女優ケイト・ウィンスレット。ウディ・アレンの前作『女と男の観覧車』とはだいぶイメージが異なりますが、最初はうつうつとし、やがて内に秘めた熱情を爆発させる女性像を見事に演じています。彼女の心を開かせるシャーロット役には、今年で27歳、すでにアカデミー賞4度のノミネート、1度の受賞という演技派、シアーシャ・ローナン。超豪華な組み合わせです。

【ぴあ水先案内から】

春日太一さん(映画史・時代劇研究家)
「……二人の女性が徐々に距離を縮めていく様が、壊れそうなまでに繊細なタッチで綴られる。……」
https://bit.ly/2PhdiMp

波多野健さん(プロデューサー)
「……この映画で一番感銘を受けたのは“音”だった。……ものすごく迫ってきて、ストーリーを一層奥深いものに見せてくれた。こんな経験は初めてだった。」
https://bit.ly/3u5w48a

植草信和さん(編集者・元キネマ旬報編集長)
「……地の果てを彷徨するふたりの女性の魂と肉体が結ばれて昇華する描写が、素晴らしい。性愛描写の極致。……」
https://bit.ly/3sJHDS3

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