Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら

世の中では新しいものが入ってきたら、古いものが追い出されるみたいです

毎週連載

第120回

あるラジオ番組に出させてもらった際、打ち合わせで「オンエアー中、好きな曲をかけていただきたいんですけど、峯田さん何の曲にしますか?」って言われたことがあった。そこで僕はユニコーンの『すばらしい日々』をリクエストしたんだけど、そのラジオ局の人は「懐かしいですねー」と言ってた。

でもさ、僕にとってこの曲は特に懐かしいわけでもなく、1993年にリリースされたときから今も聴き続けていてずっと好きな曲なんだ。この曲を知った後も、自分の中には好きな曲がどんどん増えていったけど、それはストックの容量が増えていっただけで、好きなことには変わりがない。でもさ、世の中の仕組みって、どうやら新しいものが入ってきたら古いものが追い出されるのが普通みたいで。これが不思議でしょうがないんだ。僕の中では、昔から好きな音楽も、最近好きになった音楽も並列にある。だから、懐メロっていうのもあり得ないんだよ。

『めぞん一刻』だってそうだよ。今、僕が誰かに「『めぞん一刻』が好きだ」と誰かに話すと、だいたいが「ありましたよね!」みたいな返答が返ってくる。なんなら「昔コミックスで持っていましたよ。売っちゃいましたけど」みたいなことを平気で言う人もいる。手放した奴に語る資格なんかないのに、さも「思いを抱いている」みたいなことを言ったりする。冗談じゃないよ。僕なんかずっと本棚にあるし、今でもちょいちょい読み続けてるよ。

昨年はコロナ禍の影響もあったのかもしれないけど、飛び抜けてヒットした作品がいくつかあったよね。どれもすごい作品だと思うけど、その作品を「好きだ」と言っている数が百万人もいるという現象を見てさ「これ本当に好きで支持した人って、どれくらいいるんだろう」と思ってしまうところがある。

だってさ、「本当に好きなもの」って人それぞれ違うはずで、しかも、自分が本当に感動したり、興奮したりできるものってそうは簡単に見つかるもんじゃないと思うから。自分が好きなものを見つけるって、時間もかかるし労力もかかるよ、普通。だから、百万人以上の人がそれを支持してるとかになると「嘘でしょー、それは」と思うんだ。

おそらく「手っ取り早く、流行っているものを支持しておけば自分もハズれずにいられる」「それなりの『楽しい』感じを味わうことができる」って人が大半なんじゃないかと思う。本当にその作品を愛している人の話はすごく興味があるけど、流行りに乗って好きになった大半の人の話って、聞いたところでたぶんしょうもないようにも思うな。作品に罪はないのに、なんかこういう現象だけはモヤモヤする感じがある。

また残酷なのがさ、「新しいもの」「極端にヒットしたもの」の宿命として、流行りに乗って好きになった人たちにとってはすぐ古くなるということ。作っているのはみんな「人」だよ。その人の周りには応援している親とか家族とか友達もいるわけ。それをさ「ああ、そう言えばいたね、そんな人も」とか「一発屋だったね」とか簡単に言ってほしくないよ。

なんかさ、本当にみんな全体主義になっちゃってさ、音楽、漫画、映画、小説……なんでも良いけど、「作品」への思いがあまりに軽すぎるように思う。僕は一度好きになったものはたぶん一生ずっと好き。「新しい」「古い」「懐かしい」というような価値観では絶対に見ない。好きなものは本当に心から好きなんだよ。

みんな簡単に「好き」って言うけど、その気持ちは本当ですか?

構成・文:松田義人(deco)

プロフィール

峯田 和伸

1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。


アプリで読む