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SOIL&“PIMP”SESSIONS 社長が語る、『BEM』音楽での挑戦やサントラ制作がバンドに与える影響

リアルサウンド

19/8/28(水) 12:00

 『妖怪人間ベム』50周年を記念して制作され、7月から放送がスタートしたTVアニメ『BEM』(テレビ東京ほか)の音楽をSOIL&“PIMP”SESSIONSが担当。8月28日にオリジナルサウンドトラック『OUTSIDE』がリリースされる。

 80年代後半のニューヨークをイメージした『BEM』の世界観とリンクした本作は、ヒップホップとジャズの融合を軸にしながら、SOILが持つ幅広い音楽的ボキャブラリーを堪能できる作品に仕上がっている。本作の制作プロセスとSOILの現在のモードについて、バンドのスポークスマンである社長(Agitator)に聞いた。(森朋之)

『BEM』の世界観に沿って楽曲を制作することで、ボキャブラリーを出せた


ーーTVアニメ『BEM』のサウンドトラックのオファーがあったときは、どう感じましたか?

社長:サントラをやりたいという思いはいつもあるし、オファーは嬉しかったですね。しかも『妖怪人間ベム』は何度かリメイクされていて、国民的なコンテンツですから。しかも今回の『BEM』は、キャラクターの雰囲気や作画がいままでとはまったく違うんですよ。もちろんこれまでの作品を踏襲する部分もあると思いますが、フレッシュな感覚で観てもらえる作品になるだろうなと。そういう作品に参加させてもらえたのは光栄ですね。

ーーアニメ『BEM』は、格差が進んだ湾港都市が舞台。ビジュアルも無国籍な雰囲気ですよね。

社長:アニメサイドからの説明を受けたとき、いちばん興味を引かれたのは「舞台設定はニューヨークのブルックリンをイメージしています」というお話だったんです。しかも現在のブルックリンではなく、80年代後半、90年代初めくらいの「日本人旅行者は行っちゃいけない」と言われていたブルックリンと聞いて、一気に好奇心が沸いてきまして。妖怪的な恐ろしさというより、人間の汚さや暴力的なところ、危険な地域に入ったときのドキドキ感をイメージしたときに、それを象徴する音楽はヒップホップなのかなと。それが今回のサントラの着想の原点で、そこから曲として膨らんでいった感じですね。ヒップホップといっても広いですけど、今回の場合はロービートだったり、重たい感じだったり。

ーーサウンドトラック『OUTSIDE』の1曲目「Phantom of Franklin Avenue」は、まさにそういうテイストですね。

社長:そうですね。その曲に関しては、80年代、90年代のテイストというより、現在の主流になっているトラップのビートを使って、我々のジャズと融合していて。ブレインフィーダー(フライング・ロータスが主宰するレーベル。サンダーキャット、ドリアン・コンセプト、ジェイムスズーなどが作品をリリースしている)に代表されるように、いまのジャズの世界はヒップホップとすごく近いし、その流れを汲んだ楽曲になっていると思います。

ーーヒップホップとジャズの融合は、SOILも以前から取り入れていましたよね。

社長:ええ。ヒップホップのアーティストとは何度もコラボレーションしているし、リスナーとして聴くのも大好きですからね。すごく自然な流れだったと思いますよ。

ーーサントラの制作は、シーンに合わせて“当て書き”するような感じですか?

社長:そういうことが多かったですね。「こんなシーンに合う曲をお願いします」という発注を受けて、イメージを膨らませながら作っていって。


ーーたとえば「Wanna Be A Man」の場合は? “人間になりたい”という曲名は、『妖怪人間ベム』から続く、この作品の本質にも関係していると思うのですが。

社長:その曲は、「Blue Eyed Monster」という楽曲の別バージョンというか、スローバージョンなんですよ。オーダーとしては「思いにふけるシーンにも使える曲。暗さのなかにも強い意志を感じさせる楽曲をお願いします」ということでした。それをキーワードにして、アニメのスタッフやバンドメンバーとミーティングしながら楽曲を落とし込んでいったんです。

ーーなるほど。当然ですが、『BEM』のサントラというテーマがなければ、生まれなかった曲ばかりですよね。その結果、SOILのいろいろな表情だったり、ジャズという音楽の多様性が実感できる作品になっていて。

社長:そこまで大げさなことは考えてなかったですけどね(笑)。ただ、SOILの作品を制作するときとは方向性が違いますよね。自分たちの作品の場合は「SOILがどういう音を出すか」「バンドがどう見えるか」ということが中心なんですが、今回はそうじゃなくて、あくまでも『BEM』の設定だったり、キャラクターを引き立てるための音が主眼なので。主にビートのジャンルですが、結果的に自分たちの振り幅を見せられたというのも、確かにそうだと思います。『BEM』の世界観に沿って楽曲を制作することで、自分たちの持っているボキャブラリーを出せたというか。

ーーもちろん、映像と一緒になることで、さらに相乗効果もあるだろうし。

社長:そうですね。映像自体も素晴らしいし、音楽をすごく効果的に使ってもらっているので。ドラマのサントラ(ドラマ『ハロー張りネズミ』(TBS系)サウンドトラック『真夜中のハリネズミ Music from and inspired by ハロー張りネズミ』)を作らせてもらったことはありますが、やっぱりサントラは興味深いですね。楽曲だけではなくて、映像と合わせることで完成するのもおもしろいし、ジャンルを超えていく感覚があるのもすごくいいなと。サントラ制作者としてのノウハウも少しずつ蓄積されているだろうし。

ーー『BEM』では坂本真綾さんが歌う主題歌「宇宙の記憶」(作詞・作曲・編曲:椎名林檎)の演奏もSOILが担当しています。

社長:それは制作の途中で決まったことなんですよ。サントラの制作が先行していて、そのなかで「主題歌の演奏もお願いします」ということになって。主題歌は椎名さんが万全の準備をしてくださったんです。もう長い付き合いですし、我々の特性だったり、活かしどころも完全に理解してくれて、バッチリのアレンジを作ってくれて。レコーディングもすごくスムーズでした。坂本さんの歌も素晴らしいし、いい曲になったと思います。坂本さんの作品には、我々のバンドのユニット・J.A.Mが参加させてもらったことがあったんですけど(坂本真綾のシングル『DOWN TOWN/やさしさに包まれたなら』のカップリング曲「悲しくてやりきれない」のアレンジを担当)、SOILとしては今回が初めてだったんですよ。

ーー『BEM』の音楽に関わったことで、SOILが得られたものは何だと思いますか?

社長:すごくたくさんのフィードバックがあったと思います。楽曲を作る過程自体はほぼ同じですが、アウトプットが違うことで、いままでの自分たちにはなかった発想が得られたので。音楽的なチャレンジもかなりありましたね。いちばんはリズムのアレンジですね。完全な生演奏ではなくて、ドラムの打ち込みだったり、ループを組むところから始めた曲が半分くらいあるので。ここ数年、SOILの作品でもその手法で作る曲が増えていて。打ち込みとライブミュージックの融合は、今後も突き詰めていきたいですね。

テクノロジーとオールドスクールの両方を持っているのが特性

ーーSOILの現在の方向性とも合致していた、と。

社長:はい。たとえばトリガーという機材を使って、打ち込みの音と生ドラムを同時に鳴らしたり、シーケンスをリアルタイムでコントロールしたり。テクノロジーを使った、ダンスミュージック寄りのジャズですよね。一方では、今回のサントラに入っている「Before The Dawn」のようなオールドスクールのジャズもあって。その両方を持っているのが我々の特性だし、『BEM』のサントラを作ったことで、それがさらに増強された感覚もあります。

ーーなるほど。SOILがテクノロジーを導入した楽曲制作をはじめたのは、どんなきっかけだったんですか?

社長:2017年にメンバーが脱退して、一時活動休止したタイミングだったかもしれないですね。翌年、再出発するにあたって、「この先、自分たちはどういう音を鳴らすべきか」ということを考えていて。その時期に「デジタルの導入もひとつの方法だよね」というアイデアが出てきたので。

ーー偶然かもしれませんが、世界的にもジャズとエレクトロが接近していた時期ですよね。

社長:この2年間くらいで増えましたよね、そういうスタイルが。おそらく、同じような感覚をみなさんが持っていたんじゃないですかね。あとは単純に、テクノロジーの発達もあると思います。シーケンスを流して演奏するだけではなくて、尺を自由に変えるような演奏にも対応できるようになっているので。ただ、SOILの軸は“フィジカルなライブ”なんですよ。生でライブをやることを前提にして、その表現を広げるためにテクノロジーを取り入れているので。そのバランスは今後も変わらないでしょうね。

ーーリズムの動向についてもう少し聞きたいのですが、社長がいま気になっているビートはどういうものですか?

社長:まず、UKジャズはアフロビートが主流になってるんですよね。人種の混ざり方が背景にあるんだと思いますが、サウスロンドンにはアフリカ系、アラブ系の移民が多くて、そのリズムとジャズが融合していて。クラブシーンでもアフリカ系のリズムが盛り上がってるみたいなんですよね。アフリカンミュージックをサンプリングしたハウスは以前からあったけど、BPMが120くらいに落ちていて、そこにトライバルなリズムが絡んできて。そういう流れには興味があるし、もう少し研究したいと思ってます。トラップに関しては、ブームを超えて、いまやスタンダードになりつつあって。もっとおもしろいことになりそうな気もしますね。

ーーそういうトレンドも意識している、と。

社長:一応、気にはしますね。ただ、いま流行っているものを参照して曲を作っても、出来上がった頃には古くなってるじゃないですか。もう少し前倒しするというか、「次はこんな感じかな」というリズムを捉えることが大事なのかなと。そんな意識もありつつ、一方では「我々は我々」というスタンスも忘れず。その両方を持っている感じでしょうか。「おもしろいな」と思う音楽があればメンバーともできるだけシェアしているし、ライブにもマメに足を運ぶようにしています。

ーーでは、SOILの活動を続けるにあたって、“東京発のジャズ”を意識することはありますか?

社長:そういう時期もありましたね。初めてグラストンベリーに出たとき(2007年 『Glastonbury Festival』)などは、自分たちが「日本代表」みたいな気持ちもあったし。海外のリスナーがSOILの音に興味を持って、「おもしろい」と思うのは、東京のバンドだからという理由もあるみたいなんですよね。自分たちは意識していないけど、旋律がどこか東洋的だったりするようで。ビジュアルも含めて、東京的、日本的な要素はあるんでしょうね。

ーー最近は若手のジャズミュージシャンも次々と登場していますし、LA、ロンドンのように“東京のジャズシーン”も形成されつつあるのでは?

社長:うーん、そこが難しいところですよね。確かにいまの20代にはおもしろいミュージシャンがいるし、上手いんだけど、それがロンドンのトゥモローズ・ウォリアーズ周辺(Jazz Warriorsのゲイリー・クロスビーによって1991年に設立されたアーティスト開発プログラム)や、ウエストコーストのゲット・ダウン(ケンドリック・ラマー、フライング・ロータスなどの作品を支えるLAのジャズチーム、ウェスト・コースト・ゲット・ダウン)のような動きにつながるかというと、そこまでのレベルには達していないのかなと。もちろん、日本にもすごいプレーヤーがいますけどね。石若駿とか、BIG YUKIとか。そういうミュージシャンに続く人がさらに出てくれば、もっとおもしろくなると思います。

ーー最後に、今後のSOILの活動について。昨年5月にリリースされたアルバム『DAPPER』は、様々なゲストアーティスト(RADWIMPS・野田洋次郎、EGO-WRAPPIN’、Awich、Yahyel・Shun Ikegai&Kodama・Kiala、Nao Kawamuraなど)を招いた作品でしたが、アニメ『BEM』のサントラを経て、次の方向性はどうなりそうですか?

社長:いま、まさにそれを話していて。スタジオに入ったときとか、ご飯を食べているときに、「こういうのはどう?」とか情報を共有しているところなんです。そのなかで方向性をザックリと決めて、制作しながら絞り込んで。いつもそういう感じですね。

(取材・文=森朋之/写真=林直幸)

■リリース情報
TVアニメ『BEM』オリジナルサウンドトラック『OUTSIDE』
発売:8月28日(水)
価格:¥2,500(税抜)

<収録曲>
01. Phantom of Franklin Avenue
02. Blue Eyed Monster
03. Tracking
04. The Light and The Shadowland
05. Shapeshifter
06. Before The Dawn
07. Wanna Be A Man
08. Out of Control
09. Thinking of you
10. In The Gloom of The Forest
11. Inside
12. A Sence of…

SOIL & “PIMP” SESSIONS OFFICIALサイト

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