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『ボヘミアン・ラプソディ』の作品賞はオスカー攻勢にどう影響を及ぼす? 大波乱のGG賞から予測

リアルサウンド

19/1/9(水) 6:00

 第91回アカデミー賞へ向けた前哨戦の最大のハイライトともいえる第76回ゴールデングローブ賞の授賞式が現地時間1月6日に開催され、ゴールデングローブ賞史の中でも類を見ない大波乱となった。これまでも、競ってきた作品同士に優劣が生まれたことや、混戦の中で一歩大きく抜け出す作品が登場したことは幾度となくあったが、今年は前哨戦に参加すらできていなかった作品が頂点に輝いたのだ。しかし、これで“アカデミー賞の勢力図”が一変したと判断するのは、少し性急かもしれない。

参考:<a href=”https://www.realsound.jp/movie/2019/01/post-300435.html”>菊地成孔の『アリー/ スター誕生』評:完璧さのインフレーション</a>

 ゴールデン・グローブ賞の映画部門には<ドラマ部門>と<ミュージカル・コメディ部門>の2つのセクションがある。アカデミー賞に向けた有力作品がその両方にいることは当然なのだが、アカデミー賞へ直結する可能性が高いのは、無論前者である。実に半世紀以上にわたり<ドラマ部門>で作品賞を受賞した作品は、アカデミー賞の作品賞候補へと駒を進めているのだ。それだけ重要な部門を制したのは、現在日本でも破竹の大ヒットを記録中の『ボヘミアン・ラプソディ』。言わずと知れた世界的ロックバンド、クイーンを描いた音楽伝記映画であり、ほぼ無名でありながらも驚異的な演技でフレディ・マーキュリーを演じきったラミ・マレックに高評価が集中している作品だ(そのラミは、ドラマ部門の主演男優賞を獲得。これは比較的下馬評通りといえよう)。

 しかしながら撮影中に監督が降板するトラブルという、オスカーが最も毛嫌いするタイプの作品であり、それでいて全米公開時から作品全体における批評は見事に酷評が集中。実際、史実からある程度ドラマチックに脚色する部分があったとはいえ、淡々と運ばれていく作品自体は極めて凡庸な作りで、それをすべて終盤のライブシーンとクイーンの名曲で良い映画を観たという錯覚に誘おうとする荒技を繰り出す作品であり、お世辞にも年間を総じる作品とは言い難い。無論、作品評価は低いにしろ興行的な成功もあいまってゴールデングローブ賞の作品賞に候補入りを果たしたが、これは話題作りに付き物の“お飾り”であると誰もが思っていた。

 とはいえ、すでに候補入りの段階からひとつの大きな疑問が横たわっていた。何故この作品が<ミュージカル・コメディ部門>ではなく、<ドラマ部門>だったのかということだ。音楽映画ではあるが、ミュージカルではない。けれど『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』、『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』、『Ray/レイ』といった音楽映画で、かつコメディ要素のない伝記作品はずっと<ミュージカル・コメディ部門>に挙がってきた歴史がある(それは『アリー/ スター誕生』にもいえることで、こちらは同一原作の76年版が<ミュージカル・コメディ部門>で作品賞を受賞していた)。

 この部門分けには、ゴールデングローブ賞側の何らかの意図が反映されているという説が濃厚だ。それを踏まえると考えられることは<ドラマ部門>に“ふさわしい”作品が少なかったこと、あるいは逆に<ミュージカル・コメディ部門>に“ふさわしい”作品が多かったこと。現に、<ミュージカル・コメディ部門>にはアカデミー賞で善戦が期待される『グリーンブック』、『女王陛下のお気に入り』『バイス』が挙がり、『メリー・ポピンズ リターンズ』と『クレイジー・リッチ!』という話題性の高い作品で作品賞枠が埋められた。

 しかし、<ドラマ部門>にはすでに賞レースを快走している『ROMA/ローマ』の名前がない。これは外国語映画賞と作品賞に同時に候補入りをさせられないという規定があるからだと言われている。『ROMA/ローマ』を外国語映画賞にノミネート(もちろん受賞を果たし、同時に対抗格として前哨戦で目立つ『Cold War』が候補落ちした)させたことで作品賞<ドラマ部門>に入れることができない→枠が空いたところに他にふさわしい作品がなく、『アリー/ スター誕生』か『ボヘミアン・ラプソディ』を持ってくる→ともに音楽映画であるから部門が分かれる違和を避けた、という流れが見え隠れする。

 となると、何かこの2作によって候補落ちせざるを得なくなった作品があるということだろうか。それを考えると他部門の候補入り作品から『ある少年の告白』が浮上するが、前哨戦での作品評価を踏まえると弱い。前哨戦好調のA24作品(『First Reformed』と『Eighth Grade』)がともにどの部門でも候補入りしていない“無視”をくらったことを考えれば、今年はそれだけ<ミュージカル・コメディ部門>向きの作品の層が厚かったということがわかるだろう。

 いずれにせよ、この受賞結果で証明されたことがもうひとつある。<ドラマ部門>で『ボヘミアン・ラプソディ』に完敗を喫した4作品の勢いが低下しているということだ。『アリー/ スター誕生』は作品評価を支えていたレディー・ガガが主演女優賞<ドラマ部門>で、“無冠の女王”グレン・クローズに完敗。ゴールデングローブ賞以上にアカデミー賞に直結するアメリカ製作者組合賞を逃した『ビール・ストリートの恋人たち』も雲行きが怪しく、『ブラックパンサー』はマーベル映画(というよりアメコミ映画)初のアカデミー作品賞候補は確実と言われているがそれ以上のパワーは微妙なところで、また夏公開ながらしぶとく粘る『ブラック・クランズマン』も作品賞入りは問題ないだろうが、もう一息の印象だ。

 けれども『ボヘミアン・ラプソディ』が強力かと言われれば、それも違う。周りが底下げされたことで『ROMA/ローマ』がアカデミー賞の頂点に輝く可能性が高まったと判断するべきだろう。そして現時点で逆転の可能性を秘めているのは、層の厚い<ミュージカル・コメディ部門>を勝ち進んだ『グリーンブック』、そして主要部門を獲得して最多候補の威厳を保った『バイス』といったところか。 (文=久保田和馬)

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