Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『ママレード・ボーイ』『honey』……恋に盲目な男女が輝く“キラキラ映画”が今年は豊作!

リアルサウンド

18/12/27(木) 12:00

 年々増え続ける、少女マンガを原作とした映画たち。2018年も豊作の年であった。大ヒットシリーズの完結編『ちはやふる -結び-』や、若手スターが一堂に会した『となりの怪物くん』、この12月には『春待つ僕ら』が公開され、昨年の公開本数をさらに上回ってきた。

 本稿では、「キラキラ映画」のベスト3を挙げていきたいのだが、この、ともすると揶揄する意味で使われがちな「キラキラ映画」というものを、個人的に定義づけてみるところから入っていきたい。まず、やはり多くの方が認識されているように、「少女マンガ」が原作であるということ。ほとんどの作品の主人公が女子高生であり、学園生活を舞台に、文字通りのキラキラとした恋愛模様を描いたものである。この時点で、物語に登場する人物たちと同じ世代(つまりはティーン・エイジャー)を主なターゲットとした、一部の作品に絞ることができるだろう。

 さらに、恋愛模様を演じる彼女(あるいは彼)たちが、それに対していかに盲目的であるかどうかだ。自らの欲したものを、なんとしてでも手に入れようとする姿勢が見られるかどうかを基点としている。目的遂行のためには、どんな犠牲もいとわない。そんなある種の“個人主義”こそが、「キラキラ映画」の“キラキラ”とした要素であり、魅力だと思えるのである。こういった側面が強く見える作品を、便宜上「キラキラ映画」と呼びたいのだ。

 映画を通して新しい世界と出会うことは、ときに世界の広さや豊かさ、他者を尊重する心の大切さを知るきっかけにつながるかもしれない。しかしここに挙げた3作品は、そういったものからは少しだけ、あるいはまた大きく離れたものである。

■『honey』

 『honey』には多くの学生たちが登場はするものの、しだいに中心に立つ者たちだけをフォーカスしていく。すべての登場人物一人ひとりの背景には、当然、それぞれの人生・ドラマがあるはずであり、彼らを“その他大勢”として扱うことは、非・リアイティなものだといえるだろう。監督の神徳幸治は、前作『ピーチガール』(2017)に続き、この“その他大勢”、主人公たちにとっての“外野”たちを徹底的に均質化、匿名化し、「全体」として扱っている。恋心を盲信し、その対象に向かって猛進しているとき、周囲の声など聞こえはしない。そんな演出だと受け取れる瞬間が、本作には随所に見られるのだ。恋に夢中になっている者たちは、誰もが自分の世界の主人公なのだろう。

■『ママレード・ボーイ』

 奔放な両親の思惑により、同じ屋根の下で生活することになった男女の恋愛を描いた『ママレード・ボーイ』は、“恋=キラキラ(個人主義)”がはじまる瞬間を明確に捉えていた。両親がそれぞれのパートナーを取り替えて再婚し、同じ家で生活するという突拍子もない設定に、「もしかすると二人は兄妹かもしれない……」という驚天動地の展開までもが導入され、あまりに複雑な環境下に放り込まれた多感な年頃の2人のことは、不憫だと言わざるを得ない。互いに意識しあいながらも距離を取らなければならないその状況は、まさに不条理そのものである。しかし、吉沢亮が演じる生真面目すぎる少年が口にした、「常識だってモラルだって、ミキ(ヒロイン=桜井日奈子)のためなら破ってやる」という決意のセリフは、社会が生み出す不条理に立ち向かおうとする私たちを鼓舞するものにも思えた。

■『青夏 きみに恋した30日』

 『青夏 きみに恋した30日』は、夢見がちなヒロインが初めての恋心をおぼえ、その想いに素直になることの大切さを、主演の葵わかなが猪突猛進する走りによって体現してみせた。あと先のことを考えて思い悩むよりも、自身の欲求に向こう見ずな態度で突き進んでいく姿はなにものにも代え難く、観ていて清々しいほどである。そこから発される「何か」こそ、“キラキラ”の正体ではないかと思えるのだ。映画が終わり、劇場を一歩外へ出れば、そこには私たちの日常が待っている。誰もが日常生活を送るうえで感じる社会からの抑圧は、年齢を重ねていくほどに肥大化していくだろう。ときに慎み深さや譲り合いの精神は大切かもしれないが、ときにまた、それを否定していく態度も必要だと感じるのである。

 ただのマンガ実写化にとどまらず、彼女(あるいは彼)たちは意外にも多くのことを教えてくれる。その姿は、ときに滑稽に映るかも知れない。しかし、旧来の日本人の美徳とされてきた「わび・さび」や、奥ゆかしさとは異なった、新たな価値観・魅力を発見することができるのではないだろうか。

 2019年は、「壁ドン」ブームの火付け役となった『L・DK』(2014)を再映画化した『L・DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』や、『溺れるナイフ』(2016)を手がけた山戸結希監督の最新作『ホットギミック』などの公開待機作がある。また新たな価値観を、そこに見出すことができそうだ。

※『L・DK』の「・」はハートマークが正式表記

(折田侑駿)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む