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作品と表現者はわけるべきかーードキュメンタリーで再浮上した“マイケル・ジャクソン騒動”を解説

リアルサウンド

19/3/21(木) 8:00

マイケル・ジャクソンの児童性的虐待を告発したドキュメンタリー『Leaving Neverland(原題)』が大論争を巻き起こしている。音楽スター間ですら賛否のわれる騒動とは、一体どのようなものなのだろうか。

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 キング・オブ・ポップへの児童性的虐待疑惑には歴史がある。まず、1993年に疑惑が浮上し、法廷外で和解。2003年に別件の児童虐待容疑で逮捕、のちに起訴されるも、2005年10個の容疑すべて無罪判決を受けた。その後も疑惑の目は無くならなかったが、2009年の逝去を機に音楽界のレジェンドとして評判が復活。以降レガシーを讃えられつづけたが、没後10年となる2019年、告発映画が放映され、疑惑が再燃し、今に至る。

 渦中のドキュメンタリー『Leaving Neverland』は、2人の告発者の証言をベースとしている。監督は3度の英国アカデミー賞受賞経験を持つダン・リード(参照)、告発者はマイケルと親しい少年時代を過ごしたウェイド・ロブソンとジェームズ・セーフチャックだ。ロブソンは、前出した2005年裁判において「マイケルと何度もベッドを共にしたが何もされていない」と証言した元少年なため、宣誓した証言を覆したかたちとなる。同作は日本未公開となっているがインタビューによると、4時間2部構成のなかでは「加害者を擁護してしまう被害者心理」や「被害者と隣人の心傷」など心理的影響も語られたようだ。

 「この映画を観たら、もう以前のようにマイケルの音楽を聴けない」……これが、アメリカのメディアで散見された反応だ。インパクトは相当大きいようで、映画監督のジャド・アパトーは「立ち直るまで数日かかる」「告発者たちの証言は真実だ」とツイートしている。一方、ドキュメンタリーへの批判も活発だ。マイケルの遺族や遺産管理団体はもちろん、世界中のファンが #MJInnocent運動で冤罪を訴え、告発者や監督を糾弾している。彼らの指摘対象は多岐にわたるが、そもそも、マイケルにはFBIから10年以上監視されたにも関わらず罪が立証されなかった経歴がある。膨大な捜査に裏づけられた「無罪判定」は、ロブソンが証言を覆した2005年の裁判だけではないのだ。こうした賛否両論の状況を受けて、3月11日付のNew York Timesには「世論の方向が決まるにはあと3週間かかる」とする専門家の意見が掲載されている。

 セレブリティたちの間でも賛否がわかれている。ドキュメンタリー肯定派の代表は、TV界の大御所司会者オプラ・ウィンフリー。“マイケル派”として知られてきた彼女は、この度セーフチャックとロブソンにインタビューを行い「告発を信じる」と結論づけた。これにTV司会者のエレン・デジェネレスや歌手のシーアも続いている。反して、同じく人気司会者であるウェンディ・ウィリアムズは「あのドキュメンタリーはかけらも信じない」と宣言。ラッパーのT.I.とYGもアンチ姿勢だ。両人とも「黒人スターのレガシーを貶めている」と怒り、社会の人種差別バイアスを指摘している。

 「ドキュメンタリーによって性的虐待容疑の注目度が高まったスター」といえばR・ケリーだが、彼のケースと『Leaving Neverland』騒動はさまざまな面で異なっている。#MuteRKelly運動に参加したインディア・アリーは、ケリーとマイケルの相違点を「証拠の有無」「時間」だとしている。ケリーの場合、犯行証拠とされる映像が存在した上、現在進行形の事件と言えた。実際、ドキュメンタリーや#Mute運動によって警察が動き、逮捕に至っている。そして、本人に反論する自由があった。マイケルの場合、すでに亡くなっているため、反論はできない。被害を告白する者や関係者は生存しているのだから「終わった問題」と断ずることは決してできないわけだが、一方で告発された側が故人である事実は大きな争点となっている。音楽界における大御所スティービー・ワンダーと新星ジュース・ワールドは、それぞれ同様の意見を発信した。 「マイケルはもう亡くなったんだ。安らかに眠らせてやってくれ。レガシーはどうかそのままに……」

 『Leaving Neverland』放映後、キング・オブ・ポップのレガシーはどうなったのか。New York Timesが伝えるところによると、主要ストリーミング・サービスにおける週間再生数および消費動向は(ここ数カ月の)平均と変わらなかったようだ。R・ケリーと同じく、楽曲の販売・配信が停止する動きも見られていない。対照的に、大騒ぎなのは外部企業だ。アメリカのラジオ局は、1日あたりの平均再生数を約25%も減少させた(同上)。Starbucksは公式プレイリストから曲を除外。Louis Vuittonはマイケル・トリビュート・コレクションのうちから直接的に彼を想起させるアイテムを取り下げた。また、人気アニメ『ザ・シンプソンズ』は、マイケル登場エピソードを今後放映・販売しないことを発表。番組プロデューサーは、表現規制への反対姿勢を明確にしつつ「封印しか選択肢が無いと感じ自らの意思で決断した」とコメントした。なぜ、外部企業群は早急な撤退を見せたのか。おそらく、外部のブランドだからだろう。Business of Fashionでは、Lous Vuittonのようなブランドにとって最悪なシナリオは「性的虐待告発に無関心だと思われること」だと語られている。

 作品と表現者はわけるべきなのか──行き先のわからない『Leaving Neverland』騒動は、世界規模でこの問いかけを活性化させた。ただし、その混乱と同時に、英米メディア間で有望視される“未来”がある。ドキュメンタリーを信じようと信じまいと「マイケル・ジャクソンのレガシーは“キャンセル”にするには巨大すぎる」という見立てだ。それこそスティービー・ワンダーからジュース・ワールドまで、キング・オブ・ポップの影響は全世代に渡っている。音楽史、ひいてはアメリカ文化史から彼の存在をミュートすることは不可能だろう。ちなみに、告発者であるロブソンも、マイケルの功績の抹消を肯定しない者の一人だ。彼は、自らの告白が性的虐待問題の啓発と防止になれば良いと語っている。(辰巳JUNK)

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