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実写ドラマ、ショートアニメがともに好調 『ゆるキャン△』の魅力を改めて振り返る

リアルサウンド

20/1/22(水) 8:00

 女子高生がキャンプを通してアウトドアをゆるやかに楽しむ姿を描く「女の子×キャンプ」の人気日常系アニメ『ゆるキャン△』。ここにきて、ショートアニメ『へやキャン△』や福原遥主演のドラマ『ゆるキャン△』(テレビ東京系)として放送され、魅力が再確認されている。ということで、アニメ『ゆるキャン△』の魅力を再び掘り下げてみたい。改めて視聴してみると、そこには京極義昭監督の精緻な描写と仕掛けがふんだんに盛り込まれた作品であるということに気づかされた。

参考:『ゆるキャン△』主演で話題の福原遥、主演と助演で大活躍した2019年を振り返る

 冬に一人キャンプをすることが趣味の女子高生・志摩リンが、ある日富士山の麓でキャンプをしていると、道に迷い遭難していた各務原なでしこと出会う。そこでなでしこは凛と佇む富士山を見たことで野外キャンプの魅力に惹かれ、野外活動サークルに入ることを決意。一人キャンプを楽しむリンと、野外活動サークルで集団キャンプを楽しむなでしこの2つの視点でキャンプの魅力が多面的に描かれていく。

 かといって、最後までリンとなでしこは共存しえないというのは本作の面白いところ。作中でリンとなでしこら野外活動サークルが一緒にキャンプを楽しむ場面はあるものの、それはリンにとって本来の楽しみ方から外れた特別なものにすぎず、終始一人キャンプを嗜好としていることは一貫している。単にキャンプを通した仲間との成長物語、というわけではないところが本作をより魅力的なものにしている。

 ところで、アニメ版の魅力を語る上で外せないのが監督である京極義昭だ。Production I.G出身の京極監督は、『黒子のバスケ』や『ヤマノススメ セカンドシーズン』といった作品で演出を手掛け、『ゆるキャン△』で自身初の監督を務めた。現在放送中の『へやキャン△』でもスーパーバイザーとして作品に携わっている。

 京極監督は、スタジオジブリ作品に影響を受けていることから背景へのこだわりがいくぶん強い。制作にあたり京極監督は何度もロケハンを重ね、実際にキャンプを体験することから始めたと過去のインタビューで語っている。本作では背景が作品中でリンとなでしこをつなぐ要素として描かれるため、その位置づけはかなり重要だ。原作の見開きいっぱいに使った背景描写の見せ方を踏襲しつつも、冬のピリッと澄み切った空気感すらも醸し出しており写実的な再現性はかなり高い。にもかかわらず、日常系アニメらしいゆるい雰囲気を至るところに残している。

 また、音へのこだわりも入念だ。京極監督は「キャラクターではなく情景に音楽をつけた」とも語っている。日常系アニメではドラマティックな展開はまず起こらないために、音楽へのアプローチ法はそれ以外のアニメとは異なる。京極監督は作中に登場するキャンプ場ごとにテーマソングを割り当て、キャンプ場の特徴にあわせた音楽を用いることで、日常の中に強弱をつけ、ある種の特別感を演出している。

 本作を見ていると、キャンプをやりたくなる人も多いだろう。リアルキャンプへの導線として、京極監督の仕掛け作りもまた巧みだ。まず、原作との相違点として解説パートにリンとは異なる第三者として、大塚明夫のナレーションを据えたことが挙げられる。このナレーションによって、アニメの枠を越え、まるでキャンプのプロに直接手ほどきを受けている気分になってしまうのだ。一人キャンプ中に大塚明夫の声が脳内で聞こえてきそうだ。これなら一人であってもキャンプを楽しめるのではないだろうか。

 さらに、キャンプの醍醐味といっても過言ではないキャンプ飯を作るシーンは多くのカットが割り当てられている。キャンプにおける背景と音楽に勝るとも劣らない重要な要素と言えるだろう。アニメーター出身の京極監督も料理シーンには苦労したと語っているように、美味しそうに見える料理の見せ方は難しい。作中では鍋物からカレー、カップラーメンに至るまでキャンプ飯の定番料理が数多く登場するが、本作ではキャラクターの豊かな表情を介してその美味しさが伝わってくる。普段感情をなかなか表出しないリンすらも、食事シーンでは溢れんばかりの幸せな表情で描かれ、料理描写の魅力を引き出している。原作では伝わりにくい料理描写をアニメという立体的な世界観を通して見事に描ききっているのは、京極監督の手腕に依るところが大きいだろう。

 さて、現在放送されているドラマ版は現在第2話まで放送されているが(1月19日時点)、アニメと比較してもその再現度は高く、原作に忠実なものとなっていた。具体的には、リンの火起こしパートの手順や台詞の言い回し、キャンプの設営部分を省かずに再現されていた。さらに、第1話の見どころであるリンとなでしこが月夜に佇む富士山に見惚れるシーンは、実写だからこそ味わい深いものがあった。

 また、第2話まで見て印象的だったのが、福原遥(リン役)と大原優乃(なでしこ役)がアニメ版に限りなく寄せつつも、違和感のない演技へと昇華していたことだ。2人のキャラクターはそれぞれ話し方や性格ともに個性的だが、声のトーンや話の間を原作のままに再現していたのは驚いた。同じ原作を持つアニメとドラマではあまりに実態が乖離してしまい、賛否両論が起こることも少なくない。その意味で本作は「原作に忠実」なドラマとなっており、SNSを見る限りでは好印象を抱いているファンが多い。

 『へやキャン△』にドラマと再び注目されつつある『ゆるキャン△』。すでに2期の制作と映画公開が決定しており、まだまだこの勢いは続いていきそうだ。

■川崎龍也
音楽を中心に幅広く執筆しているフリーライター。YouTubeを観ることが日課です。

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