
Yultron X Jay Park、Lil Cherry & Jito Mo、E SENS……この夏聴きたい韓国ヒップホップ5選
19/8/11(日) 8:00
前回のキュレーション記事(Jay Park、Beenzino、DEAN……韓国ヒップホップ/R&Bビッグネームが続々発表した新作5選)から1カ月。この間に韓国のヒップホップ/R&Bシーンでは、アルバムとシングルを合わせると100を超える新譜がリリースされた。
人口が日本の半分であることを考えると、韓国でどれだけこのシーンが盛んなのか想像に難くないだろう。7月末からは毎年恒例のラップサバイバル番組『SHOW ME THE MONEY』のシーズン8もスタートし、さらなる注目を集めている。
100を超えるタイトルの中からほんの数曲をピックアップするのはかなり悩ましい作業だったが、各アーティストの立ち位置と話題性を考慮し、「これだけはこの夏押さえておきたい!」と思える5曲をセレクトしてみた。
Yultron X Jay Park - West Coast
ワールドワイドに活躍するスターJay Parkは、その活動ペースもトップクラスだ。6月にフルレングスアルバム『The Road Less Traveled』を発表したかと思うと、7月にはEP『Nothing Matters』をリリース。8月に入ってからもすでにラッパーKIRINとコラボEP『Baddest Nice Guys』を発表している。そんなJay Parkが運営するレーベル<H1GHR MUSIC Records>が、この夏『H1GHR MUSIC サマープロジェクト』を実施。6月末から8月までの6週間にわたり、所属アーティストたちが代わる代わる新曲をリリースした。その一環となるシングル曲「West Coast」は、同レーベルの海外メンバーとして活躍するYultronとJay Parkによるコラボレーショントラック。Yultronらしい広がりのあるEDMサウンドとJay Parkのリバーブを効かせたボーカルが絶妙にマッチし、プロジェクトのコンセプトにぴったりの夏らしく爽やかな空気を感じさせる。
Lil Cherry & Jito Mo – Get a Whiff of Dis
ヒップホップとしては珍しい兄妹ユニット。妹のLil Cherryと5歳上の兄Jito Moはそれぞれソロラッパーとして活動しているが、同じクルーに所属し、頻繁に互いの曲にフィーチャリングする。現在は共同名義のアルバムを制作中とのことだ。フリースタイルをしながら作ったというニューシングル曲「Get a Whiff of Dis」は、Jito Moが普段から「アジア人のかっこ良さを世界中に伝えたい」と語っている通り、映像からもサウンドからも東洋的な雰囲気が漂う。この曲に限らず、彼らの曲は中毒性のあるサウンドとクセの強いラップスタイルでインパクトも抜群。余談だが、韓国には楽童ミュージシャン(akdong musician)という有名な兄妹ポップデュオがいる。思春期の純粋な気持ちを歌いあげる彼らと比較し、Lil Cherry & Jito Moのことを冗談で“堕落した楽童ミュージシャン”と呼ぶ声もある。
CHANGMO, Hash Swan, ASH ISLAND, キム・ヒョウン, Leellamarz & The Quiett – Beer
韓国のソーシャルメディアコンテンツ制作会社・Dingoは、ここのところヒップホップレーベルとのコラボレーションに力を入れている。楽曲とMV制作のほか、メイキングや密着映像などをYouTubeで配信し、そのどれもが大ヒット。そんなDingoとレーベル<Ambition Music>がタッグを組んでリリースしたのが、この「Beer」だ。同レーベルは、ラッパーのDok2とThe Quiettが新鋭ラッパーたちのために2016年に設立した。しばらく3人体制で活動してきたが、2018年よりメンバーが徐々に増え、2019年8月現在は7人のアーティストが所属している。各メンバーのソロ作品のほか、ポッセカットも続々とリリースされ、今最も注目を集めているレーベルと言えよう。本トラックは普段の硬派なスタイルとは違い、Dingo向きのポップ調サウンドとシンギングラップで軽やかなトラックに仕上がった。
nafla, Loopy, イ・ヨンジ & PLUMA – I’m the ONE 7/25
『SHOW ME THE MONEY』昨シーズンの優勝者であるnaflaと準優勝のLoopy、そしてその姉妹番組とも言える『高等ラッパー』出身のイ・ヨンジとPLUMA。これら旬のラッパー4人がシングル曲「I’m the ONE」で集結した。この曲で最も注目すべきは『高等ラッパー』シーズン3の覇者イ・ヨンジだろう。ロートーンの安定した発声で存在感たっぷりのラップを披露する彼女は、まさにガールクラッシュ(※女性が憧れる女性)の新境地だ。実はこの曲、韓国の大手銀行である『IBK企業銀行』とのコラボレーションなのだ。このように韓国ではMnetやDingoなどのメディアに限らず、ヒップホップとタイアップする大手企業が少なくない。スポーツブランドや銀行が楽曲を共同制作し、メーカー企業やカード会社がライヴのスポンサーとして資本を提供する。ヒップホップという分野でこのような動きが活発なことは実に羨ましい限りである。
E SENS – Son of a
上述のように、近年の韓国ヒップホップシーンは芸能界やメディアを最大限に活用し、巨大資本を取り入れながらますます規模を拡大している。しかしそんな流れもどこ吹く風と、マイペースな活動で成功を収めているのがラッパーのE SENSだ。かつてはメジャーシーンで活動していたが、自らアンダーグラウンドに移行してからは真のカリスマラッパーというポジションを確立している。ニューアルバム『異邦人』は、発売前の予約販売分だけで17,000枚の売上を記録。日本以上にCDからデジタルに音楽市場が移り変わって久しい韓国で、これは異例の数字だ。先行シングル曲「Son of a」が象徴するように、E SENSは本作でもひたすらラップスキルとリリックメイキングのみで勝負。派手なサウンドもキャッチーなメロディも必要ない。ここに至るまで紆余曲折のあった彼が、ようやくたどり着いた自分だけのヒップホップなのだ。
■鳥居咲子
韓国ヒップホップ・キュレーター。ライブ主催、記事執筆、メディア出演、楽曲リリースのコーディネートなど韓国ヒップホップにおいて多方面に活躍中。著書に『ヒップホップコリア』。 運営サイト「BLOOMINT MUSIC」/ Twitter