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アカデミー賞有力候補『ノマドランド』 MCU『エターナルズ』抜擢の監督らが明かす製作の裏側

リアルサウンド

20/10/6(火) 10:00

 今年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞とトロント国際映画祭で観客賞を受賞したアカデミー賞最有力候補の話題作『ノマドランド』が、第58回ニューヨーク映画祭載センターピース作品として出展され、その待望の新作について、クロエ・ジャオ監督と製作者ピーター・スピアーズらが想いを吐露してくれた。

 アメリカのネバダ州で暮らす60代の女性ファーン(フランシス・マクドーマンド)は、リーマン・ショックによる未曾有の経済危機によって、企業の倒産で住み慣れた家を失ってしまう。そして、彼女はキャンピングカーに荷物を積み込んで、「ノマド(遊牧民)」と呼ばれる車上生活者に。過酷な季節労働の現場を渡り歩くことになるが、徐々にファーンは同じ境遇の「現代のノマド(遊牧民)」の人々と交流を深めていく。『ノマドランド』は、作家ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド:漂流する高齢労働者たち」を映画化したもの。映画内では、フランシス・マクドーマントとデヴィッド・ストラザーン以外は、ほぼ俳優未経験の人々をキャスティングしている点も注目だ。

 製作者のスピアーズは、夫ブライアン・スウォードストロームから話題の原作を勧められて、読んだそうだ。その際に「原作を脚色しやすく、マクドーマンドがリンダ・メイ(原作の主人公の名前)を演じれるかもと思った」と明かす。そのときマクドーマンドは、映画『スリー・ビルボード』でトロント国際映画祭にいたが、原作に惚れ込んで取材を抜け出し、すぐに作家ジェシカ・ブルーダーに会ったという。その際に、マクドーマンドは製作者スピアーズに「この映画(『ノマドランド』)に、ぴったりな人を見つけたわ」と自身が主役を演じる意図で、メッセージを残したそうだ。

 そして、ジャオ監督、製作者スピアーズ、マクドーマンドはともに会合を開き、原作をそのまま脚色するだけが、必ずしもリンダ・メイの人生を映像化するというアイデアではないという考えに行き着いたという。スピアーズは「より掘り下げて、スケール大きく、(リンダの人生を)探索したかった。そこから、クロエ監督は私たちからバトンを引き継いだ」と語っている。やがて、映画は本格的な製作に入っていく。

 ジャオ監督は、これまでの3作品では俳優経験のない人(ノンプロの俳優)たちとも仕事をしてきて、何かを役柄に持ち込むことができるような俳優未経験者を探してきたように思える。今作では、女優マクドーマンドが演じたキャラクター、ファーンは、どの程度、女優マクドーマンド自身から引き出されたものなのか。「ほとんど(キャラ設定)は、マクドーマンド自身をまとめたようなものなの。今作で使用されている写真は、実際にマクドーマンドが友達と撮ったものだったり、衣装はマクドーマンド自身がサルベーション・アーミー(スリフトショップ)で見つけたりもしたの。マクドーマンド演じるファーンの姉役も、マクドーマンドの親友からインスピレーションされて作り上げた役柄で、さらにデヴィッド・ストラザーン演じたデイヴは、マクドーマンドの近所の方から影響されて作られたキャラクターなの」とは語る通り、映画内では、マクドーマンドは、まるでずっと「ノマド( 現代の遊牧民)」の暮らしをしてきたような格好をしている。

 では今作は、どの程度事前に脚本に書かれたもので、どの程度、 書かれていない(即興的な)ものだったのか。「クロエ監督は、 プロの俳優とノンプロの俳優たちの演技のパフォーマンスをスムーズにさせるだけでなく、 彼らの日常生活もスムーズにいくようなセット作りをしていた。 ノンプロの俳優たちは、僕らとともに何かを共有したり、食事をしたり、滞在したりしたこともあった。 実際にフランシスとクロエ監督は、フルサイズバン(キャンピングカー) に泊まっていたこともあり、共に仕事したノンプロの俳優たちとキャンプもしていた」 と製作者ピーターが振り返り、さらにピーターは、 現場ではプロの俳優とノンプロの俳優たちが、お互い学び合うことがあったそうで、最も自然に、 最も心地よい環境を作り出し、素晴らしい演技を引き出したジャオ監督を褒めた。

 そんな独特なノンプロの俳優との仕事は、 必然性から生まれたものだとクロエ監督は明かす。「(クロエ監督が以前に手がけた)映画『Song By Brother Taught Me(原題)』で、パインリッジ・インディアン居留地に行った際に、 あの映画と契約した子供(ノンプロ俳優)は、(クルーの) 誰も演じることができるなんて想像もできなかった。そんな子役がどこにいるかもわからないし、 そんな幅広くキャスティングできるよう資金もなかった。それに、 自分が暮らしていたコミュニティでもなかった。だから、そのようなノンプロ俳優とのコラボは、 映画のキャラクターに真実味をもたらせるうえで、重要な役目を果たすことになった」 と答え、今作でのノンプロ俳優との仕事が3度目になるため、クロエ監督は「 観客の注目や映画構成を維持しながら、(これまでの作品よりも)より改善できたと思う」 と自信をのぞかせた。

 演技に慣れていないノンプロの俳優に流れるような自然な演技をさ せるために、 彼らはどのような心地よい会話の空間を作り上げたのか。「 最初は、ただ彼ら(ノンプロの俳優)の話を聞いていれば良いんです。ただそこに座って、 誰かの話を聞いていれば、あなた方は(彼らの話に)驚かされるから。だから、あなたがこう あるべきだと思うことは、彼らにあまり多く伝えず、さらにあなたの世界観や彼らが世界ではどう見られているかなど、 あなたの意見をあまり多く伝えないでください。むしろ彼らに話させて、あなたは聞くだけで良いんです。 そのやり方をしばらくすると、彼らは心地よくなって自分たちの話をしてくれます」 とクロエ監督は、会話を引き出しながら勧めていたことを明かした。さらに彼女は「 クルーやキャストとともにエコーシステム(他者と共存共栄の関係を築くこと) を作らなければいけないの。そういうことをセットから離れた時でも供給することで、 我々が彼ら(ノンプロ俳優)の世界の一部であるように感じられ、その逆(彼らを我々の世界の一部に感じさせること)ではないことが理解できるの」 と彼女なりの見解を示し、映画内では見事に俳優とノンプロの俳優の共存関係が成り立ってい る。

 一方マクドーマンドは、ノンプロの俳優とどう関わっていたのか。「彼女は、ノンプロの俳優の言葉に本当に反応しているだけで、それ自体はマクドーマンドにとって、それほど難しいことじゃない。ただ、ノンプロの俳優だと、シーンの感情の起伏から(演技から)外れることも多々あって、マクドーマンドはそんな時どうすれば良いのか、一瞬で感じ取って衝動的に演じていたわ。マクドーマンドはノンプロの俳優の前に居ながら、ファーンというキャラクターでも居てくれたため、私の監督としての仕事20%を、マクドーマンドが約5ヶ月もこなしてくれたわ」とジャオ監督は感謝した。

 本作の題材となっているノマド(特定のオフィスなどを持たない働き方をする人)たちは具体的にどんな人たちなのだろうか。「(ノマドと呼ばれる人たちには)異なったグループがあって、『バンド・オブ・ブラザーズ』や、サブカルチャー的な要素も含めた『トラベラー』と呼んでいるグループがある。彼らは私たちとは異なった生き方をしていて、彼らノマド同志の道が(ときどき)交差することもある。今作のほとんどの研究は、ジェシカの原作から来ていて、ジェシカは彼らを擁護する言葉を原作で示していた。確かに、この映画は喪失や損失、特にファーンのそれを描いている。ただ調査した中で、彼らが必然的にそのような暮らしをしているようには感じなかった。実際にジャオ監督が脚本を書きながら、調査していたときに、ジャオ監督が会った『ノマド』の人々たちとの写真付きのメッセージを僕に送ってきて、それはとても希望に満ちていて、沢山の希望があるように見えました」とスピアーズは答え、さらにノマドの人々は、通常は人生において晩年を迎えた人たちがほとんどであることも教えてくれた。

 今作では、ジャオ監督は編集も担当していることについて「我々も、このコロナ禍で隔離されていたの。当初は、私だけで編集をやるつもりだった。私はプロデューサーや今作の配給会社サーチライト・ピクチャーズととても親密に作業を進めていて、彼からもらったノート(編集作業のアドバイス)はとても役に立った。そして、そんな編集作業を約2〜3ヶ月行なったわ。おそらく早い方だと思う。なぜなら、3作続けて同じ撮影監督ジョシュア・ジェームズ・リチャーズと仕事をしたため、どんな編集スタイルで撮影するのか、どういう箇所をカバーするのか、お互いが理解していたの。ただ、私自身は映画学校に通ったことがなかったため、編集スタイルは、撮影手法によって(事前に)決めていたわ」。

 また、作曲家ルドヴィゴ・エイナウディの曲を本作に組み込んだのかについては「エイナウディとは、直接仕事をしたことがないの。いつか機会があれば彼と組みたいわね。実は私が憧れている映画監督の多くは、すでに作曲された音楽を使用していて、(今作は)私もそのアイデアで行こうと思った。そこで、自然にインスパイアされた美しいクラシックの音楽にしようと思ってインターネットで探していた際に、エイナウディの楽曲『Elergy for the Actic』のミュージックビデオを、YouTubeで見つけたの。そのビデオでは、彼が大西洋の上に浮かぶプラットフォームでピアノを弾いている。唯一無二の素晴らしいピアノの演奏だったし、彼の後ろの山から氷が崩れ落ちているのが見えた。その瞬間、私はそこに何かを感じ取ったの。それから、彼のアルバム『セブン・デイズ・ウォーキング』を聴いたわ。その曲を聴いているときに、映画の主人公ファーンとエイナウディは、2つの全く異なった世界で、異なった人生体験をしてきたけれど、彼らの自然へのつながりや自然の中で自分を発見した方法は、人間として繋がっているように思えた。だから、その音楽がこの映画に合っていたの」と決断した理由をジャオ監督が説明した通り、映画内では広大な土地に優雅な音楽が流れている。

Ludovico Einaudi – “Elegy for the Arctic” – Official Live (Greenpeace)

 また、「サプライズのシーンは沢山あったわ」とジャオ監督が語ると、スピアーズは「ジャオ監督のアイデアと脚本の素晴らしさが、ノンプロの俳優に時間的な余裕を与え、彼らのサプライズを引き起こした。そういった構成だったからこそ、サプライズが起きたときに、映画内に組み込むことができたんだ」と振り返り、そのせいもあってか、撮影には4ヵ月〜5ヵ月も費やしたそうだ。

 映画のロケーションも魅力の一つだ。ジャオ監督はどのように選考したのだろうか。「私たちは、アメリカ西部を舞台にしたいと思っていたの。おそらくユタにあるグランド・キャニオン以外は、ほとんどのアメリカの西部をカバーしてきた。それと、原作者のジェシカの本に含まれている季節ごとの仕事日程にも、ロケーションは基づいているわ。そのほかに、アリゾナ州のクォーツサイトや個人的に好きなサウス・ダコタを含めたわ」と語る。映画内では雪に覆われた寒さの厳しい場所から、息を飲むような壮大で、綺麗な風景までが映し出されている。

 キャンピングカーに過去の思い出を詰め込み、車上生活者を選択した「現代のノマド(遊牧民)」のファーンが、過酷な季節労働の現場を渡り歩く姿をドキュメンタリー調で捉えた本作。このコロナ禍において、型にはまらない、人に左右されずに自分の生き方を貫く、新たな生き方の指針になるかもしれないと感じさせる作品だった。

■細木信宏/Nobuhiro Hosoki
海外での映画製作を決意し渡米。フィルムスクールに通った後、テレビ東京ニューヨーク支局の番組「ニュースモーニングサテライト」のアシスタントとして働く。現在はアメリカのプレスとして働き13年目になる。

■公開情報
『ノマドランド』
2021年1月、全国公開
監督:クロエ・ジャオ
出演:フランシス・マクドーマンド、デヴィッド・ストラザーン、リンダ・メイほか
原作:『ノマド:漂流する高齢労働者たち』(ジェシカ・ブルーダー著/春秋社刊)
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2020 20th Century Studios. All rights reserved.
公式サイト:https://searchlightpictures.jp
公式Twitter:https://twitter.com/SsearchlightJPN
公式Facebook:https://www.facebook.com/SearchlightJPN/

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