Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『チェリまほ』原作者・豊田悠が語る、“漫画のドラマ化”の面白さ 「100倍くらい期待を超えてきた」

リアルサウンド

20/12/24(木) 8:00

 ガンガンpixivにて連載されている豊田悠による人気BLコミック『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(スクウェア・エニックス)の第6巻が12月22日に発売された。ファンの間で「チェリまほ」と呼ばれ愛されている同作は、童貞のまま30歳を迎えたことで「触れた人の心が読める魔法」を手に入れた冴えないサラリーマンの安達清が、社内一のイケメンで仕事もできる完璧な同僚・黒沢優一が自分に恋心を寄せていることに気づくところから始まるラブコメディだ。

 赤楚衛二と町田啓太により実写化されたドラマ版もクリスマスイブの深夜1時30分より放送される第12話をもってついに完結する。今回は原作者の豊田先生と、担当編集の伊藤さんと河合さんにドラマの魅力や漫画制作の裏側を伺った。(苫とり子)【インタビューの最後にサイン本プレゼント企画あり】

何かが変わるかもしれないと思わせてくれる魔法のようなドラマ

――毎話放送される度に大きな話題となっているドラマ版チェリまほですが、実写化が決まった時はどんな気持ちでしたか?

豊田:3巻が発売された2019年11月頃に実写化のお話を最初にいただいたんですが、元々ドラマが大好きだったので、自分の漫画がドラマ化されるかもと聞いた時はすごく嬉しかったです。ただBL漫画の実写化は前例がすごく少ないこともあり、楽しみ8割、不安2割くらいでしたね。

――キャストも決まった状態だったのでしょうか。

豊田:正式にドラマ化されると決まったのが今年3月で、その時点では安達役の赤楚さんのみ出演が決定していました。最初に赤楚さんの写真や動画を見せていただいた時には、こんな爽やかなイケメンが安達を演じてくださるのか……!と嬉しい反面、かっこよすぎて果たして安達になれるのかという不安も。

伊藤:どちらかといえば猫背で暗いイメージのある安達に対して、赤楚さんはとても好感度の高い方。なので始めはイメージできなかったんですが、実際に動いているのを見て「安達だ!」ってなりましたよね。

豊田:爽やかな赤楚さんは冴えない安達の間に本来ならとても距離がある方だと思うのですが、外見だけではなく姿勢や目つきなど、全身で安達を表現してくださって感動しました。安達は臆病ながら一歩踏み出すシーンが多いのですが、それを大袈裟ではなく、でも応援せずにはいられない瑞々しさと煌めきをもって毎回違う表情を見せてくれる。そんな赤楚さん演じる安達だからこそ、みんな見守りたくなるのではないかなと。

――黒沢に出会って、少しずつ変化していく安達の表情も印象的です。

豊田:2人が付き合い出してから、黒沢の愛情を受けて自信を得た安達が日に日に可愛くかっこよくなっていくじゃないですか。言葉や理屈では説明できない部分で惹かれてやまない愛らしさが暴力的なほど赤楚さん演じる安達から溢れ、その吸引力で黒沢が安達のことをより好きになってしまう説得力をお芝居で生み出せることが本当に素晴らしいなと思いました。

――そんな安達に恋する町田さん演じる黒沢の魅力は?

豊田:町田さんの人に対する誠実さや、どんなジャンルの作品に対しても敬意を持ち、なおかつ楽しんで挑む真摯さが黒沢と共通してるなと思いました。また別の作品で町田さんを拝見した時にコメディに振り切った時の思いきりのよさと、それでもブレない品の良さが唯一無二の存在だなと思ったことがあり、黒沢役に決まった時から絶対素敵だろうなと想像していたのですが、100倍くらい期待を超えてきてくださって。毎回オンエアを見るたびに戦慄しています。

――本当に少女漫画から出てきた王子様のような存在ですよね。

豊田:もちろんコミカルな演技も最高なんですが、なにより黒沢の人間らしい葛藤や切なさが町田さんの視線や指先の動きの一つひとつから伝わってくる。でもそれを見せまいとする様が本当にいじましくて、観てた人全員が「幸せになってくれ……!」ってなったと思います。今まで黒沢優一のことは作者である自分が一番よく理解してると思っていましたが、町田さんはそれ以上です。

――2人とはまた別に展開される浅香航大さん演じる柘植と、ゆうたろうさん演じる湊の恋愛模様も見逃せません。

豊田:特に湊と出会って恋に落ちてから、大人としての良識や冷静さを取り繕えないほど必死になっている柘植が可愛い。なおかつ、そのなりふり構わなさが泥臭くてかっこいいという矛盾が浅香さん演じる柘植の魅力だなと思います。それに柘植は小説家なので話し方が文語体で口に出すと少し違和感のあるセリフが多いのですが、浅香さんが演じることで普段人とあまり話さず文章ばかり書いているという背景まで見えてくる。個人的には柘植の運動し慣れていない人特有の走り方や荷物を置く時の直線的な動きが好きで、柘植はきっとこういう動きするだろうなって納得しっぱなしでした。

――配達員の湊に会うために荷物をいっぱい頼むシーンもキュンとしました。

豊田:ちょっとやばい量のダンボールがありましたよね(笑)。猫のグッズを頼んでいるという設定だから、小道具さんが猫ショップの箱まで作ってくださったんだと思います。そういう細かい部分にまで注目してみてください!

――では、湊役のゆうたろうさんはいかがでしたか?

豊田:湊は4人の中で原作から一番設定が変わったこともあり、ゆうたろうさんは本当に大変だったと思いますが、ドラマオリジナルの湊はつっけんどんに見せかけて本当は思いやりがあり、一方で心を読まないと何を考えてるのかわからないミステリアスな雰囲気と色気で無自覚に柘植を振り回すところが魅力的です。

 そんな湊が柘植を好きになったきっかけは、おそらく8話で柘植がダンサーを目指している湊に「俺は絶対にお前をバカにしない!」と断言したシーンだと思うんですが、その瞬間ゆうたろうさんがふんわりと綻ぶように微笑む表情がとても印象的でした。安達と黒沢のようにゆっくりと進む恋もあれば、湊のように青天の霹靂で意外な相手に心打たれるときもある。このドラマで色んな恋の形を見せていただけたなと思います。

――豊田先生は原作者であり、なおかついちファンとして一人ひとりの登場人物に注目して作品を楽しんでいらっしゃるんですね。そんなドラマ版チェリまほの魅力はどこにあるのでしょうか?

豊田:映画のように美しい画面や、優しくて多様性のある世界観。魅力的な要素は書ききれないほどあるのですが、個人的にはやはり黒沢と安達の恋愛をじれったいほど丁寧に、そして誠実に描いているのがこのドラマの良さだと思います。魔法が使えるというファンタジーな設定はあれ、2人の男性が互いを好きになり、付き合って、どう変わっていくかというシンプルなチェリまほの世界観を、監督をはじめ役者さんやスタッフの皆さんが丁寧にドラマへ落とし込んでくださり、こんな贅沢なことはないですよね。純粋に相手を思って行動したり、いつもより少し勇気を持って踏み出したら、何かが変わるかもしれないと思わせてくれる魔法のようなドラマです。

――登場人物の心情を丁寧に描いているところはもちろん、黒沢の後輩である六角くん(草川拓弥)が飲み会の場で王様ゲームを勧める上司に「時代錯誤」と言ったり、安達の同僚・藤崎さん(佐藤玲)が親から結婚を急かされて悩んだりと時代背景を反映している部分もリアルだなと思いました。

豊田:多分ですがドラマ制作チームの中にパワハラや世間一般のかくあらねばという風潮に対する憤りのようなものがあり、その思いを六角くんや藤崎さんの台詞に込めているのではないかと思いました。本当に色んな面に気を配ってくださっているなと思いました。

――豊田先生自身が特に印象に残っているシーンはどこですか?

豊田:やっぱり7話ですね。黒沢の過去編と安達への告白をくっ付けた構成で盛り上げてくださったこともありますが、黒沢が安達を好きになったベンチのシーンも告白のシーンも最初から最後まで、こんなに美しい恋愛があるのかと感動しました。

――SNSでは女性を中心にチェリまほの話題で持ちきりですが、原作者である豊田先生は本作がここまでブームになった理由は何だと思われますか?

豊田:私は評論家でも分析家でもないので詳しいことはわからないですが、先に答えた通りスタッフ・キャストのみなさんが丁寧にドラマを作ってくださったおかげで、すベての登場人物がまるで現実社会のどこかで一生懸命生きているように感じられるからこそ、観てる方も安達と黒沢の恋を応援したくなったのではないでしょうか。

欠点のない人間を描くことにあまり興味がない

――原作についても伺いたいのですが、「30歳まで童貞だったら魔法使いor妖精になる」という都市伝説をテーマとして落とし込んだ理由を教えてください。

豊田:7年くらい前に、ふと人に触れたら心の声が読めるという有利な能力を恋愛経験がない人が得たら、より心の声に振り回されて使いこなせないだろうなと考え、これをラブコメでやったら面白いだろうなと思ったんです。ただ急に主人公は心が読めると言われても、設定が入ってこないじゃないですか。だから何かフックはないかなと思った時に、「30歳まで童貞だったら魔法使いになれる」という話を入れたら、主人公に恋愛経験がないこともすぐに説明できるしわかりやすいなと思って、心の声が読めるという設定と合わせてみました。

――ちなみに、「チェリまほ」という略称は豊田先生がお考えに?

伊藤:たしか豊田先生でしたよね。ただ最初はふわっと、何か略称が欲しいよねとみんなで話し合っていたんです。

豊田:元々『魔法使いチェリー』というタイトル案もあったので、twitterで「まほチェリ」か「チェリまほ」かで読者さんに聞いて決めた記憶があります。こういった点でも、チェリまほは読んで下さってる皆さんと一緒に育ててもらった漫画だと実感しますね。

――「童貞」というタイトルにインパクトがあるものの「チェリまほ」という略称のおかげで話題にしやすいですし、設定も含めてバズる要素が色々と詰まっている作品だなと思ったんですが、そういったマーケティング戦略は当初からあったのでしょうか?

豊田:毎回続きが気になるように描こうと思っていただけで、特に戦略はなかったですね。ただ私自身応援上映が好きなので、応援したくなるような恋愛模様と作ろうと思っていました。今回ドラマになったことで、みなさんとリアルタイムで盛り上がることができてすごく嬉しいです。

――豊田先生の作品は、前作の『パパと親父のウチご飯』もそうですが、毎回物語の中で新しい関係性や愛の形を優しい目線で描いた作品が多く、なおかつ登場人物の心の動きを丁寧に描写されていると思ったのですが、作品づくりでテーマにしていることは何でしょうか。

豊田:『パパと親父のウチご飯』の時は「色んな家族の形があってもいい」というはっきりしたテーマがあり家族の多様性を軸に描いていたんですが、チェリまほでは一度シンプルに恋愛だけにフォーカスをあてようと思っていたので、あまりテーマは決めてないんです。ただ、チェリまほはキャラクターが重要な作品なので、話のためにキャラを動かすことはしていません。この人の性格だったら話通りに動いてくれないなと思ったら、試行錯誤した上でどうしてもダメだったら最悪、話の方を変えます。

――ご自身が生み出したキャラクターなのに、思い通りに動かせないことがあるんですね。

豊田:はい、特に黒沢が言うことを聞かなくて(笑)。話を盛り上げるために、一度は安達と別れさせたりしたいじゃないですか。なのに、絶対別れてくれない! 安達が人の心を読めるという事実を、黒沢に打ち明けるかどうかって本来一番盛り上がるところなんですよ。それが黒沢ったらあっさり受け入れてしまって。黒沢は自分の内面を相手に知ってほしいと思う人間なので、安達にそんな力があると知ったら「今まで俺の心を全部聞いた上で好きになってくれたの?」って喜んで全然悩んでくれなかったです。

――安達は豊田先生の言うことを聞いてくれますか?

豊田:そうですね。安達の方が黒沢よりも柔軟性があるキャラなので、行動にはわりと幅が効きます。だから安達が黒沢に能力を打ち明けるまでの葛藤を丁寧に描いて、盛り上げようと思いました。

――その情報を知った上で漫画を読み返すと、また違った発見がありそうです(笑)。ちなみに豊田先生が作品を描く上で、影響を受けた漫画や映像作品などはありますか?

豊田:子供の頃は叔母が所持していた白泉社や『ぶ~け』(集英社)の漫画をよく読んでいたので、その時代にあった多岐に渡るジャンルの少女漫画に影響を受けました。映像だと三谷幸喜さんが脚本された作品が好きで、一番見たのは大河ドラマの『新撰組!』。同じく大河の『真田丸』や、舞台だと『コンフィダント・絆』がすごく好きです。三谷さんは人間のダメな部分や欠点をすごく愛らしく描かれるんですよね。

――豊田先生の作品に出てくるキャラクターも短所や欠点を含めて愛おしいです。

豊田:多分欠点のない人間を描くことにあまり興味がないんだと思います。誰しも少なからず短所や欠点があって、それを隠したりコンプレックスに思っていて、でもそういう部分を愛おしいなと思うし、欠点も含めてその人自身だと思うので、その人の欠点を無理に修正したり無い物にせずに肯定したいなと思って描いています。

――ドラマ化される時も「BLや童貞を揶揄するような表現はしないでください」と製作陣に伝えたとおっしゃっていましたよね。

豊田:私は最終稿を読んで語尾やセリフを直すだけだったんですが、立ち上げからずっと作品に携わってくれている伊藤さんと河合さんが脚本のすべてを監修・修正してくださったんです。何度も修正をかけながら、表現に気をつけていただいたと伺っています。

伊藤:豊田さんが描かれる作品は、基本的に登場人物がみんな優しくて嫌な人がいないんですよ。黒沢も少し間違えると「この人グイグイ来るな」と思われかねないので、ちょっとした言動で視聴者に嫌悪感を抱かせないように河合さんと一緒に監修しました。

河合:安達の上司である浦部さん(鈴之助)も安達に仕事を押し付けがちですけど、「めんどくさいから仕事を押し付けてやろう」みたいな理由にするのはやめてほしい、豊田先生の漫画にはそういう嫌な人が出てこないから安心して読める世界なんだということは伝えてきました。

伊藤:豊田先生が三谷幸喜さんの作品に影響を受けられたというお話もありましたが、豊田先生自身がとても優しくて、ちょっと悪いことをしたキャラがいてもおまけページでフォローを入れてくださるんです。4巻で柘植にダンスバトルを申し込んだ相手もチェリまほにしては押しの強い人間ですが、最後は友達になってるんですよ。

豊田:でも度重なる修正にもドラマサイドは丁寧に対応してくださって、本当にありがたいなと思います。漫画はまだ続きますが、

オリジナル部分の最終回もドラマならではの演出ですごく素敵に作ってくださっているので楽しみにしててください。

――原作の方は1巻のあとがきで今後はちょっとエッチな展開も……と描かれていましたが、ズバリ安達と黒沢の距離はより近くのでしょうか?

豊田:はい(ガッツポーズ)! ネタバレになるので何がどうとは言えないんですが、6巻でかなり関係性が動くので期待していてください。

――特に注目してほしい点はどこでしょうか。

豊田:6巻では5巻までの伏線を一気に回収するので、6巻を読んだ上で1巻から5巻まで読み返すと面白いかもしれません。多分「……執念!」ってなると思います(笑)。

――最後にチェリまほを通して、読者に伝えたいメッセージやテーマを教えてください。

豊田:チェリまほはシンプルに読んだ方に楽しんでいただければいいなと思いながら描いているので、大きくメッセージやテーマを掲げてはいないのですが、一応2つだけ伝えたいことがあり、ひとつは「いくら心が読めても自分が動かなければ何も始まらない」ということ。ふたつめは最終話を描き終わったら話そうと思っています。先に提示しちゃうと読者さんの解釈の幅を狭めてしまうので。

――そこは私も一読者として待っています。

豊田:はい、どうか楽しみにしていてください!

■書籍情報
『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(ガンガンコミックスpixiv)1~6巻発売中
著者:豊田悠
出版社:スクウェア・エニックス
(C)Yuu Toyota/SQUARE ENIX

■ドラマ放送情報
木ドラ25『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』
テレビ東京ほかにて、毎週木曜深夜1:00~1:30放送
BSテレ東/BSテレ東4Kにて、毎週火曜深夜0:00~0:30放送
※放送日時は変更になる可能性あり
制作:テレビ東京 大映テレビ
製作著作:「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」製作委員会
(c)豊田悠/SQUARE ENIX・「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/cherimaho/
公式Twitter:https://twitter.com/tx_cherimaho

サイン本プレゼント

豊田先生サイン本

豊田悠先生のサイン入り『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』1巻を1名様にプレゼント(※コピー防止のため画像を編集しています)。応募要項は以下のとおり。

【応募方法】
リアルサウンドブックの公式Twitterフォロー&該当ツイートをRTまたはリアルサウンド公式Instagramをフォローいただいた方の中から抽選でプレゼントいたします。当選者の方には、リアルサウンドブックの公式Twitter又はリアルサウンド公式InstagramアカウントよりDMをお送りいたします。
※当選後、住所の送付が可能な方のみご応募ください。個人情報につきましては、プレゼントの発送以外には使用いたしません。
※同一の方の複数アカウントからのお申し込みが発覚した場合、ご応募は無効とさせていただく場合がございます。
※営利目的の転売は固くお断りいたします。発見した場合は然るべき対応をとらせていただきます。

リアルサウンドブック 公式Twitter:https://twitter.com/realsound_b
リアルサウンド 公式Instagram:https://www.instagram.com/realsoundjp/

<応募締切>
2021年1月10日(日)23:59まで

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む