Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

あいみょんが語る、作品に懸ける一瞬の閃き 「世の中には見逃したくないものがいっぱいある」

リアルサウンド

19/2/15(金) 16:00

 あいみょんが、2月13日に2ndフルアルバム『瞬間的シックスセンス』をリリースした。今作は、あいみょんが世の中の注目を一斉に集めた2018年に制作された作品。楽曲提供も含め多忙な中で作られた楽曲は、一曲一曲が際立っていて、彼女の一瞬の閃き、その閃きをすくいとる感覚をより強くしたのかもしれない。昨年の『第69回NHK紅白歌合戦』で披露した「マリーゴールド」、2018年はじめに作ったという「ひかりもの」、音楽的な新しい表現のあった「恋をしたから」を中心に、あいみょんの表現における信念を紐解く。(編集部)

・面白いと思ってすくい取ってあげないと芸術は生まれない

ーー昨年は大晦日に『第69回NHK紅白歌合戦』に初出場しましたが、紅白の舞台はいかがでしたか?

あいみょん:リハーサルが3日間あったんですけど、本番までずっと本番なのかリハーサルなのかわからなかったといいますか。ステージで歌った時はあまり緊張していなかったんですけど、非現実な心地で。でもお会いしたかった方に直接会えた時に「私、紅白出たんやな」とようやく実感できました。

ーーリアルサウンドでリハーサルの取材に入っていましたけど、その時は松任谷由実さんに会いたいと言っていましたね。Twitterで番組終了後の松任谷由実さんとの2ショットの写真をアップしていました。

あいみょん:私はお会いできただけで「もう写真なんていいです」って感じだったんですけど、ユーミンさんから「撮りましょう」って言ってくださって。なのに私、久しぶりに会った親戚に人見知りしてるみたいな変な顔になってましたよね……なんでもっと笑わなかったんだろうとめっちゃ後悔しました。

ーー松任谷由実さんには昨年取材でお話を聞く機会があったんですけど、作品を作る際に、とにかく自分が作りたいものを作るということがまず前提にあり、リスナーには音楽で魔法をかけてあげることがアーティストとしての使命だという話をしていました。

あいみょん:使命感……。ファンの方とかスタッフさん、インディーズの時から応援してくださってる媒体の皆さん、いろんな方のおかげで今ここまでこれてるので、簡単には落ちられないなっていう思いはあります。でも私にはまだユーミンさんのような使命感まではないかな。いいものを作り続けたいっていう気持ちはありますけど、気持ちじゃどうにもならない場合もあるし。意外と常に客観的に自分のことを見ているので、アーティストとしての使命感というものを普段意識することがないかもしれないです。ファンにとって理想の自分自身でいたいっていう風に思うこともないですし。なんならファンの理想をぶち壊したいと思う方が強いです。

ーーそれは、これまでのインタビューでも話していたことですね。

あいみょん:そうですね。でもユーミンさんが言うみたいに、好きなこと、自分がやりたいものを作るというのは、絶対だと思います。だからこそ長く第一線で活躍されているんだと思いますし。すごくかっこいいなと思います。

ーーリスナーに音楽で魔法をかけるという点に関してはどうですか? ユーミンさんの曲だと例えば「中央フリーウェイ」という曲がありますけど、「中央自動車道」ではなくて、その風景を違う言葉に置き換えてイメージを掻き立てています。

あいみょん:すごくおこがましいんですけど、私もそういう風に作っていることがあるんじゃないかなって思います。今回のアルバムタイトルの「瞬間的シックスセンス」って言葉はもともとないですし、前作の「青春のエキサイトメント」もそう。あえてそういう言葉にしているんです。それは、その言葉で検索したら私のことしか出てこないようにしたくて。あと「瞬間的シックスセンス」っていう言葉は作った私以外は使えないに近いというか。「愛してる」とか「好き」という言葉はいくらでも使えるけど、「中央フリーウェイ」っていう曲も他の人は作品としては絶対使えない。

ーー作品の中には、そういう言葉を置きたいという。

あいみょん:そうそう。まさにこの前そういう話をしていたんですけど、井上陽水さんの「少年時代」の〈夏が過ぎ 風あざみ〉の「風あざみ」っていう言葉も造語なんですよね。「風あざむ」って確かに言わないなって。そういう言葉のパズルじゃないですけど、言葉を作ることで、そのイメージを感じさせるということは確かに魔法的であるなって思いますね。

ーーアルバムタイトルの話が出たので、今作について聞きたいのですが、前作の『青春のエキサイトメント』もかなりインパクトのある言葉でしたが、『瞬間的シックスセンス』はそれを超えましたね。

あいみょん:嬉しい。確かにそれは思います。私は基本的にアルバムタイトルとか曲のタイトルは最後に付けるんですけど、2枚目のアルバムを作ることになった時に、『瞬間的シックスセンス』っていうタイトルにするということだけは決めてました。もともと「瞬間的」っていうアルバムタイトルにしようとしてたんですけど、「あいみょん2ndフルアルバム『瞬間的』」って声に出してみると言葉のリズムがしっくりこない、モヤモヤするなって。漢字とカタカナの組み合わせが好きっていうのもありつつ『瞬間的シックスセンス』というタイトルにしました。

ーー一曲一曲を大事にする、瞬間を大事にするあいみょんさんらしい絶妙な言葉だと思いました。シックスセンス=第六感という説明できない感じも音楽的ですよね。

あいみょん:そう、説明できないんですよ、第六感って。飲み物を飲んで美味しいとか、サボテンに触れて痛いとか、味覚とか触覚とか私が曲に込めていることはそういう言葉だけではない。「マリーゴールド」を作る時に、麦わら帽子の女の子の後ろ姿が、揺れたマリーゴールドに似てるなっていうイメージが頭に浮かんだんです。その瞬間っていうのは、どこからの情報でもないんですよ。味覚でもないし、触感でもない。それって第六感としか思えなくて。だからその瞬間的に降りてきた第六感のアイデアをすくえるかすくえないかであの曲が出来上がってたかどうかが違っていた。もしあの麦わら帽子の女の子を私が無視してたら「マリーゴールド」は絶対できてなかったんです。

ーー「マリーゴールド」のサビの〈麦わらの帽子の君が 揺れたマリーゴールドに似てる〉は確かに強く響きます。

あいみょん:普段から瞬間瞬間に色んなことを考えてるので、それを面白いアイデアと思ってすくい取ってあげないと芸術は生まれないのかなと思っています。

ーー「芸術は爆発だ」と言っていた、あいみょんさんが尊敬する岡本太郎さんにセンスがだんだん近づいていってるような……。

あいみょん:やばい。最近は一瞬の閃きとか、好奇心をいかに大事にするかみたいなのがすごくテーマになっていて。前作もそうですけど、私の作る音楽は瞬間的な第六感から生まれてくるのかなっていう。それと同時に瞬間的な第六感から生まれてくればいいなって思いもあって、『瞬間的シックスセンス』というタイトルにしました。だから世の中には見逃したくないものがいっぱいある。キョロキョロしないとって。

・生活感のあるアーティストが好き

ーーなるほど。その瞬間を大切にした結果なのか、1曲1曲が際立っているアルバムに感じました。

あいみょん:書き下ろしが多かったこともあったと思いますけど、どの曲もやっぱりリード曲を意識して作ったので、パキッとしたものになったのかなと思いますね。

ーーこれまでに発表されていない曲だと、収録曲の「ひかりもの」が特に惹かれました。

あいみょん:この曲はトオミヨウさんにプロデュースしていただいたんですけど、「マリーゴールド」のカップリング「あなたのために」から二度目ですね。石崎ひゅーいさんをずっとプロデュースされてて、私がそもそもトオミさんのファンなんですよ。それで今回は「ひかりもの」と「夢追いベンガル」と「ら、のはなし」の3曲をお願いしました。

ーー「ひかりもの」の曲調は、フォークだったりニューミュージックだったり、あいみょんさんのルーツを感じさせる曲で、インディーズの時にリリースした『憎まれっ子世に憚る』の……。

あいみょん:おっ!

ーー……「ほろ酔い」を思い出しました。

あいみょん:「ほろ酔い」か~。

ーー外した感じですね……。

あいみょん:でも私もスタッフもこの曲を作った時に、インディーズの頃の曲に近いっていう話をずっとしてたんですよ。そこで出てきたのは、『憎まれっ子世に憚る』の「19歳になりたくない」ですね。インディーズの頃に出してても全然おかしくないような曲なのに書いたのは2018年の頭。22歳の時に書いたのに、10代感がすごい曲です。

ーー今、そういう印象の曲をアルバムに収録したのはどういう思いがあったのでしょう。

あいみょん:アルバムに入れる曲は、その時自分の手元にある楽曲、デモ曲もそうですけど、その中でこいつらが1番だなって思える曲を収録するのが私は正義かなって思ってて。出し惜しみせずに1番いいと思えるものを今出すっていう。「ひかりもの」は、2018年に1発目に書いた曲なんです。珍しくすごく感情的になって書いた曲。それこそ感情的になって書くことは10代の頃に多かったんですよ。悲しくてとか、ムカついてとか感情的に書くことって最近あまりないんですけど。この時はすごく悲しくてムカつく衝動で書いた曲でもあって。

ーー他の曲とは温度感が違うんですね。

あいみょん:「ひかりもの」で書いていることは2018年の自分自身のことなんですよ。割と前向きな言葉に思うかもしれないんですけど、私にとってはすごいマイナス。マイナスというか自分自身、2018年はひかりものであるっていうのがあって……。例えで言うと、やっぱり1番光ってる星をみんな見つけやすいから見るだけで、すぐ別の星に目移りするじゃないですか。1番星見つけたって言ってもずっとその星を見てるわけじゃなくて。すぐその横にあるオリオン座やら色んな星を探しにいく。だからそういうものに今自分自身は近いと思ってて。今たくさんの方に曲を通して注目されてるかもしれないんですけど、それは今だけであってみたいな。

ーーそれが2018年のはじめの頃の気持ち。

あいみょん:割とずっとそう思ってましたね、2018年は。ただ安心できないとか、危機感があるとかそういうわけじゃなくて。今の状況がいつまで続くかわからないからこそやっぱり周りの人を大事にしないといけないとも思いましたし。当たり前のことをやらせてもらってるわけじゃないので、今に感謝しなきゃなと思いながらやってました。

ーーそんな裏側があった曲だったんですね。

あいみょん:はい。大人になると、それまでに傷ついてきたこともいっぱいあって、ちょっとのことでは泣いたりしないかなと思ったんですけど、本当に小さい石ころみたいなものにつまずいて泣いたりすることもある。それがすごく人間的でいいなって思うんですけど、その時はただショックだったりもする。そういうことを色々考えてた時期ですね。

ーーあいみょんさんがブレイクした2018年はそこから始まった。

あいみょん:そうです。だから「2018年は、あいみょんさんにとってすごい飛躍の1年でしたね」とか「順風満帆ですね」とか言われることもあって有難かったですけど、私にとっての2018年は最悪から始まってるので。全然トントン拍子でもないですし、色々感じてたこともありました。「ひかりもの」を聴くと思い出しますね。まだムカついたりとかする。このやろーみたいな。

ーー世間での見られ方と実際の部分はやっぱり違うところがあるんですね。

あいみょん:みんなに「あいみょんが遠い人になっちゃった」ってよく言われるんですけど、私としては近くなってるつもりで。だから私は遠くなったって言われるとすごく悲しくなる。異次元の人になりたくないなって。だから生活感を大事にしたくて、アーティストとしての自分ももちろんありながらも、普通に生活したい。個人的にもそういう生活感のあるアーティストさんが好きなんです。

ーー生活感のあるアーティストって例えばどういうものですか?

あいみょん:うーん、カップラーメンを食べてる姿が目に浮かぶ人。でもそれってどうやって見せられればいいのか、模索中です。

ーー『瞬間的シックスセンス』に話を戻すと、今作ではいろんなアプローチがあって、いろんなあいみょんさんの魅力を感じることができます。そのアプローチのひとつに曲で使われる楽器が増えていて、あいみょんさんの楽曲として新しい印象を受けました。

あいみょん:今回4人のアレンジャーさんと一緒に作ったんですけど、初めてご一緒させていただいたのは1番最後の曲の「from 四階の角部屋」でプロデュースしてくださったアイゴン(會田茂一)さん。今回、いろんな曲が入ってるんですけど、アイゴンさんのおかげでアルバムを締めるような曲になりました。あとは、トオミさん、関口(シンゴ)さん、田中(ユウスケ)さん。この3人とは、これまで一緒に曲を作ったこともあって割と私の好きな音や癖をわかってくださっているんですけど、やっぱり楽器に関しては私は全然素人で。だから「恋をしたから」でクラリネットの音を入れていただいた時は感動しました。クラリネットの音が入るとこんなにいいんやと。アレンジャーさんと一緒にやらせていただくことで、いつもすごく勉強させてもらっています。

ーーそういう新しい発見のある曲もありつつ、「マリーゴールド」や「GOOD NIGHT BABY」、今作には収録されていないですけど、映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』に楽曲提供した「体の芯からまだ燃えているんだ」も含めてこれらの曲は、あいみょん節といえるものが確立されているようでもありました。

あいみょん:でも基本的に作品を作る上では意図的なものは一切なくて。偶然の産物じゃないですけど、偶然生まれるものがすごくよかったりするっていうのがほとんどですね。

ーーその感覚がここまで支持されているのはすごいですね。

あいみょん:本当に私自身も何の確証もないですし根拠もないけど、「この曲はいける」って思ったものに関しては自分で言うようにしてます。「絶対にいけます」みたいな。

ーーそれが「マリーゴールド」。

あいみょん:そうですね。「君はロックを聴かない」もそうでした。「君はロックを聴かない」を作った時も、一瞬背中がゾクゾクする感じがあったというか、「この曲は絶対私の夏を変えます!」と思って。「マリーゴールド」ができた時も、メールで懸命にいろんな人にいい曲できましたって言って。この曲が聞かれない音楽の世の中はおかしいって思えるぐらい、いい曲できたって思えたので。だからこれはまた夏が動くぞみたいな。ああいう瞬間っていかに自信家になれるかというか、いかにナルシストになれるかが曲の行く末を左右する気もしますね。

ーーアーティストのスタンスとして大事なことかもしれないですね。そして2月18日には初の武道館公演が控えています。

あいみょん:弾き語りでのライブなんですけど、最近テレビで歌を披露する時はバンドでやっていて。でも私の原曲ってギターと声。私のCDをみんな原曲って思ってるかもしれないけど、原曲はこれですっていうのを武道館では聴かせたいなと思います。

ーー楽しみに取っておきたいので、あえてここではどういう演出かは聞かないでおこうと思います。音楽活動以外で今年の目標はありますか。

あいみょん:スポーツをやりたいですね。ボルダリングとか、体を鍛えたいな。あとは映画とか本とかもっと読みたいし観たいですね。去年読めなかったわけじゃないんですけど、もっと読みたいなと思います。

ーー生活感を出しながらですよね。

あいみょん:はい。カップラーメン食べながら(笑)。

(取材・文=高木智史)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む