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みうらじゅんの映画チラシ放談

『アイス・ロード』『ドーン・オブ・ザ・ビースト/魔獣の森』

月2回連載

第72回

『アイス・ロード』

── 今回の1本目は、この連載ではおなじみ、リーアム・ニーソン主演のアクション映画、『アイス・ロード』です。

みうら もう、リーアムの連載と言っても過言ではありません(笑)。僕の中では、リーアム・ニーソンって天狗と同義なんですけどね。

── 前回に続き天狗のお話からですね。考えたことなかったですけど、確かによく見ると天狗顔ですね。

みうら 顔の表情といいヒゲの感じといい、高尾山に登られたことがある方なら分かってもらえると思うんですが。もし、リーアム・ニーソンの面が出たら僕は天狗面として買いますね。ところでこれ、新作ですか? 前にもリーアムの冬っぽい映画を取り上げたと思うんですけど……。

── それはたぶん、ノルウェー映画『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』のハリウッドリメイク『スノー・ロワイヤル』のことじゃないでしょうか。

みうら ああ、それです! 除雪車の脇で拳銃バンバン撃つやつですよね。これはそれと同じ、もしくはスピンオフ?

── まったく別の映画で、今回リーアムが乗っているのは除雪車じゃなくてトレーラートラックです。救出物資を運ぶために、トレーラーが溶けかけた氷の上を走らないといけない話のようです。

みうら それって、すぐ思い浮かべるのは『恐怖の報酬』ですよね。2度目のリメイクとなると思いますが。

── 公式サイトによると、プロデューサーが「『恐怖の報酬』にひらめきを得た作品を作りたい」と監督に持ちかけたようです。

みうら ひらめきを得たなら、そりゃ似ていてもおかしくないですね。しかし一時はリーアム、アクション引退なんて言ってた気がしますけど、立て続けに新作が来てますね。

── 最近も、この連載で『ファイナル・プラン』というリーアムの映画を取り上げました。

みうら キャッチコピーが「爆(は)ぜろ!」の映画ですよね! それぞれに配給会社は違うのかもしれませんが、そろそろタッグを組むことを提案したいんです。もう今後は、リーアムの新作はすべて“リーアム祭り”としてすべてまとめてほしいです。

毎回いろんなチラシを作ってもらえて嬉しいんですけど、作品数が多すぎて追っつかない人もいると思うんですよ。そのためにも今後、すべてのタイトルの頭に“リーアムの”って付けてもらえませんかねぇ。なんなら『リーアム2』『リーアム3』だけでも分かる人にはピンときますから。

── それだとさすがに区別つかなくなりませんか?

みうら いや、配給会社は工夫して違うタイトルをひねり出してくださってるんだと思いますけど、リーアムが出てさえいればそれでいい層はいますからね。昔のチャールズ・ブロンソンの映画と同じですよ。

お話だって似ていても全然構いません。できることなら“リーアム館”みたいな映画館が欲しいところです。行けばいつでもリーアムの映画がかかってる専門館、あっていいんじゃないですか? 「なんだかムシャクシャするときはリーアム館に行けばいい」みたいな環境が理想です。吹替の声優さんも統一した方がいいかもしれませんね。

── ここ最近は、谷将貴さんという方がよく担当されているようです。

みうら そうですか。ブロンソンは大塚周夫さんと相場は決まってたんですがね。なんなら今後は谷さんが一手に引き受けてもらえませんかね。

── 過去には津嘉山正種さん、石塚運昇さんもよくリーアムを吹き替えていらっしゃいます。

みうら そうなんですね。なんなら吹替は僕がやりたいくらいです。

── それはどういうことですか?

みうら 僕、普段くだらない原稿ばかりを書いているくせにわりと声は低くて渋いんですけどね(笑)。だから意外とリーアムに合うんじゃないかと、うっすらとですけど、いつも映画を観ながら思ってるわけです。

── では、そのお声で「爆ぜろ!」とか言うわけですね。

みうら 爆ぜろ!

……どうですか? 結構いけませんか(笑)? いつか「リーアム・ニーソンの吹き替えといえばみうらでしょう」って言ってもらえる日が来るんじゃないかと。

ものすごく自分がやりたいってわけじゃないんですけどね。そこは意外性を狙ってみられるのもいいかと。「なんか棒読みだなあ」って言われてもいいんです。毎回、どこかに「爆ぜろ!」を挟んでおきますから。

── すみません、よく考えてみたら、『ファイナル・プラン』の映画の中では「爆ぜろ!」というセリフはなかったです。

みうら ありゃ、なかったですか? 字幕にも出てませんでした?

昭和の時代は、本当は言ってないのにムリヤリ面白いセリフを入れていたってこともありましたけどね。だから『アイス・ロード』でも、なにかに立ち向かうときには「爆ぜろ!」っていうセリフを言うべきでしょう。もう勝手にリーアムさんの決めセリフにしていいんじゃないですかね。

ブロンソンなら、映画のセリフではないですけど、CMの「うーん、マンダム」があったじゃじゃないですか。誰もがあのセリフを思い出すように、リーアムにも「うーん、爆ぜろ」って言ってもらいたいもんです。そういう統一感のために、配給も一元化してほしいんです! リーアム・ハゼロウってのもいいと思いますよ。

『ドーン・オブ・ザ・ビースト/魔獣の森』

── またエデン(※映画評論家・江戸木純氏が代表を務める映画配給会社)が絡んでいるチラシを選ばれましたね。

みうら 気がつけば掴んでました(笑)。でもチラシの裏に“ゴジラVSコング×死霊のはらわたの衝撃”って書いてあるんですもの。仕方ないっすよね。

これってお得意のUMA映画ですよね? ビッグフットの話だと書いてあるのに『ゴジラVSコング』を引き合いに出すのはどういうことなんでしょう?

── でもチラシには、ビッグフット以外にもおかしな生き物たちが写ってますね。

みうら 確かに、よく見るといますね。ということは『ゴジラVSコング』にかけてVSモノだってことですかね。“魔獣の森”というフレーズは『クライモリ』にもかかってますね。あ、“ビッグフットが人食い鬼どもを引きちぎる”って書いてあります!

でも人間側からしたら、それって「どうぞ勝手におやりください」じゃないですか?

── 人間も参加しての三つ巴のデスマッチになるようです。

みうら 三つ巴って(笑)。じゃ、『死霊のはらわた』要素はどこにあるんですかねぇ?

── よく見たら『死霊のはらわた』の予言の書みたいなのが写ってませんか?

みうら 確かに小さくですがありますね。つまりこれは、ビッグフットを使ってビッグマウスな話を本気でやってるってことですよね。

これは『ビッグフットVSビッグマウス』っていうタイトルでもいいですね。雪男とすぐ大口を叩く人間と鬼の三つ巴。ただ、最近もこの連載で『食人雪男』っていうビッグフット映画を取り上げたばかりですが、ビッグフットってそんなにニーズあるもんなんですかね?

── このチラシは“ビッグフット映画史上最高傑作”を名乗ってますから、ジャンルとして成立していないと言えない文言ですよね。

みうら ビッグフット映画って、そもそもは8ミリフィルムみたいな画質で撮られた雪山を横切るおぼろげな映像のことだと思っていましたが、この映画では、いろんなタイプのビッグフットが集合しそうですよね。「ビッグフットだよ、全員集合!」ってね。

今、僕、いかりやさんの声をマネたんですが、この手の声は結構いけると思うんですがね(笑)。

でもビッグフット業界、ビッグフット界隈が存在するってことが知れただけでも、このチラシは儲けものでしたね。人生で「今度ビッグフット映画でも観に行かない?」なんて聞いたことないですけど、確かに今キテるのかもしれませんね。もういい年になって大抵のことは分かったつもりでいましたけど、まだまだ知らないことがありますね。

── しかしこの連載でよく「このチラシもエデンか!」っていう話をしてますが、大抵のクレジットは“配給”ではなく“協力”になってますよね。果たしてこういう宣伝やチラシのどこまでがエデンや江戸木さんの差し金なのかが分からない。

みうら そうなんですよ。いつか“協力”という名目で江戸木さんが何をされているのか知りたいものですね。いつか、そのへんのことを、ぴあさんが取材してきてもらって解き明かしてくださいね。

取材・文:村山章

(C)2021 ICE ROAD PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED
(C)2020 377 Films LLC.

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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