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ジャニーズ、ハロプロ……アイドルはなぜ”トンチキソング”を歌うのか 折衷の妙が生み出す、歌謡曲の遺伝子が目覚める瞬間

リアルサウンド

20/12/25(金) 13:00

 12月25日に放送される『ミュージックステーション ウルトラSUPER LIVE2020』(テレビ朝日系)でのある企画が、ジャニーズファンを中心に話題になっている。その名も「ジャニーズトンチキソングメドレー」。いったいトンチキソングとは? そしていまなぜトンチキソングが脚光を浴びているのか? 少し考えてみたい。

 辞書を引くと、「とんちき」の意味は「とんま、まぬけ」とある。ただ、トンチキソングと言う場合、単にネガティブな意味合いでは使われない。そこには「愛すべき」というニュアンスが強く入ってくる。「奇妙でちょっと聞いただけでは意味不明だが、なぜか惹かれ、クセになる曲」とでも言ったらいいだろうか。ここでポイントになるのは、「ねらっていない」ことである。あくまで本人たちは真面目なので、聴く側は「?」となりながらも妙に納得させられてしまうのがトンチキソングだ。

 今回の『ミュージックステーション』の特集は、『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で、音楽プロデューサーのヒャダインがジャニーズのトンチキソングを何度か取り上げて反響を呼んだのがきっかけだった。

 たとえば、ヒャダインは少年隊「デカメロン伝説」(1986年発売)をジャニーズトンチキソングのルーツだとする。いきなり錦織一清の「ワカチコ」という謎の掛け声から始まるこの曲、楽曲自体はラブソングのようだが、肝心の「デカメロン伝説」については結局よくわからない。だが軽快な曲調に乗ってなんの迷いもなく歌い踊る少年隊を見るとそんな疑問はささいなことに思え、こちらもつい口ずさんでしまう。

 ほかにも、ヒャダインがトンチキソングとしてあげるのが、Sexy Zoneの「Sexy Summerに雪が降る」(2012年発売)である。〈Hello, Hello! & Merry Christmas〉の出だしでてっきりクリスマスソングと思って聞いていると、突然〈真夏の海〉が登場し、そこに〈舞い落ち続ける ホワイトスノウ?不思議さ〉と続き、こちらも「?」となる。

 Sexy Zoneには、「バィバィDuバィ~See you again~」(2013年発売)というこれぞトンチキソングと言いたくなる曲もある。歌を聞くと、どうやら中東のドバイを訪れた主人公が、〈サンキュー 心から シュクラン また来るよ〉と名残を惜しんでいる。だが「なぜ、ドバイ?」というそもそもの疑問はいっこうに解消されない。それでも中東風のアレンジでそれらしい衣装に身を包んで爽やかに歌い踊るSexy Zoneを見ると、それもどうでもよくなってしまう。

 そこに浮かび上がるのは、プロデューサー・ジャニー喜多川の存在だ。『関ジャム』でも、「バィバィDuバィ~See you again~」は、テレビでドバイ特集を見てジャニー喜多川が行きたがったのがきっかけで誕生したこと、しかもドバイでの撮影には本人は「暑いから」という理由で行かなかったというなかなかのエピソードが紹介されていた。

 ジャニーズのトンチキソングは、ほかにもまだまだある。

 有名なところでは、NEWS「チャンカパーナ」(2012年発売)もそうだろう。「愛しい人」というような意味合いの造語だが、それを知らずとも語感の良さでつい一緒に歌ってしまう一曲だ。また嵐「アレルギー」(2001年発売のアルバム『ARASHI No.1 (ICHIGOU) ~嵐は嵐を呼ぶ~』に収録)は歌詞もさることながら、ライブで大きな野菜を持って歌ったことでいっそうトンチキ感が増している。さらに関ジャニ∞やジャニーズWESTにも、関西出身ジャニーズ特有のお祭り感も加味され、トンチキソングと思える楽曲は少なくない。

 一方女性アイドルに目を向けてみると、やはりつんく♂の名が思い浮かぶ。ジャニー喜多川とはグループ名の付けかたが独特のセンスということのほかに、トンチキソングの生みの親という点でも共通点がある。

 たとえば、Berryz工房「ギャグ100回分愛してください」(2005年発売)は、タイトルからも伝わるように、つんく♂の特異な言語感覚が炸裂している一曲だろう。受験を控えたらしい女の子が彼に会うのを我慢しているせつない恋心を歌った曲と取れるが、めまぐるしくあちこちに話が飛び、そこに「のに」を「のにゅ」と変形させる語尾の遊びも加わって結構なトンチキ感がある。

 またつんく♂の曲では、突然話のスケールがとてつもなく飛躍して一瞬「?」となることも間々ある。たとえば、モーニング娘。「ザ☆ピ~ス!」(2001年発売)にある石川梨華のセリフ〈青春の1ページって 地球の歴史からすると どれくらいなんだろう?〉のように、身近な恋愛のことがいきなり地球規模の話に飛躍する。いかにも唐突だが、そこがなんとも言えない魅力になっているのも確かだ。

 こうしたトンチキ感のある曲は、つんく♂曲だけではない。寸劇のパフォーマンスも印象的なBEYOOOOONDS「眼鏡の男の子」(2019年発売)やタイトルを見ただけで一瞬度肝を抜かれるアンジュルム「46億年LOVE」(2018年発売)など、いまやハロプロの欠かせない文化として定着している。

 ではなぜ、トンチキソングはジャニーズとハロプロで目立つのか? ひとつ考えられるのは、ジャニー喜多川とつんく♂に共通して感じられる「歌謡曲マインド」である。歌謡曲のトンチキさはヒャダインも指摘しているところだが、さらに突き詰めればそのコアにあるのは折衷の妙と言えるのではなかろうか。

 歌謡曲は、いわば和洋折衷の極みのようなジャンルである。日本的な情感を表現するのに西洋のポピュラー音楽の要素を大胆に取り込み、独自の世界を作り上げた。それは演歌もポップスも変わらない。和と洋に限らず歌謡曲において折衷することは正義であり、折衷も突き抜ければ一種の創造になる。

 ある意味、トンチキソングにはそんな歌謡曲的折衷のエッセンスが凝縮されている。歌詞のなかで一見まったく無関係なもの同士が出会い、アイドルはそれを一生懸命真面目に歌い踊る。脈絡なくドバイのことを日本のアイドル歌手が歌い、恋愛のことがいきなり地球の歴史に結びつく。そんな日常と非日常のシュールな出会いが、楽曲の唯一無二感を生む。それを私たちは「トンチキソング」と呼んで愛する。

 アイドルはいまやそれ自体で独立したジャンルだが、元をたどればルーツは歌謡曲である。それは私たちファンの側も同様だ。とはいえ、その事実はいまや忘れられがちでもある。だが時に、私たちの奥底に眠る歌謡曲の遺伝子が目覚める瞬間がある。それが、アイドルのトンチキソングなのだろう。

■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『木村拓哉という生き方』(青弓社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。

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