Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

山下達郎の楽曲は、なぜドラマとの相性がいいのか 『グランメゾン東京』から考える“主題歌の醍醐味”

リアルサウンド

19/12/15(日) 8:00

 毎週毎週聴くたびに、その楽曲が喚起するイメージが変わっていく──アニメ映画『未来のミライ』のために書き下ろした両A面シングル『ミライのテーマ/うたのきしゃ』以来約1年ぶり、通算52作目となる山下達郎のニューシングル曲「RECIPE(レシピ)」は、まさしくそんな一曲であるように思う。伸びやかで透明感のある歌声とメロディの良さを前面に押し出した、どこかほっこりとした温かさを持った“大人のラブソング”に仕上げられたこの曲は、現在放送中のドラマ『グランメゾン東京』(TBS系)のために書き下ろされた一曲だ。

(関連:山下達郎「RECIPE (レシピ )」試聴はこちら

 木村拓哉主演のドラマの最後に山下達郎の曲が流れるのは、2003年のドラマ『GOOD LUCK!!』(TBS系)のエンディングテーマに起用された「RIDE ON TIME」以来、実に16年ぶり。今回、山下達郎に主題歌のオファーを出した『グランメゾン東京』のプロデューサー・ 伊與田英徳は、できあがった曲について「私の想像力を掻き立ててくれて、味覚を刺激しながら、温かい気持ちにもなります。タイトル「RECIPE(レシピ)」にも表されているように、人は人生の中で“選択肢”に出会ったとき、色々な“調理法”を選んでいく。料理の世界を描く本ドラマの世界観に最高にマッチして、皆様にも早く聞いていただきたい気持ちでいっぱいです」とコメントしている。

 木村拓哉演じる型破りなフランス料理のシェフ尾花夏樹が、世界最高の三つ星レストランを目指して仲間たちと奮闘する様を描いた『グランメゾン東京』は、「手長エビのエチュベ」「ナスのプレッセ」など各話のサブタイトルが示しているように、毎回毎回、端正なフランス料理が登場するなど、視聴者の食への興味を存分に刺激するドラマでもある。そんなドラマの内容に合わせて、表題はもちろん〈やすらぎのスープに/今日の日を溶かして〉〈さみしさを炙って/とまどいを煮込めば/僕と君の想い やがて/ひとつに薫り出す〉といったフレーズなど、さまざまな感情を料理や食べ物になぞらえた歌詞が特徴的な「RECIPE(レシピ)」。自らの再起をかけた尾花と仲間たちの奮闘やそのライバルとの戦いなど、毎回毎回さまざまな騒動が巻き起こるこのドラマの最後にカットインしてくるこの曲は、俗に言う“一服の清涼剤”ではないけれど、視聴者の気持ちをスッと軽やかにしてくれるような抜群の効果を持っている。かつて「RIDE ON TIME」という爽快な曲が、“航空会社”というある種の緊張感を持った『GOOD LUCK!!』の物語の最後を解きほぐしたように、「RECIPE(レシピ)」という曲は、“料理人”というプロフェッショナルを描いた本作が醸し出す緊張感を、そっと解きほぐしてくれるような役割を担っているのだ。

 しかし、それだけではなかった。ドラマの回を追うごとに、この曲がカットインしてくるタイミングとこの曲の歌詞が、本作が内包している“テーマ”を、さらに浮き彫りにしているように思えるのだ。なるほど、これが文字通り“主題歌”の醍醐味というものか。そう、ここ最近のドラマを見渡して、主題歌との相性、あるいはそれが生み出す効果という意味で突出した印象を残したのは、石原さとみ主演のドラマ『アンナチュラル』(TBS系)の主題歌として書き下ろされた、米津玄師の「Lemon」だった。のちに大ヒットを記録したように、「Lemon」という楽曲そのものが持つ力も無論大きいだろう。しかし、『アンナチュラル』をリアルタイムで観ながら思っていたのは、毎回毎回、ここぞという絶妙なタイミングでカットインしてくる主題歌「Lemon」の劇的な演出効果なのだった。法医解剖医が主人公ということもあって、毎回その終わりには、死者に寄せるさまざまな人々の思いが交錯することの多かった『アンナチュラル』。そんな登場人物たちの無念の思いを代弁するかのように流れ出す、〈夢ならばどれほどよかったでしょう/未だにあなたのことを夢にみる〉という「Lemon」の歌い出しの言葉。それは物語の内容とも相まって、視聴者の心に鮮烈な印象を残したのだった。

 翻って、『グランメゾン東京』における「RECIPE(レシピ)」は、どうだろう。回を追うごとにわかってきたのは、このドラマが単に、落ちぶれた料理人の再起を描いただけのドラマではないということだった。木村拓哉演じる主人公は、なぜそれほどまでミシュランの“三つ星”にこだわるのか。そもそも、再起を誓う尾花が新たにオープンしたレストラン『グランメゾン東京』のオーナーシェフは、鈴木京香演じる早見倫子ではないか。そう、尾花はあくまでも“スーシェフ”として、彼女を支える立場なのだ。そして、沢村一樹演じる同店のギャルソンは、なぜそのライバル店である『gaku』を辞めてまで、尾花と再び行動を共にしようとしたのか。“大人の青春”を描いたドラマとも称される本作だが、彼らが“大人”である理由は、その年齢なこと以上に、彼らが「自分ではない誰か」のために奮闘している点にあるのだろう。そう、尾花をはじめとする登場人物たちそれぞれが、「自分ではない誰かのために頑張ること」が、実はこのドラマの真のテーマなのだ。そして各話の終盤、そのテーマが浮かび上がる絶妙なタイミングで流れ出す、〈君のため選んだ/しあわせのレシピを/始めよう 今夜も/キャンドルを灯して〉という「RECIPE(レシピ)」冒頭の歌い出し。この〈君のため〉という最初のフレーズが、ドラマの内容とあいまって、存外に視聴者の心に響いてくるのだ。〈君のため〉――その〈君〉が果たして誰を指すのかは、それぞれのエピソードで異なっている。

 たとえば、12月8日に放送された第8話「ビーフシチュー」は、尾花のかつての料理の師匠である潮卓(木場勝己)がグランメゾン東京を訪れ、「料理とは、誰のためのものなのか」を問い掛ける回だった。プロの料理人は、果たして誰のために料理をするのか。無論、それはレストランへと足を運んでくれる客のためである。よって、客の嗜好を考慮しない料理人など論外なのだ。そんな気付きをもたらせてくれた師匠のためにも、その弟子である自分は、必ず三つ星を獲る。そう決意を新たにする尾花の心境を代弁するかのように、〈君のため〉という「RECIPE(レシピ)」のフレーズが響いてくるのだ。そのドラマが描き出すテーマを、その音楽と言葉によって、それとなく視聴者に気づかせてくれること。なるほど、それがドラマ“主題歌”の本当の醍醐味なのだろう。無論、最初に述べたようにこの曲は、“大人のラブソング”として、ドラマの内容を離れても十分そのイメージを膨らませることのできる一曲となっている。しかし、米津玄師の「Lemon」同様、ドラマを観ている人にとっては、さらに格別な意味を持った一曲として響く「RECIPE(レシピ)」。ドラマと主題歌の理想的な関係が、まさしくここにあると言えるだろう。(麦倉正樹)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む