Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『MIU404』に感じるキャラクターたちの人生 単なる事件解決で終わらないチームの力量

リアルサウンド

20/7/4(土) 6:00

 金曜ドラマ『MIU404』(TBS系)の構成が、実に巧みだ。1勤務24時間の中で、できる限りの初動捜査をするという警視庁“機動捜査隊(通称:機捜)”を舞台にした、1話完結のノンストップドラマでありつつも、この世界での“人生”が続いている。

参考:松下洸平、『MIU404』は今後を左右する一歩? “普通の良い人”を演じられる貴重な存在に

 「大事なことを思い出した。ここんとこ毎晩寝る前に、“あ、そうだ。アレを志摩に言っとかないと”って思ってたんだよ」と、伊吹(綾野剛)が語りかける。車の助手席で思い出す、志摩(星野源)に関する“アレ”とは、もちろん前回の事件現場での話。

 野生的な勘の鋭さと行動力で犯人を追い詰めた伊吹。拳銃を取り出してあわや撃つかと思われたが、銃声の代わりに鳴り響いたのは魔法少女のステッキに録音された可愛らしい決め台詞だった。最初から撃つつもりなどなかったという伊吹だったが、複雑な思いに駆られた志摩は思わずげんこつで殴ってしまった……アレのことだ。

 「謝ってもらってない」その伊吹の言葉が、後々第2話の重要なキーワードとなってくる。だが、もちろん視聴者はまだ知らない。むしろ、このときは「殴ってごめんなさいは? セイ!」と、じゃれる伊吹と煙たがる志摩の距離感を楽しむやりとりとして輝く。この2人が過ごしている時間の流れを示しながらも、このあとの事件を予感させる絶妙な会話劇が、さすがの脚本力と惚れ惚れする。

 第2話で起きた事件は、ハウスクリーニング会社での殺人事件。殺されたのはパワハラが過ぎると悪評高い専務で、容疑者として浮かび上がったのは、真面目な性格の会社員・加々見崇(松下洸平)だ。第一発見者によると、加々見は凶器を持ったまま逃走。田辺将司(鶴見辰吾)・早苗(池津祥子)夫妻を脅し、山梨県へと車を走らせる。すると、田辺夫妻と加々見の間には妙な絆が生まれていくのだった。

 加々見は父親に、そして田辺夫妻は息子に、それぞれ「謝ってほしかった」「謝りたかった」という過去を持っていたのだ。だが、その願いは永遠に叶わない。なぜなら、加々見の父親も田辺夫妻の息子も、すでにこの世の人ではなくなっているからだ。そこに志摩のかつての相棒というもうひとつの死も見え隠れする。志摩もまたこの2組の親子と同じ傷を抱えているのではないかと予感させる展開だ。

 加々見の「やってない」という言葉を信じて味方になろうとした田辺夫妻に、そして加々見は無実を証明しようとしていると信じている伊吹に、志摩は「人は、信じたいものを信じるんだよ」と喝を入れる。と、同時に第1話の「俺は他人も自分も信用しない」という言葉が脳裏によぎる。自分が信じたことがキッカケで深い傷を負った人の言い分にも思えたからだ。

 「(やってないという時は)自分がやってしまったことを、認めたくないんです。できることなら、罪を犯す前に戻りたい」「なかったことにしたい。でも時は戻らない」「加々見は、自殺するかもしれません」そう志摩が、加々見の心情を推測するのは、刑事としての経験か、それとも……。

 普段から実直に仕事に取り組んでいた加々見。慣れない手つきで包丁を万引きをし、救いを求めるように訴える姿に、田辺夫妻のみならず視聴者もすっかり信じてしまったのではないだろうか。「信じる」ということは、そうであってほしいという「願い」そのもの。だが、人が信じるというのは、それだけ危うさをはらんでいるということを忘れてはいけない。相手を救うことになると信じながら、自分が救われようと願い、真に救う方法を見失ってしまいかねないからだ。きっと志摩はそれを知っているのだろう。

 加々見が逮捕された瞬間、田辺夫婦は実の息子に言えなかった、そして加々見は父親から聞けなかった「ごめんね」の言葉でつながる。壮大な富士山の前で、加々見がなんとも言い難い表情を浮かべて頭を下げた。子どものころから見てきた変わらぬ景色を、今も変わらず呪っているのか。それとも、その田辺夫妻の言葉で景色が変わって見えたのか。その見方は、私たちの「願い」次第だ。

 そして事件解決後、志摩もまた伊吹に「殴って悪かった、ごめん」と告げる。そのトーンは、いつものようにじゃれ合う口喧嘩。だが、まるでもう会えない相手の代わりに、目の前の人に伝えたかった言葉を投げかけた田辺夫妻のようにも聞こえてくる。そして、さらに「お前は、長生きしろよ」という意味深な言葉も続く。

 刑事のバディものといえば、事件を解決して単純明快な爽快感が売り。しかし、そこで終わらないのが『MIU404』チームの力量だ。2組の親子のストーリーが、2組のバディの過去と未来にリンクしていく。そして次回第3話では、なんと『アンナチュラル』の世界線ともリンクするというから、驚きだ。両作を担当する新井順子プロデューサーは、「『MIU404』と『アンナチュラル』の世界はつながっていて、どこかでミコトも生きていると思っている」と語った。

 私たちが生きている限り人生が続くように、キャラクターたちの人生もどこかで続いている。ドラマのための事件ではなく、その世界で起きた事件をドラマとして観ているという感覚。だからこそ、じっくりと作品を味わうことができるのだ。大ヒットドラマ『アンナチュラル』の成功が、『MIU404』の制作環境を自由にしているとも聞いた。ならば、このドラマがどこまで深く味わい深いものになるのか、伊吹&志摩コンビよろしく制作陣にも大いに暴れてほしい。

(文=佐藤結衣)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む