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「SPAC秋→春のシーズン 2018-2019」に西悟志、多田淳之介ら

ナタリー

18/7/23(月) 17:59

「SPAC秋→春のシーズン 2018-2019」の製作発表会より。左から多田淳之介、西悟志、レオノーラ・ミアノ、宮城聰。

「SPAC秋→春のシーズン 2018-2019」の製作発表会が本日7月23日に東京のアンスティチュ・フランセ東京にて行われた。

「SPAC秋→春のシーズン」とは、“何年か観続けると世界の演劇史が概観できる「演劇の教科書」”をコンセプトに、毎年10月から3月にかけて古今東西の名作戯曲を静岡・静岡県芸術劇場にて上演する演劇シリーズ。一般公演のほか、平日は静岡県内の中高生を対象とした招待公演も実施される。

「SPAC秋→春のシーズン 2018-2019」には、ウジェーヌ・イヨネスコ作で西悟志演出の「授業」、芥川龍之介作で多田淳之介演出の「歯車」、レオノーラ・ミアノ作で宮城聰演出の「顕れ」、ジャン・ランベール=ヴィルド作・演出の「妖怪と私(仮題)」の4作品がラインナップされた。

SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督の宮城は会見冒頭で、「優れた芸術とは、危機的瞬間を冷凍保存したような作品ではないかと思っています。喜怒哀楽、どれに関しても並外れていて、今までの自分ではいられなくなってしまうような瞬間を見事に留めているような作品、それが優れた芸術ではないかと。生きている中でそういう危機的瞬間に直面することは誰にもあるわけですが、これまでの芸術作品を見ると、人間は案外と似たような局面に直面してきたことがわかります」と述べる。そして「演出家とは、そういった芸術の遺産と言うか、人類が蓄えてきたフリーズドライされた知恵を、現在の俳優の肉体を使って解凍してみせる仕事なのではないかと。そこで演出家にもっと活躍してほしいと思い、今回は西悟志さんと多田淳之介さんという、まさに演出の専門家に作品を展開してもらいたいと思っています」と期待を語った。

その宮城の発言を受けて、西は「今、危機的状況にある西悟志です(笑)」と挨拶し、会場を和ませる。老教授と彼の個人授業を受けにきた1人の女学生をめぐる「授業」について、西は「話し言葉というのは“おまじない”だと思っていて、例えば目の前の人に『手を挙げてください』と声をかけることによってその人を動かすことができたりするわけですよね。自分はその“おまじない”をかけるのがけっこううまいと思っていますが、同時にかかりやすい人間でもあるので、今『授業』という戯曲のことを考えながら、戯曲が自分の中に降りて来てしまうところがあります」と説明する。その中で戯曲中の言葉である「教えることって楽しいよね」が自身のキーワードになっていると話し、「教えることは力を持つこと。力を持つことは楽しいことでもあるし、同時に暴力にもなりえることだと思っています。また教えられる人たちのことも考えていて、『授業』でも暴力を振るわれひどい目に遭う生徒たちがいるのですが、そうやって押しつぶされていく人たちを忘れないことが自分の仕事ではないかと思うので、力を行使される人たちのことを思いながら戯曲に取り組んでいきたいと思います」と述べた。

今回がSPACで初演出となる多田は「SPACの俳優さんと初めて仕事できること、それから中高生演劇鑑賞会があることが、とてもモチベーションになっています」と挨拶。そして「(観客にとって)題材を我がことのように感じてもらえるかをどうかを大事に、毎回創作にあたっているのですが、今回は乗りにくいというか、読み進めるのがなかなか難しい作品かもしれません」と前置きしつつ、「でも構造としては非常に面白い小説だと思っていて、間違いなく芥川本人と思われる作家が、苦しみながら小説を書いている様を描いている。『つらい』とばかり書かれていますが、小説を書くこと自体はあまり大変そうではなくて、大変なのはそれ以外のこと(笑)。そんな(現実と物語の)入れ子構造も面白いと思っています」と語る。さらに本作が芥川が自死した後に発表された作品であることに触れ「死を通して生きるとは何か、また息苦しさについて考えていけたら」と述べた。

宮城は、2015年に発表されたアフリカ系フランス人の女性作家レオノーラ・ミアノの戯曲「顕れ」を演出する。アフリカ社会の分断を生んだ奴隷貿易に斬り込んだ作品で、宮城は同作を祝祭音楽劇として立ち上げる。なお本作はフランスのパリ・コリーヌ国立劇場の創作委嘱によって創作され、9月にフランス、来年2019年1月から2月にかけて静岡にて上演される。宮城は「本日はこの会見場にレオノーラ・ミアノさんがいらっしゃっているのでとても話しにくいですが(笑)」と笑顔で語りつつ、「いわゆる奴隷貿易の陰には、そこに加担しながらもそのことについて語ることができず、このうえもない無念……恨みと言ってもいいかもしれないです。それを抱えている人がたくさんいるだろうと。そういった語られることのない恨みが、今生きている人間をも不幸にしているのではないかと思います。その語られない恨みを演劇という手段を使って解き放っていくことが僕のメインの仕事だと思っているので、『顕れ』はまさに僕の仕事のど真ん中の戯曲です」と作品への思いを述べた。

「妖怪と私(仮題)」の作・演出を手がけるジャン・ランベール=ヴィルドは、これまでに「スガンさんのやぎ」「隊長退屈男」「リチャード三世~道化たちの醒めない悪夢~」を日本で上演している劇作家、演出家、俳優。今回は死後、おかしな妖怪たちの世界へと迷い込んだある人物を軸とした音楽劇を立ち上げる。宮城はヴィルドを「三十代で国立演劇センターの芸術監督に就任した逸材」と紹介し、「彼はレユニオン島の出身で、妖怪の話をかなり聞かされて育ったそうです。それから戦争についても戯曲を書いていて、妖怪体験と戦争のことに関心を持っている。と言うと、日本のとある偉大なマンガ家のことを思い出されると思いますが(笑)、ジャンさんはそのマンガ家の全作品を読破するほど影響を受けています。今回はまったくの新作ですが、目の前にある生々しい肉体を使って、そのことを書いていく作品になると思います」と期待を述べた。

なお、「授業」は8月25日、「歯車」と「顕れ」は9月下旬、「妖怪と私(仮題)」は12月中旬に一般前売りを開始する。

SPAC秋→春のシーズン 2018-2019

2018年10月~2019年3月
静岡県 静岡芸術劇場

#1「授業」

2018年10月6日(土)~8日(月・祝)、13日(土)、20日(土)・21日(日)、28日(日)

作:ウジェーヌ・イヨネスコ
演出:西悟志
共同演出:菊川朝子
出演(五十音順):SPAC(貴島豪、野口俊丞、布施安寿香、渡辺敬彦)

#2「歯車」

2018年11月24日(土)・25日(日)、12月1日(土)・2日(日)、8月(土)・9日(日)、15日(土)

作:芥川龍之介
演出:多田淳之介
出演(五十音順):SPAC(大内智美、奥野晃士、春日井一平、河村若菜、坂東芙三次、三島景太)

#3「顕れ」

2019年1月14日(月・祝)、19日(土)・20日(日)、26日(土)・27日(日)、2月2日(土)・3日(日)

作:レオノーラ・ミアノ
翻訳:平野暁人
演出:宮城聰
監修:芳野まい
音楽:棚川寛子
出演:SPAC

#4「妖怪と私(仮題)」

2019年2月16日(土)・17日(日)、24日(日)、3月2日(土)・3日(日)、9日(土)・10日(日)

作:ジャン・ランベール=ヴィルド
出演:SPAC

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