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マ・ドンソクが怒りをこらえ拳を固く握りしめる 『守護教師』で見せたスーパーヒーローではない姿

リアルサウンド

19/7/21(日) 10:00

 『無双の鉄拳』や『神と共に 第二章:因と縁』など、出演作が続々と日本で公開されているマ・ドンソク。8月にも、主演作『守護教師』が公開となる。

 本作でマ・ドンソクが演じるのは、元ボクサーながらも、腐敗したボクシングジムの在り方に嫌気がさし、副会長を殴ってコーチの職を失う主人公・ギチョルだ。この冒頭のシーンで、ギチョルという人が、理不尽なことには黙っていられない人物だとわかる。

 そんなギチョルだが、ある女子高校の教師となる。いきなり女子高校で働くこととなったギチョルは、女子生徒からも「変なおじさん」「見た目からしてヤクザね」などと言われ、学生たちから授業料を徴収する役割をしていても、まともに相手にもされないのだが、そんな状況で、やれやれと困った顔をして、ぶつくさとボヤいているマ・ドンソクが妙に愛らしい。

 そんな中、ギチョルは、スヨンという生徒の失踪を知る。彼女の親友のユジンはチラシを掲示板に貼ったり、スヨンの祖母のところにも足しげく通うなど、失踪した親友のことをひと時も忘れず過ごしていた。

 ときにユジンは、危険を顧みず、スヨンの足取りを追ってマフィアが経営する店にも近づく。ユジンを追ううちに、ギチョルはある真実に近づいていき、町に巣食う理不尽な存在に気付くのだった。

 このユジンを演じるのが、『アジョシ』『私の少女』や『悪魔は闇に蠢く』のキム・セロン。彼女はいつ見ても、大変なものを背負わされ、そして大変なめにあってしまう少女を演じている気がするが、本作でもやはりユジンは重い役を演じていた。今回、彼女が演じたのは、親友を行方不明で失い、危険を顧みず真相を追う役柄だ。放課後に友人と明るくショッピングしたりカフェでおしゃべりをするようなシーンはなく、そして事件を追ううちに自らも危険にさらされてしまうのだが、抑えた演技の中で、こちらにいろいろなものを察することができるような、多くを語らぬ中にも説得力があると、今回も思えた。

 スヨンやユジンに起こることは壮絶であるが、救われるのは、マ・ドンソクがタイトルの通り、彼女を「守護」しながらも、「教師」であるという顔を崩さないところ。例えば、キム・セロン演じるユジンを夜の街から助け出すときに腕を掴むシーンに男女の関係性は見えないが、心底心配している様子は見える。マ・ドンソクから見えてくるものは、あくまでも彼女を守る教師としての愛情だと思えた。

 この後、ユジンと行動を共にするうちに、この静かな町に巣食う理不尽な存在に気付くことになり、その中でギチョルは強い怒りの感情を持つこともある。夜な夜なだれかが黒塗りの車で連れ去られていたり、ユジンが捜索のためのチラシを貼ろうとすると、教師がとがめたり、また町の有力者の選挙演説に異を唱えたら、取り押さえられたり、警察がこの件に対してユジンの言い分を聞かず、独自で動こうとしていたり、ギチョルの上司である教師が、この件に触れようとすると「出る杭は打たれる」と忠告したり、町の中には、理不尽で薄気味悪い「全体主義」の空気が漂っているのだった。

 しかし、ギチョルが暴力で、拳で制したところで、構造的な悪は断ち切れるものではない。ギチョルが怒りをこらえて、拳を見えないところで固く握りしめるシーンにぐっときてしまった。

 本作には、憎たらしいという言葉では済まされない非道なキャラクターが出てくる。マ・ドンソクは、その体格からして、この映画に出てくるどの人物よりも力では勝っているだろう。劇中でも、チン・ソンギュ演じる地元のマフィアやその部下とは、見事なアクションを繰り広げる。この役がマ・ドンソクでなければ、ユジンを助けられないのではと思われるシーンもたくさんあるし、抑えていたものを爆発させるシーンもある。しかし、それでは解決できないもっと大きなことに挑むためにぐっと抑えらた感情も、本作の見どころであったように思える。

 『犯罪都市』『ブラザー』『ファイティン!』『ワンダフル・ゴースト』『無双の鉄拳』と、近年はまさに無双の活躍を続けているマ・ドンソク。今年は映画『悪人伝』でカンヌ国際映画祭にも出席、またマーベルの作品にも出演との報道もあった。これらの作品では、また力を存分に発揮するマ・ドンソクが見られるのかもしれないが、本作『守護教師』では、誰かのために怒り、でも己の力の持つ意味を考え、ぐっと耐える。そんな「一人の特別なスーパーヒーローでもない普通の男」の一面が見られたことも魅力であった。(文=西森路代)

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