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立川直樹のエンタテインメント探偵

『杉本博司 瑠璃の浄土』展、『シチリアーノ 裏切りの美学』…久しぶりの“お出かけ”でアート・映画を堪能

毎月連載

第53回

『杉本博司 瑠璃の浄土』チラシ

6月11日に、エースホテル京都がオープンするので2ヶ月ぶりに新幹線に乗って京都まで行った。4月8日に祇園の知り合いのワイン・サロンから桜が満開なのに全く人がいない景色って何てシュールなんだろうと話して以来の“お出かけ”になったが、新幹線の乗客も少なく、それよりも何よりも子供連れを含む家族旅行のような人が全くいない東京駅や京都駅というのも完全にSF映画のようだった。

京都の街も同様で“観光公害”とまで言われていた情景は全く消えさり、杉本博司『瑠璃の浄土』を観に出かけた京都市京セラ美術館の回りも数えるほどしか人が歩いていなかった。展覧会も当然入場制限ありの入館だったが、空間構築と、ある種のスピリチュアルな空気感が肝とも言える杉本博司の世界を展覧するには絶妙のタイミングで、記憶に残る時間になった。

その5日後に行った三菱第一号美術館は、京セラ美術館よりも少し人は多かったが、帰りがけにスタッフの方に聞くと、1時間で50人に制限しているという。この入場制限の問題は、劇場や映画館、ライヴハウスなどになると、その方法論はかなり難しく、関係者は苦慮しているが、映画の試写もオンラインや予約のようなことになっている。

『シチリアーノ 裏切りの美学』チラシ (C)LiaPasqualino

でも、やはりスクリーンで観る映画の魅力というのは格別だ。8月28日に公開されるイタリアの巨匠マルコ・ベロッキオ81歳の最高傑作といわれる『シチリアーノ 裏切りの美学』の圧倒的な重量感。その145分間の“映画の悦楽”は絶対にモニターの画面では味わえるものではないし、それは“レコード”というメディアについても言えることだと思う。

テレビで見たサイモン&ガーファンクルの名曲制作秘話、『映像の世紀プレミアム』など

そして、話は前回の最後に予告しておいたサイモン&ガーファンクルの名曲『明日に架ける橋』の制作秘話につながる。1970年の2月最終回から6週連続でビルボート・チャートNo1ヒットで『サウンド・オブ・サイレンス』と並ぶ代表曲は、ポール・サイモンがアル・クーパーの紹介でスワン・シルヴァートーンズというゴスペル・グループを知り、生まれた歌で、ゴスペルはアメリカを探し続けたポールが見つけたひとつの答という話。アートの話によると、歌詞は2番までしかなく、アートが「これはスケールの大きな歌になる」と言ったのに対してポールは「つつましやかな讃美歌として書いたんだ」と反論したというエピソードが興味深く、それでも歌が形になっていき、レコーディングの時には昨年の3月に90歳で死去した偉大なドラム奏者ハル・ブレインが「鎖につながれている囚人のイメージを感じ、スタジオの駐車場に停めておいた車の中にあるスノー・チェーンを取りに行って、2拍目と4拍目に床に叩きつけてその音を入れたんだ」と得意そうに話すのを聞いて、改めてアナログ盤を取り出し、聴いてみると、確かにその音は聞こえるし、アートが最後のハーモニーの静けさをどうすればいいかと悩んでいた時に、スタジオの帰りにフラリと入ったセント・バーソロミュー教会で手に入れることができたというエピソードもリアルに耳に入ってきたのである。

サイモン&ガーファンクル(写真:ロイター/アフロ)

だから家にいる時間が増えた分、まるで10代の少年のように音楽や映像、本とべったりと過ごしている。その収穫をアットランダムに並べていくと、想像してたよりも素晴しい映画だった『ロケットマン』(2019)、片岡義夫の『彼らを書く』。ザ・バンドの1993年の再結成アルバム『ジェリコ』で、ザ・バンドがロビー・ロバートソンが仕切っていたんじゃないというのに気づき、ジャック・ニコルソンが“怪優”の称号を手に入れたキューブリックの『シャイニング』の音楽がカラヤンが指揮しているバルトークとペンデレツキだったことを改めて知って納得し、ジャック・ニコルソンと同じくらいに強烈な存在感のあるテレンス・スタンプは『血と怒りの河』のようなウエスタン系のものに出ても不思議なオーラを放っているのに驚かされ、エンタテインメントとの付き合いを楽しんでいる。

おなじみ『映像の世紀プレミアム』の『グレートファミリー 巨大財閥の100年』も中々の内容だったが、97歳で大往生したジョン・ロックフェラーを自動車王フォードが見舞った時に、ロックフェラーが「さらばだ、天国で会おう」と言ったのに対して、フォードが「あなたが天国に行けるならね」と言葉を返したエピソードが最高だった。

作品紹介

『京都市京セラ美術館開館記念展 杉本博司 瑠璃の浄土』

会期:2020年5月26日~10月4日
会場:京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ

『シチリアーノ 裏切りの美学』(2019年・伊=仏=ブラジル=独)

2020年8月28日公開
配給:アルバトロス・フィルム
監督:マルコ・ベロッキオ
出演:ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ/ルイジ・ロ・カーショ

『SONG TO SOUL〜永遠の一曲〜 #91「明日に架ける橋」サイモン&ガーファンクル』

放送日:2020年6月2日
BS-TBS

映像の世紀プレミアム『グレートファミリー 巨大財閥の100年』

放送日:2020年6月6日
NHK BSプレミアム

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

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