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愚かだと笑えるか?上白石萌歌&長田育恵が語る、悲劇ではない「ゲルニカ」とは

ナタリー

20/7/8(水) 13:23

左から長田育恵、上白石萌歌。(撮影:源賀津己)

「ゲルニカ」の合同取材会が、去る6月18日に東京都内で行われ、主演を務める上白石萌歌と脚本を手がけた長田育恵が対談した。

東京・PARCO劇場のオープニングシリーズを飾る「ゲルニカ」は、てがみ座の長田が演出家・栗山民也と初ダッグを組む新作。スペイン内戦時のゲルニカ無差別爆撃を描いたピカソの絵画「ゲルニカ」を題材に、そのとき、その街に生きた人々の姿を人間ドラマとして立ち上げる。

本作は、栗山が自宅にあった「ゲルニカ」(複製)の絵をもとに「いつか芝居にしたい」と思い、温めていた企画。脚本を託された長田は「ゲルニカは人類の“初めての無差別虐殺”を背負った土地。人間の業や悲惨さ、憎しみを正面からもう一度考えてみるというお題を渡されたんじゃないかなと思っています」と背筋を伸ばした。

執筆にあたり、ゲルニカを取材で訪れた長田は「ゲルニカは自分の先入観を覆した」と話す。「広島や長崎が原爆のときの痛みを記憶にとどめることで、その残虐性を当時特有のものとして保管しているのに対し、ゲルニカにある記念館では、当時の様子の展示は全体の半分でしかなく、あとの半分は現在、世界で行われている平和活動が紹介されていたんです。そこに、人間が人間に対して行う“残虐”には常に抗い続けなければならない、という現在進行形の意思を感じて。人々が次の1日をどう生きるかという意思の形を描くことが、栗山さんのお題へのアンサーになるんじゃないかなと思いました」と語った。

主演を務める上白石は、本作で栗山の演出作品に初参加。「栗山さんの舞台はもちろん、著書も拝読していて、大学のレポートで何枚も書いてしまうくらい尊敬しています。(出演が決まり)うれしくて、とにかく震えました(笑)」と心境を語る。上白石が演じるのは、ゲルニカの元領主の娘として不自由なく生きるサラ。旧体制と新体制が衝突し、スペイン内戦が本格化するゲルニカで、サラは婚礼直前に戦いへと旅立った婚約者を待つ間、街の人々や兵士、海外特派員が出入りする食堂で1人の兵士と出会い、恋に落ちてしまう。しかし彼はドイツ軍のスパイで、ゲルニカ爆撃の工作員でもあり……。

長田は「上白石さんの存在を借りて書いた」と、サラ役が当て書きであることを明かした。「私が勝手に感じたことですが(笑)、上白石さんは、すでに自分にとって大事なものを選び終わっている人。自分の大事な領域と照らし合わせながら道を決めていくのではないかなと思っていて、その部分を役に投影しました。この作品では、サラが世界をどう見渡し、考え、成長するかが描かれます。彼女には間違ったものは間違ったものとして映ってほしいし、でもどうしようもなく突き進むことへの悲しさや愛しさもすくい上げてほしい。上白石さんは、それらを表現してくれるのではないかなと思っています」と述べた。また、キャスティングが決定するまで、さまざまな人物を軸にいくつものあらすじを用意していたという長田の言葉に、上白石は「えー、存じ上げなかったです!」と目をぱちくり。「責任が……」と恐縮しながらも、「(出身地である)鹿児島の中学校でゲルニカの複製を見たときに、人の動きを止めてしまう圧や人の叫びが聞こえてくるような印象を受けました。この絵がどんなふうに舞台になるのか、読ませていただいた台本の前半部分では穏やかで尊い日常が流れ、悲痛な場面は想像し難いくらい。後半で人々がどう動き、物語が進んでいくのかすごく楽しみです」と期待を顕にした。

作劇について長田は「書き始めるのに苦労したのですが、今、こういう状況になってゲルニカに生きている人たちと今の自分たちに不思議な相似を感じています。今回、『私たちは死んだ彼らのことを愚かだと笑えるのか』という裏テーマが私の中にあって。普段、違和感を解消せずに何かを選択したり、心のブレーキに気がつかないふりをして大きな流れに乗ったりしていると思うんです。ゲルニカは最終的に悲劇を迎えるけれど、その瞬間まで人々はどこかに向かおうとしていた。それをきちんと描いて、今の日本のお客さんにも通じる部分を感じ取ってもらえたら。観終わったあとに“ゲルニカ”という言葉の印象が、憎しみに飲み込まれず抗うことや生きるという意思に変わるといいなと思っています。そんな希望をメッセージとして作品に込めました」と語る。

また上白石は「今を生きる私たちも、見えない恐怖や不安と共生していかなければいけない時期。『ゲルニカ』は1930年代のお話ですが、(作品を通して)今しか伝えられないことがきっとたくさんあると思います。個人的な話ですが、(出演するはずだった)『お勢、断行』という舞台が中止になり、今までは初日が来ることやお芝居ができることを当たり前のように捉えていたけれど、本当はいろいろなことが整ったうえでできるものなんだと実感しました」と振り返る。そして、本作に向けて「演じるということが、自分にとって大きかったことに気づき、今まで以上にお芝居を通して伝えていきたいという思いが強まっています」と言葉に力を込めた。最後に「20歳になったのですが、サラも同年代。私自身、これからいろいろなことを知っていくドアの前にやっと立てたと思っています。私もサラのように、新しい視点でものごとを見ていきたいなと思っています」と語り、和やかな雰囲気のまま対談は終了した。

公演は9月4日から東京・PARCO劇場にて。その後、京都、新潟、愛知、福岡で上演される。出演者には上白石のほかに、中山優馬、勝地涼、早霧せいな、玉置玲央、松島庄汰、林田一高、後藤剛範、谷川昭一朗、石村みか、谷田歩、キムラ緑子が名を連ねた。

PARCO劇場 オープニング・シリーズ「ゲルニカ」

2020年9月4日(金)~27日(日)
東京都 PARCO劇場

2020年10月9日(金)~11日(日)
京都府 京都劇場

2020年10月17日(土)・18日(日)
新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場

2020年10月23日(金)~25日(日)
愛知県 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール

2020年10月31日(土)・11月1日(日)
福岡県 北九州芸術劇場 大ホール

作:長田育恵
演出:栗山民也
出演:上白石萌歌、中山優馬、勝地涼、早霧せいな、玉置玲央、松島庄汰、林田一高、後藤剛範、谷川昭一朗、石村みか、谷田歩、キムラ緑子

上白石萌歌 ヘアメイク:冨永朋子(Allure) / スタイリング: 道端亜未

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