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『グランメゾン東京』ついにチームが完成 木村拓哉がチームビルディングの物語を演じる意味

リアルサウンド

19/12/29(日) 6:00

 「できたな、最高のチームが」

 木村拓哉主演の日曜劇場『グランメゾン東京』(TBS系、日曜夜9時)が最終回を迎える。これまでに最高視聴率は14.7%を記録(第9話、ビデオリサーチ調べ、関東地区)。数々の困難に打ち勝ってきた主人公たちが、「ミシュラン」の三つ星獲得を目指そうとする結末に向けてグイグイ盛り上がってきた。主題歌「RECIPE(レシピ)」を歌っている山下達郎によると、フランス料理店で食事をしているとシェフたちが集まってきて「毎回見ています!」「参考になります!」などとドラマを絶賛するほどなのだという(TOKYO FM『山下達郎のサンデー・ソングブック』)。

【写真】木村拓哉クランクアップの様子

 『グランメゾン東京』のストーリーを一言で表すならば、「チームビルディング」の話である。常に料理に真摯に取り組む天才シェフの尾花夏樹(木村拓哉)、驚異の味覚と突破力を持つオーナーシェフの早見倫子(鈴木京香)の二人を中心に、誠実で包容力のあるギャルソンの京野陸太郎(沢村一樹)、「相棒」感が漂うアイデアマンのシェフ・相沢瓶人(及川光博)、理想的な見習いの芹田公一(寛一郎)、才気あふれるパティシエの松井萌絵(吉谷彩子)、復讐を企んでいたソムリエール・久住栞奈(中村アン)らが次々とチームに加わっていき、そして最後のピースとして大きな挫折を味わったきらめく才能を持つシェフの平古祥平(玉森裕太)が加わった。冒頭のセリフは、10話のラストで平古祥平がチームに加わったときの尾花夏樹のもの。

 とりわけ10話では「チーム」と「仲間」が強調されていた。京野は「これからはチーム一丸となって三ツ星を狙う」と宣言していたし、相沢は離散してしまったレストランの仲間たちのことを想って、「あの時、バラバラになった仲間たちのためにも、僕はこの店を成功させなければならないと思ってる」と強い口調で語っていた。倫子は「私、ホント、すっごい仲間に恵まれてるなぁ、と思って」と感慨深そうに呟き、「頼れる仲間たちがいますから」と世界一のフーディー、リンダ(冨永愛)に啖呵を切っている。最後に平古祥平が「俺は、この店に入りたいです。グランメゾン東京で、尾花さんやみんなと一緒に料理を作りたいです!」と叫んで、ついにチーム「グランメゾン東京」が完成したということになる。

 同時にライバルのレストラン「gaku」でシェフの丹後(尾上菊之助)が解任され、厨房のスタッフたちの心がバラバラになっていく様子を描くことで、「グランメゾン東京」のチーム感、仲間感がより際立つようになっていた。

■『グランメゾン東京』と『BG~身辺警護人~』

 「チームビルディング」についてビジネス関連のサイトをひもとくと「メンバーが主体的に個性や能力を発揮しながら一丸となってゴールを目指すチームになるための取り組み」と書かれている。個性的なメンバーがそれぞれの能力を発揮しながら三つ星というゴールを目指す『グランメゾン東京』のストーリーと完全に一致する。

 木村が大ファンであることを公言している『ONE PIECE』をはじめとして、チームビルディングのお話は古今東西に星の数ほどある。沢村一樹は木村のラジオに出演したとき、『アベンジャーズ』や『七人の侍』に例えていたという(Real Sound映画部:『グランメゾン東京』はまさにONE TEAM “一流の”役者・料理・演出を揃える木村拓哉の凄み)。

 しかし、『グランメゾン東京』が突出している点が一つある。それは、チームビルディングの過程をひたすら丁寧に描き続けたことだ。『ONE PIECE』でも『七人の侍』でも、だいたいの物語はチーム作りを前半で終わらせて冒険や戦いに赴くが、『グランメゾン東京』でチーム作りが終わったのは上記のとおり11話のうち10話が終わったところである。三つ星を獲るという目標は繰り返し強調されてはいるが、やはりチームビルディングそのものを見せるためのドラマだったと言うことができるだろう。

 実は、木村が本作の前に主演したドラマ『BG~身辺警護人~』(18年、テレビ朝日系、以下『BG』)も、同じようなチームビルディングの物語だった。木村演じる主人公の凄腕ボディガード、島崎章はかつて大きな舞台で失敗を犯したことがあり、過去を隠してボディガードのチームに入ることになる。チームには島崎に反発する高梨雅也(斎藤工)、若手スタッフの菅沼まゆ(菜々緒)と沢口正太郎(間宮祥太朗)がおり、リーダーとして村田五郎(上川隆也)がいたが職務の最中に殉職。島崎がチームを指揮することになるという物語だった。

 独善的に見える尾花夏樹と控えめな島崎章の性格はまったく違うが、大まかな設定は実によく似ている。『BG』は平均視聴率15.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)の成功作であり、『グランメゾン東京』のスタッフが多少なりとも意識したことは想像に難くない。とはいえ、事件の解決が中心の『BG』に比べると、チームビルディングの過程は『グランメゾン東京』のほうが明らかに丁寧に描いている。これまでは必ずチームの中心にいた木村が『グランメゾン東京』ではチームプレイに徹しているところも特筆すべき点だろう。

 ドラマの中で圧倒的な主役ぶりを発揮してきた木村が、近年の数作でチームビルディングの物語に傾倒しているところが興味深い。『BG』の前作となる『A LIFE~愛しき人~』(17年、TBS系)では天才的な技術を持つ外科医を演じたが、最終回では対立していた壇上壮大(浅野忠信)とチームを組み、それを見ていた井川颯太(松山ケンイチ)が「この二人、最強だな」と感嘆する場面があった。

 木村拓哉のチームものといえば、大成功を収めた『HERO』(01年、14年、フジテレビ系)を思い浮かべる人も多いかもしれない。チームビルディングの過程は描かれないが、松たか子、大塚寧々、阿部寛、勝村政信、児玉清(1期)、北川景子、杉本哲太、濱田岳、吉田羊、松重豊(2期)、小日向文世、八嶋智人、正名僕蔵、角野卓造ら、個性豊かなメンバーがチームを組んで事件解決にあたっていた。

 なにより木村にとって最大のチームはSMAPだったはずだ。SMAPという最強のチームがあったからこそ、木村拓哉は思う存分ソロとして活動できた。振り返ってみれば、木村は2016年のSMAP解散以降、彼の主戦場であるドラマでチームを作っていく物語を繰り返して演じてきたことになる。彼がもう一度、自分の力を存分に活かしてくれるチームを(たとえフィクションの上でも)欲しがっている……と考えるのは穿ち過ぎだろうか。

 チームビルディングの物語を演じることは、いまや木村にとって新たな切り札になっているように思える。『グランメゾン東京』では、それが最良の形で表れたドラマだった。最終回のラストで三つ星を獲得できれば視聴者は喜ぶだろうが、たとえ三つ星を獲得できなくても「この最高なチームの冒険をまた見ることができるかもしれない」と期待を抱くことができるのではないだろうか。

(大山くまお)

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