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アイドルはなぜ女優を目指すのか? 姫乃たまが“アイドルと映画の関係”を考える

リアルサウンド

16/4/21(木) 6:00

 先日、『キネマ純情』を観て、映画に出演できるアイドルは強いなあと思いました。90分じっくり観ていると、主演の女優アイドルグループ・ノーメイクスを、どうしても好きになってしまうのです。まだグループ結成から一年ほどしか経っていないので、目にしたことのない方も多いかもしれませんが、作品を観ればきっと好きになると思います。

 私はいつもライブに出演する時、「恋をしてほしい」という気持ちで舞台に立っています。歌も踊りも秀でていない地下アイドルの私を好きになってもらうには、「なんとなく気になる」という恋の始まりのような感覚に頼るしかないからです。

 しかし、ライブは出演時間が短くて、たいてい15~20分、長くても30分程度しか舞台に立つことができません。恋愛でいうと、一目惚れでなければ気にかけてもらえない短さです。しかも、次々とほかのアイドルの子が登場するので、全員を記憶することは難しいと考えられます。ほとんどの場合、好きなアイドルを観るついでに、何度かライブを目にすることで、ようやく気にかけてもらえるのです。

 こうした活動をしていると、まとまった時間じっくり観てもらえて、見終わった後もゆっくり考えてもらえるのは、映画に出演しているアイドルの強みだと思います。そもそもアイドルのライブ自体が、世間的に敷居の高い空間ですが、映画であれば敷居もぐっと下がり、アイドルに興味のない映画ファンの方や、少しだけ興味を持っている人の目にも留まって、広がりがあります。しかも、映画を観ているうちに、アイドルへ親近感のような愛着が芽生えてくるのです。

 2011年にAKB48のドキュメンタリーシリーズ『DOCUMENTARY of AKB48』が公開され、2015年にはももいろクローバーZ主演で、平田オリザ原作の『幕が上がる』が映画化、そして今年も、橋本環奈主演の『セーラー服と機関銃-卒業-』が公開されて、世間的にもアイドル映画が話題です。

 さらに、同じく10年代からは、インディーズのアイドル映画も盛り上がりを見せています。昨年は、ニューウェーブアイドル・ゆるめるモ!主演の『女の子よ死体と踊れ』が公開されました。今年も冒頭で取り上げたノーメイクスの『キネマ純情』や、五月からは、メジャーデビューを控えているヒップホップアイドルユニット・lyrical schoolの『リリカルスクールの未知との遭遇』が公開されます。

 私も、本当に、極稀に(強調)、アイドル映画に出演する機会があり、2012年にはBiS主演の『アイドル・イズ・デッド』(深谷まで撮影に行ったものの、撮影時間が足らず、後日近所の公園で撮り直し)に、2014年には、いずこねこ主演の『世界の終わりのいずこねこ』(なぜか、私と小明さんの共演シーンだけアドリブ)にも出演させていただきました。

 撮影現場へ行くたび、主演のアイドルさんのために、大勢の人が働いていて感動します。インディーズのアイドル映画といっても、主演で映画を製作してもらえるアイドルは、ほんの一握りなのです。

 私が出演した二作は、どちらもライブシーンが収録されていたり、役名が芸名のままだったりと、普段の活動を活かした映画でしたが、現在アイドルとして活動している女の子達の中には、アイドルを引退して、女優業への転向を希望している人も多くいます。私の周囲にいるライブアイドルの中でも、女優志望の子は少なくありません。どうしてライブアイドルは女優を目指すのか、以前から不思議に思っていました。

 何年も前に関係者の人から、ライブアイドルが演技の仕事を受ける理由を、「人気が陰って仕事が減った時でも、舞台の稽古をしてるってブログに書けば、仕事があるアピールになるから」と、説明されたことがあります。しかし、ライブアイドルはライブの本数が多いため、そのような工作をする必要がありません。なんとなく、その説にはしっくりきませんでした。

 直接、女優志望のライブアイドルの子達に話を聞くと、よく「表現することが好き」という言葉がでてきます。本人が言うので、それが答えのすべてだと思うのですが、私自身に主体性がなく、表現することにあまり興味がないため、わかるような、わからないような気持ちで、何年も疑問を放置していました。

 そして先日、いくつかのアイドル映画を手がけている監督に話を聞く機会があり、疑問を投げかけてみたところ、「女優は目立つから」と、即答されました。たしかに、ライブでは舞台の隅っこにいる子でも、映像なら彼女だけを映すことができます。現に私は映画を観て、ノーメイクスを好きになりました。目立つって、そういうことでしょうか。ずっと生身の人間が目の前にいるライブでしか活動をしてこなかった私には、映画で目立とうという発想がありませんでした。

 また、返り咲きや、一発逆転を狙って、映画で濡れ場に挑戦したがるアイドルの子も多いと聞きました。女優志望のアイドルの中にも、純粋に表現することが好きな子と、目立ったり愛されたりしたい子がいるのかもしれません。

 ライブアイドルの話をしていると、いつも承認欲求の問題から逃れられません。そして、欲求をこじらせて失敗してしまうライブアイドルの子が多いのも事実です。私も、舞台女優の仕事を受けてから、女優に転向しようとしてライブの本数を減らし、女優としての仕事も減って、そのままフェードアウトしてしまうライブアイドルの子を、何人か目にしてきました。

 しかし、ずっとインディーズアイドルを見てきて思うのは、女の子達が、自分なりの表現を模索して悩むのも、承認されたくてもがくのも、インディーズアイドル文化の醍醐味であるということです。その、胸がざわつくようなインディーズアイドルの愛おしさを、切り取ってくれる映画が増えることと、地下アイドルに興味のない映画ファンの人が、恋に落ちることを願っています。

■姫乃たま(ひめの たま)
地下アイドル/ライター。1993年2月12日、下北沢生まれ、エロ本育ち。アイドルファンよりも、生きるのが苦手な人へ向けて活動している、地下アイドル界の隙間産業。16才よりフリーランスで開始した地下アイドルを経て、ライター業を開始。アイドルとアダルトを中心に、幅広い分野を手掛ける。以降、地下アイドルとしてのライブ活動を中心に、文章を書きながら、モデル、DJ、司会などを30点くらいでこなす。ゆるく、ながく、推されることを望んでいる。

[HP] http://himeeeno.wix.com/tama
[ブログ]姫乃たまのあしたまにゃーな 
http://ameblo.jp/love-himeno/
Twitter https://twitter.com/Himeeeno

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