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新劇場版は映像表現における壮大な実験場だった 『シン・エヴァ』冒頭12分に見たその真髄

リアルサウンド

21/3/20(土) 8:00

 庵野秀明が総監督を務める映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(以下、『シン・エヴァ』)が公開された。

 本作は庵野秀明が1995年~1996年に監督を務めたロボットアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(以下、『エヴァ』)の、リビルドとして始まった劇場アニメ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』(以下、『ヱヴァ』)の最終作だ。

 物語冒頭は、パリで先行上映された12分10秒10コマのもので、Amazonプライム・ビデオで公開されていることもあり、すでに何度も観たものだ。しかし、劇中に登場するある場面を観た瞬間、思わず泣きそうになってしまった。

 以下、ネタバレあり。

 前回の戦いで大破したエヴァ弐号機のパーツを回収するため、パリに降り立った赤木リツコたちヴィレのメンバー。

 街を復活させるため、ユーロネルフ第一号封印柱の復旧作業をおこなう伊吹マヤたちだったが、そこに不気味なエヴァ軍団が襲来する。

 パリ編は、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』のクライマックスで描かれたヤシマ作戦のセルフリメイクと言える展開で、群体化された航空特化型のエヴァ44Aや、2つの下半身が繋がって動く電力供給特化型のエヴァ44Bの生物とも機械とも言えない造形はグロテスクで、群れを成して襲ってくる姿には禍々しい迫力がある。

 あの群体で襲ってくるエヴァは、『エヴァ』の影響で作られた“エヴァっぽいアニメ”に対する批評であり、無益な戦いを繰り返した末にボロボロに疲弊した「この世界の貧しさ」そのものの象徴なのだろう。

 その意味でも、悪意のある造形だが、同時に妙な愛嬌を感じるのが不思議である。在庫一掃セールとばかりに、新しいエヴァや戦艦が続々と登場する『シン・エヴァ』だが、最終的に一番魅力的だったのは“彼ら”だったと感じる。

 陽電子砲で攻撃してくるエヴァ4444Cに対し、リツコたちは、空中戦艦AAAヴンダーに吊るされた無数の戦艦を盾に防御。一方、エヴァパイロットの真希波・マリ・イラストリアスは、前回の戦いでダメージを負ったエヴァ8号機に乗って応戦する。

 空中戦闘用に改造された8号機の姿は工事現場の土木機器のようで、グルグルと機体を回転させながら宙を舞い、エヴァ44Aを撃墜していく。

 こういった派手なアクションとタイムサスペンスによって山場を作る見せ方は『シン・ゴジラ』でも展開された庵野監督がもっとも得意とする作劇手法だ。

 この見せ方は特撮映画由来のものなのだろう。それは盾となる艦隊とエヴァ8号機に釣り糸のようなものがチラチラと見えていることからもわかる。

 昔の特撮映画に飛行機等が登場する場面では、模型を吊るしている釣り糸が見えてしまうことが多かった。その意味で、特撮映画のお約束をネタにしたパロディにも見えるが、逆に釣り糸が見えていることが、SFアニメのリアリティを支えしているのが『シン・エヴァ』の面白さだろう。同時に「あえて、釣り糸を見せる」こと自体に、庵野作品の本質が現れているようにも感じた。

 『エヴァ』が新劇場版としてリビルドする際、庵野監督の中には、様々なテーマがあったと思うのだが、表現における一番の課題として、CG(コンピューターグラフィックス)をアニメの中にどう取り込み、どう馴染ませるのかというテーマがあったのではないかと思う。

 その際に庵野監督が試みたのは、映画『アバター』のような、CGを駆使して完全な異世界を構築するという方向ではなく、3DCGを使って、昔ながらの特撮を再現するというものだった。

 この方向性は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』で、より明確なものとなる。物語の舞台となる第3新東京市のバーチャルなジオラマをPC上に作り、そこに3Dモデルのエヴァや使徒といった巨大生物や、車や鉄道を模型のように配置して動かしていく。同時に、プリヴィズ、バーチャルカメラ、モーションキャプチャー等の技術を駆使することで、今までにないカメラワークをアニメの中に持ち込むことに成功している。

 パリ戦の後の、農村(第3村)の描写や、戦艦内部のメカニカルな映像も見応えが多く、『シン・エヴァ』によって一体化したアニメと特撮とCGと実写映像の未来を感じさせてくれた。

 劇中に登場する空中戦艦AAAヴンダーが、地球上の動植物の遺伝子を保存する「ノアの方舟」のような役割を担っていたことが明らかになるのだが、あの場面を見て『エヴァ』というアニメ自体が、セルアニメや特撮映画の遺伝子を残して未来に残すための方舟だったのだと、改めて思った。

 『ヱヴァ』は、映像表現における壮大な実験場だった。その集大成が『シン・エヴァ』冒頭のパリ戦だった。

 フランス語で書かれた「後をお願い」という文字と、「この街を残したかったあなたたちの想いを引き継ぎます」というマヤの台詞は、庵野監督が先輩たちから託されたバトンを受け取った証であると同時に『シン・エヴァ』を観ている観客たちに向けた「次は君たちの番だよ」という監督からのメッセージだと、筆者は受け取った。

 だから、泣けて仕方なかったのだと思う。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■公開情報
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
全国公開中
企画・原作・脚本・総監督:庵野秀明
監督:鶴巻和哉、中山勝一、前田真宏
副監督:田部透湖、小松田大全
声の出演:緒方恵美、林原めぐみ、宮村優子、坂本真綾、三石琴乃、山口由里子、沢城みゆき
(c)カラー
公式サイト:https://www.evangelion.co.jp/final.html 
公式Twitter:@evangelion_co

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