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『グランメゾン東京』幼い料理人の手が絆をつなぐ 及川光博が見せたほろ苦い決断

リアルサウンド

19/12/2(月) 6:00

 『グランメゾン東京』(TBS系)第7話は、ほろ苦い大人の味わい。「トップレストラン50」ランキング発表を1週間後に控えたグランメゾン東京に、相沢(及川光博)の元妻エリーゼ(太田緑ロランス)が訪ねてくる。「三ツ星なんて絶対にかなわない」と断言するエリーゼは、グランメゾン東京が「トップレストラン50」で10位以内に入らなければ、アメリー(マノン)をパリに連れて帰ると言い出す。かつてのエスコフィユの最高順位が10位だった。

参考:及川光博、『グランメゾン東京』で欠かせない存在に 人当たりの良さと父親としての強さ

 料理を通じて相手との距離を縮めることを「胃袋をつかむ」と表現する。倫子(鈴木京香)の家で尾花(木村拓哉)や京野(沢村一樹)とテーブルを囲んで話すエリーゼの表情はどこか懐かしそうだった。エスコフィユが縁となって出会った相沢とエリーゼは、食を通して互いを理解し、結婚してアメリーが生まれた。家族ぐるみで交流があったエスコフィユだったが、「三ツ星を狙いだしてからは辛そうだった」。三ツ星を獲るために相沢は生活を犠牲にし、アレルギー食材混入事件ですべてが水泡に帰した。「私はミシュランを恨んでる」と話すエリーゼ。料理によって生まれた絆は、料理によって壊れてしまった。

 「胃袋をつかむ」という言葉には、食べる相手のために料理をするという側面もある。風邪をひいたアメリーは尾花がつくった好物のゼリーには手をつけず、エリーゼによる手作りのリオレ(ライスプディング)を口にする。そして、アメリーは尾花にある頼みごとをする。相沢とエリーゼのために尾花たちはスペシャルランチを企画。第3話でも登場した伝説のジビエ猟師・峰岸(石丸幹二)から食材を取り寄せ、新メニューの開発にいそしむ。「味付けが濃すぎる」という尾花に、「エリーゼはこれくらいのほうがいいんだ。僕のほうが彼女のことは詳しいからね」と相沢は返す。

 エリーゼはアメリーの好きなものを知っていて、相沢はエリーゼの好きなものを知っている。けれども、相沢はエリーゼがリオレをつくることを知らなかった。家族の間に生じた亀裂は、エリーゼが特製のガレットシャンピニオン(そば粉のクレープ)を食べたときに明らかになる。相沢が尾花とともにつくったガレットを一口食べて皿に置き、「どの料理も美味しい。それが嫌なの。これだけ美味しい料理をつくるのにどれだけ苦労したの? きっと今まで以上に寝る間を惜しんで努力して、それでアメリーとの時間を削り出していたのよね。なんでそこまでするのよ。そんな人にやっぱりアメリーは任せられない」というエリーゼの言葉に相沢は黙り込んでしまう。

 その光景を見た尾花は、エリーゼに取って置いた一皿を差し出す。それはアメリーがつくったフランボワーズのゼリー。表面にはクリームで「Maman(ママ)」の文字が。「あの子、いつの間にこんなことできるように」とエリーゼは驚く。帰国後、自宅で仕事をするようになった相沢はアメリーと一緒に料理をし、アメリーは母親のために尾花からつくり方を習っていたのだ。アメリーが料理をすることを知らなかったエリーゼ。離ればなれになっている間、誰よりも母親に帰ってきてほしいと願っていたのはアメリーだった。

 「トップレストラン50」でグランメゾン東京は初エントリーにして10位という快挙を達成、だがエスコフィユを越えることは叶わなかった。相沢はアメリーをエリーゼのもとに返すことを決断する。「アメリーをパリに連れて行ってよ」という相沢の言葉は、自分を信じてくれたのに裏切ってしまったエリーゼに対して、母親としての責任を果たそうとする気持ちを尊重したのだと思う。エリーゼは尾花に「あの人に三ツ星を獲らせてあげて」と言い、アメリーは相沢にエリーゼの言葉を伝える。断たれてしまった絆が、ひとりの幼い料理人の手でふたたびつながった。

 一方、丹後(尾上菊之助)率いるgakuはトップレストラン50で8位を獲得。最先端の技術を用いて未知の味覚を追求するgakuとシンプルに素材の旨味を追求するグランメゾン東京は対照的であり、まさに好敵手と言っていい関係だ。ヒートアップするライバルとの競争の陰で、3年前の事件や人間関係をめぐり、それぞれの思惑が渦巻いていた。そんな中、「お客様のことを理解している料理人は強いんだな」という尾花の言葉に深く頷いた第7話だった。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。

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