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米津玄師、ずっと真夜中でいいのに。がアルバムチャート1&2位 稀代のシンガーたちが象徴する“2020年代の幕開け”

リアルサウンド

20/8/15(土) 10:00

参考:2020年8月17日付週間アルバムランキング(2020年8月3日~2020年8月9日)

 昔からニッパチと言って2月と8月はモノが売れないそうですが、だからこそ、お盆のド真ん中、「すごい!」と声が出てしまいました。今週1位の米津玄師。前作の『BOOTLEG』(2017年)も余裕の初登場1位でしたが、最新作『STRAY SHEEP』は数字が違います。なんと初週で879,768枚。ほぼ90万人に近い人々が彼のアルバムをフィジカルで買い求めており、この記事が出る頃には男性ソロアーティストとしては16年ぶりのミリオンセラーを達成しています。

 周知の通り、“ボカロPのハチ”として創作活動をスタートさせた米津は、長らくネットに強いアーティストとして知られてきました。ニコニコ動画やYouTubeで爆発的に再生される、長い前髪に隠れた表情のよくわからない、ライブは苦手と公言する次世代アーティスト。どこか曖昧なイメージも、おそらく5年前くらいまで普通にあった気がします。

 それでもヒット曲とファンを着実に増やし、より大衆的なタイアップを次々と担当するうちに、彼自身の覚悟も世の中の認識も変わっていきました。特に、「Lemon」のヒットを経て初の『NHK紅白歌合戦』出場を果たした2018年になると、彼のポジションははっきりと次のフェーズに移行します。ネット云々はまったく関係ない、どの世代に支持されるという前置きも不要な、誰もが知る国民的シンガーへと。

米津玄師 MV「Lemon」

 ドラマ『ノーサイド・ゲーム』やラグビーW杯に熱狂した人々が「馬と鹿」を口ずさみ、小学生や幼稚園児までが「パプリカ」を歌って踊る現在。米津玄師のリスナーはネットにもCDショップにも、ラジオやテレビの前にも大勢いるのでしょう。近年のヒット曲をずらりと網羅した『STRAY SHEEP』は、まさに売れるべくして売れた最高のポップミュージック集。そしてこの成功が彼にとって喜ばしいのはもちろん、まだ無名の、ネットを通じて自分の表現を世に出そうとしている若きクリエイターたちにとっても、大きな希望になるのだと思います。

米津玄師 MV「馬と鹿」Uma to Shika
米津玄師 MV「パプリカ」Kenshi Yonezu / Paprika

 象徴的なアーティストの名前が2位にも見つかります。ずっと真夜中でいいのに。、通称“ずとまよ”。顔出しもなく詳細もまだ不明、2018年6月に「秒針を噛む」のミュージックビデオをYouTube投稿し、そこから活動を開始したという新たなアーティスト。作詞作曲を手がけるメインコンポーザーはACAね一人ですが、ボカロ界のクリエイターたちが共作や編曲で参加していたり、MVには多くのイラストレーターやアニメーターが関わっていたりと、さながらネットにひしめく才能のハブとして機能している面もありそう。不思議なハンドルネームがやたら目につくところは、“米津玄師と名乗る前のハチ”が大勢いるイメージでしょうか。いや、こんな過去例を持ち出すオトナとははっきり断絶した、新しい感性の牽引者がずとまよなのかもしれません。

ずっと真夜中でいいのに。『秒針を噛む』MV

 初週で2.7万枚を売り上げた新作『朗らかな皮膚とて不服』から伝わってくるのは、まだ活動して2年とは思えないクオリティの高さ。音数の多さとプログレ的展開は川谷絵音や初期米津玄師の手法に近く、まったりと聴かせる発想が希薄な、やたら起伏と転調の多い主旋律の作り方が、いかにもニコ動カルチャーを感じさせます。ただ、ずとまよの圧倒的な強さは声色にある。表情の豊かさという意味では椎名林檎くらい大胆不敵だし、切ないのに芯があるという意味ではYUIくらい人を惹きつけるものがある。基本的にハイトーンが多いけれど、収録曲「マリンブルーの庭園」を聴けば、低めのキーでそっと歌っても十分に通用するシンガーであることがわかります。

ずっと真夜中でいいのに。「マリンブルーの庭園」

 作詞作曲の才能に恵まれ、シンガーとしても頭抜けている。そういうアーティストが業界の大人に見出されるのではなく、YouTubeやニコ動からスッと出てくる時代。その事実や顔出しNGのスタイルにいちいち驚かなくなったのが2010年代のJ-POPシーンでした。となると、米津玄師&ずとまよのワンツーフィニッシュは、2020年代の幕開けと言えるのでしょう。

■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。

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